Cisco IOS ソフトウェアの基礎知識
Cisco IOS ソフトウェアの使用方法について理解しておくと、ルータの設定を効率的に行うことができます。すでに Cisco IOS ソフトウェアを理解している場合は、次の章に進んでください。
この付録では、次の内容で基礎知識について説明します。
PC からのルータの設定
コンソール ポート経由で接続された PC からルータを設定するには、端末エミュレーション ソフトウェアを使用します。PC はこのソフトウェアを使用して、ルータにコマンドを送信します。以下の表に、実行しているオペレーティング システムに応じて使用できる一般的な端末エミュレーション ソフトウェアをいくつか示します。
表 1 端末エミュレーション ソフトウェアの種類
PC オペレーティング システム
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端末エミュレーション ソフトウェア
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Windows 95、Windows 98、Windows 2000、Windows NT、Windows XP
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HyperTerm(Windows ソフトウェアに組み込まれています)、ProComm Plus
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Windows 3.1
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Terminal(Windows ソフトウェアに組み込まれています)
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Macintosh
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ProComm、VersaTerm
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端末エミュレーション ソフトウェアを使用して、PC に接続されているルータの設定を変更できます。PC がルータと対話できるようにするため、ソフトウェアを次の標準 VT-100 エミュレーション設定に合わせて設定してください。
- 9600 ボー
- 8 データ ビット
- パリティなし
- 1 ストップ ビット
- フロー制御なし
この設定は、ご使用のルータのデフォルト設定に一致する必要があります。ルータのボー、データ ビット、パリティ、またはストップ ビットの設定を変更するには、ROM モニタのパラメータを再設定する必要があります。詳細については、「ROM モニタ」を参照してください。ルータ フロー制御設定を変更するには、グローバル コンフィギュレーション モードで flowcontrol コマンドを使用します。
ルータを設定するためにグローバル コンフィギュレーション モードを開始する手順については、この章で後述するグローバル コンフィギュレーション モードの開始の項を参照してください。
コマンド モードについて
ここでは、Cisco IOS コマンド モードの構造について説明します。コマンド モードは、それぞれ固有の Cisco IOS コマンド群をサポートしています。たとえば、interface type number コマンドを使用できるのは、グローバル コンフィギュレーション モードだけです。
次に示す Cisco IOS コマンド モードは、階層構造になっています。ルータ セッションを開始した時点では、ユーザ EXEC モードが有効です。
- ユーザ EXEC
- 特権 EXEC
- グローバル コンフィギュレーション
以下の表には、このマニュアルで使用されているコマンド モードを一覧し、各モードへのアクセス方法、各モードのプロンプト、モードを終了する方法および別のモードを開始する方法について説明します。各モードでは、設定するルータの要素がそれぞれ異なるため、モードの切り替えを頻繁に行わなければならない場合があります。特定のモードで使用できるコマンドの一覧を表示するには、プロンプトで疑問符(?)を入力します。各コマンドの詳細(構文も含む)については、Cisco IOS Release 12.3 のマニュアルを参照してください。
表 2 コマンド モードの概要
モード
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Access Method
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プロンプト
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モードの終了および開始
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モードの用途
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ユーザ EXEC
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ルータ セッションを開始します。
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Router>
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ルータ セッションを終了するには、logout コマンドを入力します。
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このモードは次の場合に使用します。
- 端末の設定変更
- 基本テストの実行
- システム情報の表示
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特権 EXEC
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ユーザ EXEC モードから enable コマンドを入力します。
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Router#
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- ユーザ EXEC モードに戻るには、disable コマンドを入力します。
- グローバル コンフィギュレーション モードを開始するには、configure コマンドを入力します。
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このモードは次の場合に使用します。
- ルータの動作パラメータを設定する。
- このマニュアルで説明されている確認手順を実行する。
ルータ コンフィギュレーションに対する不正な変更を防ぐため、イネーブル シークレット パスワードおよびイネーブル パスワードに説明されているようにパスワードを使用して、このモードへのアクセスを保護します。
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グローバル コンフィギュレーション
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特権 EXEC モードから configure コマンドを入力します。
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Router (config)#
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- 特権 EXEC モードに戻るには、exit または end コマンドを入力するか、Ctrl-Z を押します。
- グローバル コンフィギュレーション モードを開始するには、interface コマンドを入力します。
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このモードは、ルータにグローバルに適用するパラメータを設定する目的で使用します。
このモードからは次のモードにアクセスできます。
- インターフェイス コンフィギュレーション
- ルータ コンフィギュレーション
- ライン コンフィギュレーション
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インターフェイス コンフィギュレーション
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グローバル コンフィギュレーション モードから、interface コマンド(interfaceatm0 などの特定のインターフェイスで)を入力します。
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Router(config-if)#
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- グローバル コンフィギュレーション モードに戻る場合は、exit コマンドを入力します。
- 特権 EXEC モードに戻るには、end コマンドを入力するか、Ctrl-Z を押します。
- サブインターフェイス コンフィギュレーション モードを開始するには、interface コマンドを使用してサブインターフェイスを指定します。
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このモードは、ルータのイーサネット インターフェイスおよびシリアル インターフェイスまたはサブインターフェイスのパラメータを設定する目的で使用します。
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ルータ コンフィギュレーション
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グローバル コンフィギュレーション モードから、router コマンドのいずれかに、適切なキーワードとして、たとえば、routerrip を指定して入力します。
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Router (config- router)#
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- グローバル コンフィギュレーション モードに戻る場合は、exit コマンドを入力します。
- 特権 EXEC モードに戻るには、end コマンドを入力するか、Ctrl-Z を押します。
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このモードは、IP ルーティング プロトコルを設定する目的で使用します。
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ライン コンフィギュレーション
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グローバル コンフィギュレーション モードから、line コマンドに、目的の回線番号およびオプションの回線タイプとして、たとえば、line0 を指定して入力します。
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Router (config- line)#
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- グローバル コンフィギュレーション モードに戻る場合は、exit コマンドを入力します。
- 特権 EXEC モードに戻るには、end コマンドを入力するか、Ctrl-Z を押します。
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このモードを使用して、端末回線のパラメータを設定します。
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ヘルプの表示
疑問符(?)と矢印キーを使用すると、コマンドの入力に役立ちます。
疑問符を入力すると、そのコマンド モードで使用できるコマンドの一覧が表示されます。
Router> ?
access-enable Create a temporary access-list entry
access-profile Apply user-profile to interface
clear Reset functions
.
.
.
コマンドを完成させるには、わかっている文字を数文字入力し、続けて疑問符を入力します(スペースなし)。
Router> sh?
* s=show set show slip systat
コマンド変数のリストを表示するには、コマンドに続けてスペースと疑問符を入力します。
Router> show ?
.
.
.
clock Display the system clock
dialer Dialer parameters and statistics
exception exception information
.
.
.
UpArrow キーを押すと、直前に入力したコマンドが再表示されます。UpArrow キーを押し続けると、さらに前に入力したコマンドにさかのぼって、順に表示されます。
イネーブル シークレット パスワードおよびイネーブル パスワード
デフォルトでは、ルータはパスワード保護なしで出荷されます。特権 EXEC コマンドの多くは動作パラメータの設定に使用されるため、これらのコマンドをパスワードで保護して、不正使用を防止する必要があります。
パスワードの設定には、次の 2 つのコマンドを使用します。
- enablesecret password:非常にセキュアな暗号化パスワード
- enable password:やや安全性の低い、暗号化されていないローカル パスワード
enable および enablesecret のパスワードはどちらも、各種権限レベル(0 ~ 15)へのアクセスを制御します。enable パスワードはローカルで使用することを前提としているため、暗号化されません。enablesecret パスワードは、ネットワークで使用する、つまり、ネットワークを超えてパスワードを使用したり、TFTP サーバにパスワードを保管したりする環境での使用を前提としています。特権 EXEC モード コマンドにアクセスするには、権限レベル 1 の enablesecret または enable パスワードを入力する必要があります。
最大限のセキュリティを確保するには、これらのパスワードを別々のものにする必要があります。セットアップ時に両方のパスワードに同じ文字列を入力すると、ルータはそのパスワードを受け付けますが、異なったパスワードにするように指示する警告メッセージが表示されます。
enablesecret パスワードには、大文字小文字の英数字 1 ~ 25 文字を含めることができます。enable パスワードには、任意の数の大文字と小文字の英数字を使用できます。どちらのパスワードでも、先頭文字に数字は使用できません。パスワードにはスペースも使用できます。たとえば、two words は有効なパスワードです。先行スペースは無視されますが、後続スペースは認識されます。
グローバル コンフィギュレーション モードの開始
ルータのコンフィギュレーションを変更するには、グローバル コンフィギュレーション モードを使用する必要があります。ここでは、ルータのコンソール ポートに接続された端末または PC を使用して、グローバル コンフィギュレーション モードを開始する手順について説明します。
グローバル コンフィギュレーション モードを開始する手順は、次のとおりです。
手順の概要1.
ルータの起動後、enable または enablesecret コマンドを入力します。
2.
ルータにイネーブル パスワードを設定している場合は、プロンプトに対してそのパスワードを入力します。
3.
グローバル コンフィギュレーション モードを開始するには、configureterminal コマンドを実行します。
手順の詳細
ステップ 1
| ルータの起動後、enable または enablesecret コマンドを入力します。
例:
Router> enable
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ステップ 2
| ルータにイネーブル パスワードを設定している場合は、プロンプトに対してそのパスワードを入力します。
イネーブル パスワードは、入力しても画面に表示されません。次に、特権 EXEC モードを開始する例を示します。
例:
Password: enable_password
Router#
プロンプトにシャープ記号(#)が表示されることにより、特権 EXEC モードが開始されたことがわかります。この時点でルータ コンフィギュレーションの変更を行うことができます。
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ステップ 3
| グローバル コンフィギュレーション モードを開始するには、configureterminal コマンドを実行します。
例:
Router# configure terminal
Router(config)#
この時点でルータ コンフィギュレーションの変更を行うことができます。
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コマンドの使用方法
ここでは、コマンドライン インターフェイス(CLI)で Cisco IOS コマンドを入力するときに役立つヒントをいくつか紹介します。
コマンドの短縮形
コマンドを入力する際、ルータが一意のコマンドとして認識できる文字数だけを入力すれば十分です。次に、showversion コマンドを入力する例を示します。
Router # sh v
コマンドの取り消し
機能を無効にする、または入力したコマンドを元に戻すには、ほとんどのコマンドで前に no キーワードを付けます。たとえば、noiprouting のようにします。
コマンドライン エラー メッセージ
次の表に、CLI を使用してルータを設定するときに表示される可能性のあるエラー メッセージの一部を紹介します。
表 3 CLI の代表的なエラー メッセージ
エラー メッセージ
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意味
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ヘルプの表示方法
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% Ambiguous command:
"show con"
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ルータがコマンドとして認識できる十分な文字数を入力していません。
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再度コマンドを入力し、続けて疑問符(?)を入力します(コマンドと疑問符の間にはスペースは入れません)。
コマンドとともに入力できる利用可能なキーワードが表示されます。
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% Incomplete command.
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コマンドに必須のキーワードまたは値が、一部入力されていません。
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再度コマンドを入力し、続けて疑問符(?)を入力します(コマンドと疑問符の間にはスペースは入れません)。
コマンドとともに入力できる利用可能なキーワードが表示されます。
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% Invalid input detected at ‘^’ marker.
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コマンドの入力ミスです。エラーのある位置に、カレット記号(^)が表示されます。
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疑問符(?)を入力して、このコマンド モードで使用できるコマンドをすべて表示します。
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コンフィギュレーションの変更の保存
設定の変更は、システムのリロードや停電が発生した際に失われないように、copy running-configstartup-config コマンドを使用して NVRAM に保存する必要があります。次に、このコマンドを使用して変更を保存する例を示します。
Router# copy running-config startup-config
Destination filename [startup-config]?
Enter を押してデフォルトの保存先ファイル名である startup-config をそのまま使用するか、対象の保存先ファイル名を入力して Enter を押します。
コンフィギュレーションが NVRAM に保存されるまでに、1 ~ 2 分を要する場合があります。設定が保存されると、次のメッセージが表示されます。
Building configuration...
Router#
まとめ
以上、Cisco IOS ソフトウェアの基本事項について学習したため、ルータの設定作業を開始することができます。以下に留意してください。
- 疑問符(?)と矢印キーを使用すると、コマンドの入力に役立ちます。
- 各コマンド モードは、一定のコマンド セットに制限されています。コマンドの入力に問題が生じたときは、プロンプトを確認したあと、疑問符(?)を入力して、使用できるコマンドの一覧を表示してください。間違ったコマンド モードを使用しているか、構文が不正である可能性があります。
- 機能をディセーブルにするには、コマンドの前に no キーワードを挿入します。たとえば、noiprouting のように入力します。
- コンフィギュレーションの変更内容は NVRAM に保存して、システムの再ロード時または停電時に消失しないようにします。