エージェント型運用(AgenticOps)とは

AgenticOps は IT 向けの新しい運用モデルです。エージェントファーストであり、監視を付けた自律的なアクションを実行することを目的とし、人間とマシン両者のエクスペリエンスを統合するように設計されています。

AI からエージェントへ~これまでの経緯

アラートや推奨事項を示すにとどまる従来の AI を活用した IT 運用(AIOps)とは異なり、AgenticOps は、問題について推論しマシンの速度で動作する AI エージェントを使用することで、さらにその先を行きます。多数の画面を行き来せずに、1 つの共有ワークスペースを通してエージェントと連携することで、人間は孤立することなく、エージェントの動作を見守れる状態を維持できます。その結果、新たなタイプのクロスドメイン運用が実現し、問題の回避や解決が迅速化され、サポート案件が減少し、IT がリアルタイムで変化するようになります。何年もの間、AIOps は IT のスマート化を約束していましたが、主に想定されていたのは優れたアラートと見栄えの良いダッシュボードでした。これらは有用でしたが、依然として事後対応的でした。できることはマルウェアの検出どまりで、解決は人間のチームに委ねられていたのです。

これまでの進展

  • ルールとスクリプト(1980 年代~ 1990 年代):反復的なタスクの If/then による自動化。
  • 機械学習(2000 年代~ 2010 年代):逸脱検知とパターン認識のためのアルゴリズム。
  • 生成 AI(2020 年代初頭):流暢な説明、要約、回答を生成するモデル。ただし依然として事後対応型で質問ごとの応答に限定される。
  • エージェント型 AI(2020 年代半ば):エージェント(段階的な推論、タスクの整理、ツールやデータへのアクセス、目標達成に向けた他のエージェントや人間との調整が可能な自律型エンティティ)として動作する AI システム。

AI エージェントとは

AI エージェントは自律的なソフトウェアエンティティで、応答するだけでなく、判断して行動します。情報を提示するだけのチャットボットやダッシュボードとは異なり、エージェントは、人間が割り当てた目標とコンテキストを理解し、タスクを計画して実行し、状況に適応し、継続的に学習します。

企業規模の信頼性の高いエージェントは、次の 5 つの属性によって定義されます。

  • アイデンティティとコンテキスト:明確な役割、目的、範囲。
  • 推論:複雑な問題を分析し、代替案を検討し、コンテキストに応じた選択をします。
  • 拡張性:常時稼働のシステムで持続的に動作します。
  • セキュリティ:アクションは、ポリシー、権限、監査証跡によって制限されます。
  • 業務効率:推論と自動化を組み合わせることで、エージェントが手作業を削減し、成果を促進します。

これらの特徴を併せ持つエージェントは、アシスタント以上の存在になります。エージェントは「コラボレータ」となり、他のエージェントや人間と連携して業務を遂行できます。

エージェントレイヤとオーケストレーションレイヤ

エージェントは単独で機能するものではありません。監視エージェントが診断エージェントにデータを渡したり、修復エージェントが結果のログ記録を学習エージェントに送ったりするなど、タスクを互いに直接委ねることがあります。これらのやり取りは、単純で処理範囲が適切に定義されています。

ワークフローがさらに複雑になると、エージェントレイヤが介入し、タスクの細分化、作業の並列化、相反する結果の調整、コンテキスト共有の維持など、複数のエージェント間のコラボレーションを管理するようになります。エージェントレイヤは、基本モデル、微調整されたモデル、ドメイン固有のモデルなどの各種モデルを活用して、エージェントがインテリジェントに作業を分割し、推論を調整できるようにします。

その上にあるのがオーケストレーションレイヤです。このレイヤは、診断を開始する前にテレメトリを収集したり、修復前に修正を検証したりするなど、適切な順序で、明確なポリシーガードレールの範囲内でアクションが実行されるようにします。オーケストレーションはワークフロー主導型ですが、モデルを使用してオペレータの意図を解釈したり、各手順を検証したり、推論のトレースを生成したりすることもできます。

オーケストレーションレイヤ内では、モデル コンテキスト プロトコル(MCP)が連携を促進します。機能を統合するたびに個別に設定され限定的だった従来の API とは異なり、MCP は、エージェントが、モデル、ツール、データに接続する方法を標準化します。この標準化により、一貫性のある方法でのオーケストレーションが可能になり、エージェントは必要なリソースを安全に検出、アクセス、使用できるようになります。その結果、ポイントツーポイントの統合のみを使用した場合と比較して、インタラクションの柔軟性、拡張性、管理性が向上します。

エージェントレイヤとオーケストレーションレイヤの連携により、信頼性、説明可能性、反復性の高い自律的なアクションの実現が可能になります。

AgenticOps を選択する理由

最新の IT はあまりにも複雑、高速で、断片化されており、人間だけで対応することはできません。AIOps によって可視性は向上しましたが、できることは、アラートと推奨事項にとどまっていました。これが AIOps から AgenticOps に移行すべき理由です。

AgenticOps と AIOps の比較

概念AgenticOps従来の AIOps
自動化エージェントがシステム全体で推論し、計画し、行動するアラートと推奨事項には人間によるフォローアップが必要
ワークフロー適応型、エンドツーエンドのタスク実行静的な手順書(Playbook)とダッシュボード
ドメインの専門知識コンテキストと運用データを使用してトレーニングされたモデルを使用認識が限定的な汎用 ML に依存
推論問題を複数の手順に分け、代替策を検討し、リアルタイムで適応異常を明らかにするものの、推論は人間に委ねられる
規模常時稼働、マシン速度で動作人間のキャパシティとサイクルによって制限される
アイデンティティ(役割の認識)エージェントには定義された役割と責任がある永続的なアイデンティティはなく、機能は他から分離した状態で実行される
セキュリティアクションをポリシー、権限、監査証跡によって管理既存のシステム制御に限定
業務効率自律的な解決によって手作業を削減主に検出速度と可視化における機能向上を実現
判断推論トレースにより、監査可能で適応性のあるワークフローを作成実施指示書(Runbook)が固定応答を定義
確定性非決定論的推論:コンテキスト認識型、適応型の選択決定論的出力:常に同じ応答

 

まとめると、AIOps は IT が問題を早期に把握するのに役立ち、AgenticOps は、最新の環境が必要とする速度と規模で、IT が問題を解決することを可能にするということです。

シスコのアプローチ

AgenticOps に対するシスコのアプローチは、テレメトリ、インテリジェンス、コラボレーションを単一の一貫したフレームワークに統合することです。目標は、企業規模での信頼性の高いエージェント、つまり、コンテキストに基づいた推論、安全な行動、人間のオペレータとのシームレスな連携が可能なエージェントを実現することです。

  • アイデンティティとコンテキスト:Cisco AI Canvas では、各エージェントに監視、診断、修復、学習という定義された役割があるため、ワークフローはトレース可能、監査可能、およびコラボレーション可能になります。
  • 推論:Deep Network Model は、シスコの 40 年以上にわたる運用データ(CCIE の専門知識、実稼働テレメトリ、シスコのインサイト)を活用してトレーニングされているため、エージェントが、一般的なモデルでは不可能な精度と深度で推論できます。
  • 拡張性:シスコのプラットフォームは、キャンパス、ブランチ、クラウド、およびエッジに対応しています。エージェントは、Meraki、ThousandEyes、Splunk を含むシスコのエコシステム全体にわたるテレメトリをマシン速度で使用できます。さらに、シスコ製品全体に対して配置された MCP サーバーにより、エージェントは、標準化された拡張性の高い方法で必要なツールとデータにアクセスできます。
  • セキュリティ:すべてのアクションは、暗号化されたアクセス、透過的なアーキテクチャ、および推論トレースによって管理されます。オペレータは監視を継続し、任意の時点で検証、承認、またはオーバーライドを実行できます。
  • 業務効率:Cisco AI Assistant および AI Canvas は、人間とエージェントがリアルタイムでコラボレーションできる自然言語ワークスペースを提供し、複数画面での操作を統合された操作体験に置き換えます。

これらすべての機能を活用することで、シスコは、AgenticOps を設計段階からマルチデータ化し、NetOps と SecOps(セキュリティ運用)においてマルチプレイヤー化した上で、専用モデルによって動作させます。そしてこれらすべてに、信頼性の高い自律性を持たせます。

使用例

分散拠点での速度が低下しているとします。

  • 監視エージェントが ThousandEyes テレメトリの異常を検知します。
  • 診断エージェントは、検知結果を Meraki ワイヤレスログおよび Splunk インサイトと相関させます。
  • この複雑なワークフローでは、エージェントレイヤが複数のエージェントを調整し、タスクの分割、パストレースの並列実行、結果の照合を行います。
  • この時点でエージェントは、Cisco Deep Network Model を活用し、ドメイン固有の推論を適用して、汎用モデルでは見逃す可能性のあるパターンと根本原因を特定します。
  • オーケストレーションレイヤは、MCP を使用して、ポリシーに基づく次のステップである、修復を進める前にデータを検証するシーケンスを実行します。
  • 根本原因がわかりました。冗長パス上のルータの設定ミスです。
  • 修復エージェントが検証済みの修正を提案します。Cisco AI Assistant でエンジニアがレビューと承認を行うと、エージェントが自動的に適用します。
  • 学習エージェントがワークフローを記録し、次回の対応が改善されるように推論トレースを更新します。

AI Canvas では、テレメトリ、推論、アクション、検証のすべてが 1 ヵ所に表示されます。Cisco Deep Network Model はインテリジェンスを提供し、エージェントは複雑な作業を担当し、人間がコントロールを続けます。

ウォールームも、当て推量も、遅延もありません。信頼性と透明性を伴うマシンスピードでの解決が可能なのです。

リスクと責任

エージェントは瞬時に対応しますが、信頼は時間をかけて醸成されるものです。だからこそ、シスコではすべてのアクションが説明可能で、透過的で、元に戻すことができるようにしているのです。現時点では、お客様がコントロールを持ちます。しかし、時間の経過とともに信頼が築かれれば、AI に任せることができるようになります。自律性を最初から信頼できるように設計されているからです。

シスコは意図的にこのやり方を採用しています。つまり、

  • 透過的なアーキテクチャ、暗号化されたアクセス、監査証跡により、説明責任を確保します。
  • Deep Network Model は、ドメイン固有のエキスパートレベルの結果を提供します。
  • MCP サーバーは、エージェントがツールやデータに接続する方法を標準化し保護します。

これらすべてを活用することで、AgenticOps は、ノーチェックの自動化機構ではなく、自律性を実現するための信頼できるフレームワークとなります。

今後の展望

AgenticOps は、迅速な修正のためだけではなく、IT の未来のためのオペレーティングシステムです。デジタルツイン、ドリフト検出、継続的な学習により、業務を事後対応型のリアクティブなものから事前対応型のプロアクティブなものへと前進させます。信頼が構築されるにつれて、エージェントは管理された手順から自律的な解決へとその幅を広げていきます。この展開は、常に説明可能で、透過的で、管理されている必要があります。

シスコはすでにその基盤を築いています。ネットワーク、クラウド、セキュリティにわたってテレメトリ、推論、コラボレーションを統合することで、大規模環境でも信頼できる自律性を設計しています。

この方向への変化は明らかです。AIOps は問題の把握をサポートしますが、AgenticOps は問題の解決をサポートします。

リソース

AIOps とは

AI を活用した IT 運用(AIOps)では、効率性とパフォーマンスを目的として人工知能を活用します。

生成 AI とは

生成 AI は、人間の創造性を模倣して、ユーザーのリクエストに応じて独自のコンテンツを生成する種類の AI です。

エッジ AI とは

エッジ AI は、インサイトを迅速化し、リアルタイムの意思決定を改善するために、データをローカルで処理するものです。

ネットワーキングにおける AI とは

AI ネットワーキング テクノロジーは、自動化によって複雑な問題の解決を支援できるように設計されています。

製造業における AI とは

AI が自動化、品質管理、予測メンテナンスによって製造業を変革する仕組みをご確認ください。

責任ある AI とは

倫理的で、透明で、説明責任のあるテクノロジー開発のための責任ある AI の原則を理解できます。

Cisco AI ブログ

シスコが AI インフラストラクチャを実現するイノベーションでどのように業界をリードしているか、また、シスコが製品とカスタマーサービスのポートフォリオ全体で AI を活用した機能をどのように利用しているかをご覧ください。