Cisco ATA 190 Analog Telephone Adapter の概要
ここでは、Cisco ATA 190 Analog Telephone Adaptor(ATA 190)のハードウェアおよびソフトウェアの特徴について説明します。さらに、Session Initiation Protocol(SIP)の概要についても説明します。
ATA 190 Analog Telephone Adapter は、通常のアナログ電話を IP ベースのテレフォニー ネットワーク上で動作させるための、ハンドセット/イーサネット間アダプタです。ATA 190 では 2 つの音声ポートをサポートしており、各ポートには個別の電話番号を割り当てることができます。また、RJ-45 10/100BASE-T データ ポートも備えています。
ここで説明する内容は次のとおりです。
図 1-1 シスコ アナログ電話アダプタ
セッション開始プロトコルの概要
Session Initiation Protocol(SIP)は、インターネット プロトコル(IP)を介してリアルタイムのコールおよび電話会議を行うための Internet Engineering Task Force(IETF)標準です。SIP は ASCII をベースとしたアプリケーション層の制御プロトコルであり(RFC3261 で規定)、これを使用すると 2 つ以上のエンドポイント間でマルチメディア セッションやコールを確立、維持、および終了できます。
他の Voice over IP(VoIP)プロトコルと同様に、SIP はパケット テレフォニー ネットワーク内でシグナリングとセッション管理の各機能を提供するように設計されています。シグナリングは、ネットワーク境界を越えてコール情報を伝送する機能です。セッション管理は、エンドツーエンド コールの属性を制御する機能です。
(注
) ATA 190 の SIP は RFC2543 に準拠しています。
ここでは、次の内容について説明します。
SIP 機能
SIP には次の機能があります。
- ターゲット エンドポイントの可用性を判別します。ターゲット エンドポイントが利用できずコールを確立できない場合、SIP はその原因について、着信側が通話中であったのか、それとも割り当てられた呼び出し回数内に応答しなかったのかを判別します。その後、ターゲット エンドポイントが使用できない理由を示すメッセージを返します。
- ターゲット エンドポイントの場所を判別します。SIP は、アドレス解決、名前のマッピング、コール リダイレクトをサポートします。
- ターゲット エンドポイントのメディア機能を判別します。Session Description Protocol(SDP)を使用して、エンドポイント間で共通する最下位レベルのサービスを判別します。会議を確立する際に、すべてのエンドポイントがサポートするメディア機能だけを使用します。
- 発信側エンドポイントとターゲット エンドポイントの間にセッションを確立します。コールを確立できる場合、SIP はエンドポイント間のセッションを確立します。SIP は通話中の変更もサポートします。たとえば、別のエンドポイントを会議に追加したり、メディアの特性やコーデックを変更したりすることができます。
- コールの転送および終了を処理します。1 つのエンドポイントから別のエンドポイントへのコール転送をサポートします。コール転送時に、転送先の通話者と新しいエンドポイント(転送元が指定)との間でセッションを確立します。また、転送先の通話者と転送元の通話者との間のセッションを終了させます。コールが終了した時点で、SIP はすべての通話者間のセッションを終了させます。会議は 2 人以上のユーザで構成されます。会議を確立するには、マルチキャスト セッションまたは複数のユニキャスト セッションを使用できます。
SIP のコンポーネント
SIP はピアツーピア プロトコルです。セッションでのピアはユーザ エージェント(UA)と呼ばれます。ユーザ エージェントは、次のいずれかの役割を持ちます。
- ユーザ エージェント クライアント(UAC):SIP 要求を開始するクライアント アプリケーション。
- ユーザ エージェント サーバ(UAS):SIP 要求を受信するとユーザに通知し、ユーザに代わって応答を返すサーバ アプリケーション。
通常、SIP エンドポイントは UAC と UAS の両方の働きをしますが、トランザクションごとにいずれか一方としてだけ機能します。エンドポイントが UAC として機能するか、あるいは UAS として機能するかは、要求を開始した UA によって決まります。
また、SIP ネットワークの物理コンポーネントは、アーキテクチャの観点からクライアントとサーバの 2 つのカテゴリに分類することもできます。図 1-2 に、SIP ネットワークのアーキテクチャを示します。
(注
) SIP サーバは、Lightweight Directory Access Protocol(LDAP)サーバ、データベース アプリケーション、拡張マークアップ言語(XML)アプリケーションなどの他のアプリケーション サービスと対話できます。これらのアプリケーション サービスは、ディレクトリ サービス、認証サービス、課金対象サービスなどのバックエンド サービスを提供します。
図 1-2 SIP アーキテクチャ
SIP クライアント
SIP クライアントには、次のものがあります。
- ゲートウェイ:コールを制御します。ゲートウェイはさまざまなサービスを提供しますが、最も一般的なものは、SIP 会議エンドポイントと他の端末タイプとの間での変換機能です。この機能には、伝送フォーマットの変換および通信プロシージャの変換が含まれます。また、音声・ビデオ コーデック間の変換、および LAN と交換回線網の両サイドにおけるコール設定や切断もゲートウェイの機能です。
- 電話機:UAS または UAC のいずれかとして機能します。ATA 190 は、SIP 要求を開始することも、要求に応答することもできます。
SIP サーバ
SIP サーバには、次のものがあります。
- プロキシ サーバ:プロキシ サーバは、クライアントからの SIP 要求を受信し、クライアントに代わってそれらの要求を転送する中間デバイスです。プロキシ サーバは、SIP メッセージを受信し、そのメッセージをネットワーク内の次の SIP サーバに転送します。プロキシ サーバは、認証、許可、ネットワーク アクセス コントロール、ルーティング、信頼性の高い要求再送信、セキュリティなどの各機能を備えています。
- リダイレクト サーバ:SIP 要求を受信し、要求からアドレスを抽出し、そのアドレスにマッピングできる他のアドレスがアドレス テーブルに含まれるかどうか確認した後、アドレス マッピングの結果をクライアントに返します。リダイレクト サーバは、メッセージの次の宛先となる、1 つ以上のホップに関する情報をクライアントに提供します。クライアントはネクスト ホップ サーバまたは UAS に直接接続します。
- 登録サーバ:現在位置の登録を求める、UAC からの要求を処理します。レジストラ サーバは、多くの場合リダイレクト サーバやプロキシ サーバと同じ場所に置かれます。
ハードウェアの概要
ATA 190 は小型で設置しやすいデバイスです。図 1-3 に、ATA 190 の背面パネルを示します。
図 1-3 ATA 190:背面図
このユニットは次のコネクタを備えています。
- 5V DC 電源コネクタ。
- 2 つの RJ-11FXS(Foreign Exchange Station)ポート。ATA 190 には、任意の標準アナログ電話デバイスに接続できる、2 つの独立した RJ-11 ポートがあります。各ポートは音声コールまたは FAX セッションのいずれかをサポートしており、両方のポートを同時に使用できます。
- ATA 190 には、ネットワーク ポートとして RJ- 45 10/100BASE-T データ ポートが 1 つ装備されており、コンピュータなどのイーサネット対応デバイスをネットワークに接続できます。
(注
) ATA 190 ネットワーク ポートは、デュプレックス方式および速度の自動ネゴシエーションを実行します。これは、10/100 Mbps の速度と全二重をサポートします。
ソフトウェア機能
ATA 190 がサポートしているプロトコル、サービス、方式は次のとおりです。
Secure Real-time Transport Protocol
Secure Real-Time Transport Protocol は、ネットワーク上の音声会話のセキュリティを確保して、リプレイ アタックから保護します。
(注
) 現在、ATA 190 はセキュアな電話会議をサポートしていません。セキュアな双方コールがサポートされます。
Fax パススルー
Name Signaling Event(NSE)ベースのパススルーおよび re-INVITE ベースのパススルーとは、単に G.711a/u コーデックを使用して FAX 通信を転送することです。
Transport Layer Security プロトコル
Transport Layer Security(TLS)は、インターネット上での電子メールなどのデータ通信を保護する暗号化プロトコルです。TLS の機能は、セキュア ソケット レイヤ(SSL)と同等です。
T.38 ファクス リレー
T.38 ファクス リレー機能を使用すると、デバイスは FAX 機を使って IP ネットワーク経由でファイルを送信できます。一般に、受信された FAX はイメージに変換されてから T.38 FAX デバイスに送信されます。ターゲットの T.38 FAX デバイスがこのイメージを受信すると、このデバイスによってイメージが元のアナログ FAX 信号に変換されます。
音声ゲートウェイを使って設定された T.38 ファクス リレーは、FAX 信号を復号化または復調してから IP で転送します。SIP コール制御プロトコルでは、初期 SIP INVITE メッセージ内の Session Description Protocol(SDP)エントリによって T.38 ファクス リレーが示されます。初期 SIP INVITE メッセージの後、コールが確立されて、音声モードから T.38 モードに切り替わります。Cisco Unified Communications 管理ページを使用すると、T.38 FAX 通信をサポートする SIP プロファイルを設定できます。
ATA 191 は、T38 FAX リレー バージョン 0(G3)のみをサポートしています。
サポートされる音声コーデック
ATA 190 でサポートされる音声コーデックは次のとおりです(他のネットワーク デバイスがサポートしているコーデックについては、各デバイスごとに確認してください)。
- G.711 mu-law
- G.711 A-law
- G.729a
- G.729ab
サポートされるその他のプロトコル
ATA 190 では次のプロトコルもサポートされます。
- 802.1Q VLAN タギング
- Cisco Discovery Protocol(CDP)
- ドメイン ネーム システム(DNS)
- Dynamic Host Configuration Protocol(DHCP)
- インターネット制御メッセージ プロトコル(ICMP)
- インターネット プロトコル(IP)
- Secure Real-Time Transport Protocol(SRTP)
- 伝送制御プロトコル(TCP)
- 簡易ファイル転送プロトコル(TFTP)
- ユーザ データグラム プロトコル(UDP)
- トランスポート レイヤ セキュリティ(TLS)
ATA 190 の SIP サービス
これらのサービスには、次の機能が含まれます。
- IP アドレス割り当て(DHCP による割り当て、または静的設定)
- Cisco Unified Communications Manager コンフィギュレーション インターフェイスによる ATA 190 の設定
- VLAN コンフィギュレーション
- Cisco Discovery Protocol(CDP)
- 低ビット レートのコーデック選択
- ユーザ認証
- 設定可能なトーン(リングバックトーン、リオーダー音、ダイヤル トーン、外部ダイヤル トーン、話中音、コール ウェイティング トーン)
- ダイヤル プランと PLAR
- SIP プロキシ サーバの冗長性
- プライバシー機能
- ユーザ設定可能な、コール ウェイティングの固定デフォルト設定
- G.711u/a および G.729ab 使用時の無音期間中のコンフォート ノイズ
- 発信者 ID 形式
- 呼び出し音間隔/電圧調整
- フックフラッシュ検出タイミングの設定
- 音声およびシグナリング イーサネット パケット用のタイプ オブ サービス(ToS)の設定
- デバッグおよび診断ツール
モデム標準
ATA 190 は次のモデム標準をサポートしています。
- V.90
- V.92
- V.44
- K56Flex
- ITU-T V.34 Annex 12
- ITU-T V.34
- V.32bis
- V.32
- V.21
- V.22
- V.23
FAX サービス
ATA 190 は次の 2 つのモードの FAX サービスをサポートしています。
- FAX パススルー モード:受信側で着信側ステーション ID(CED)トーンを検出し、G.711A-law/G.711µ-law を自動的に切り替えます。
- T.38 ファクス リレー モード:T.38 ファクス リレー機能を使用すると、デバイスは FAX 機を使って IP ネットワーク経由でファイルを送信できます。一般に、受信された FAX はイメージに変換されてから T.38 FAX デバイスに送信されます。ターゲットの T.38 FAX デバイスがこのイメージを受信すると、このデバイスによってイメージが元のアナログ FAX 信号に変換されます。音声ゲートウェイを使って設定された T.38 ファクス リレーは、FAX 信号を復号化または復調してから IP で転送します。
(注
) FAX 送信が成功するかどうかは、ネットワーク条件とその条件に対する FAX モデムの許容度によって決まります。ネットワークでのネットワーク ジッタ、ネットワーク遅延、およびパケット損失率は、ある程度低くなければなりません。
サポートされる方式
ATA 190 は、次の方式をサポートしています。詳細については、RFC3261(SIP: Session Initiation Protocol)を参照してください。
- REGISTER
- REFER
- INVITE
- BYE
- CANCEL
- NOTIFY
- OPTIONS
- ACK
- SUBSCRIBE
付加サービス
SIP 付加サービスを使用すると、電話サービスを拡張できます。これらのサービスの使用方法については、 SIP 付加サービスの使用 を参照してください。
ATA 190 は、次の SIP 付加サービスをサポートしています。
- Caller ID
- コール ウェイティング発信者 ID
- ボイス メール表示
- 会議通話の開始
- コール ウェイティング
- コール転送
- 発信側回線 ID
- 自動転送
- 在席転送
- 共有回線
- SpeedDial
- Meet-Me Conference
- コール ピックアップ/グループ コール ピックアップ
- Redial
- セキュアなコール
- C 割り込み
設置および設定の概要
表 1-1 に、ATA 190 を設置および設定するための基本的な手順を記載します。多数の ATA 190 を配置しなければならない標準的な SIP 環境で動作可能にするには、この手順に従うことができます。
表 1-1 ATA 190 を設置/設定して動作可能にするために必要な手順の概要
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1. ネットワークおよび ATA 190 の設定を計画します。 |
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2. イーサネット接続を配備します。 |
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3. 他のネットワーク デバイスを設置して設定します。 |
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4. ATA 190 を設置します。ただし、この時点ではまだ ATA 190 の電源をオンにしません。 |
ATA 190 の設置 |
5. ATA 190 の電源をオンにします。 |
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