OSPFv3 について
OSPFv3 は、IETF リンクステート プロトコル(概要 を参照)です。OSPFv3 ルータは、hello パケットと呼ばれる特別なメッセージを各 OSPF 対応インターフェイスに送信し、他の OSPFv3 隣接ルータを探索します。ネイバー ルータが発見されると、この 2 台のルータは hello パケットの情報を比較して、両者の設定に互換性のあるかどうかを判定します。これらのネイバー ルータは隣接を確立しようとします。つまり、両者のリンクステート データベースを同期させて、確実に同じ OSPFv3 ルーティング情報を持つようにします。隣接ルータは、各リンクの稼働状態に関する情報、リンクのコスト、およびその他のあらゆるネイバー情報を含むリンクステート アドバタイズメント(LSA)を共有します。これらのルータはその後、受信した LSA をすべての OSPF イネーブル インターフェイスにフラッディングします。これにより、すべての OSPFv3 ルータのリンクステート データベースが最終的に同じになります。すべての OSPFv3 ルータのリンクステート データベースが同じになると、ネットワークは収束します(「コンバージェンス」を参照)。その後、各ルータは、ダイクストラの最短パス優先(SPF)アルゴリズムを使用して、自身のルート テーブルを構築します。
OSPFv3 ネットワークは、複数のエリアに分割できます。ルータは、ほとんどの LSA を 1 つのエリア内だけに送信するため、OSPF 対応ルータの CPU とメモリの要件が緩やかになります。
OSPFv3 は IPv6 をサポートしています。IPv4 向けの OSPF の詳細については、OSPFv2 の設定を参照してください。
OSPFv3 と OSPFv2 の比較
OSPFv3 プロトコルの大半は OSPFv2 と同じです。OSPFv3 は RFC 2740 に記載されています。
OSPFv3 プロトコルと OSPFv2 プロトコルの重要な相違点は、次のとおりです。
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OSPFv2 を拡張した OSPFv3 では、IPv6 ルーティング プレフィックスとサイズの大きい IPv6 アドレスのサポートを提供しています。
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OSPFv3 の LSA は、アドレスとマスクではなく、プレフィックスとプレフィックス長として表現されます。
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ルータ ID とエリア ID は 32 ビット数で、IPv6 アドレスとは無関係です。
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OSPFv3 では、ネイバー探索およびその他の機能にリンクローカル IPv6 アドレスを使用します。
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OSPFv3 は、IPv6 認証トレーラ(RFC 6506)または IPSec(RFC 4552)を使用できます。ただし、Cisco NX-OS は RFC 6506 をサポートしておらず、Cisco NX-OS リリース 7.0(3)I3(1) 以降のRFC 4552 の一部のみをサポートしています。
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OSPFv3 では、LSA タイプが再定義されています。
Hello パケット
OSPFv3 ルータは、すべての OSPF イネーブル インターフェイスに hello パケットを定期的に送信します。ルータがこの hello パケットを送信する頻度は、インターフェイスごとに設定された hello 間隔により決定されます。OSPFv3 は、hello パケットを使用して、次のタスクを実行します。
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ネイバー探索
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キープアライブ
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双方向通信
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指定ルータの選定(「指定ルータ」セクションを参照してください)
hello パケットには、リンクの OSPFv3 コスト割り当て、hello 間隔、送信元ルータのオプション機能など、送信元の OSPFv3 インターフェイスとルータに関する情報が含まれます。これらの hello パケットを受信する OSPFv3 インターフェイスは、設定に受信インターフェイスの設定との互換性があるかどうかを判定します。互換性のあるインターフェイスはネイバーと見なされ、ネイバー テーブルに追加されます(「ネイバー」の項を参照してください)。
hello パケットには、送信元インターフェイスが通信したルータのルータ ID のリストも含まれます。受信インターフェイスが、このリストで自身の ID を見つけた場合は、2 つのインターフェイス間で双方向通信が確立されます。
OSPFv3 は、hello パケットをキープアライブ メッセージとして使用して、ネイバーが通信を継続中であるかどうかを判定します。ルータが設定されたデッド間隔(通常は hello 間隔の倍数)で hello パケットを受信しない場合、そのネイバーはローカル ネイバー テーブルから削除されます。
ネイバー情報
ネイバーであると見なされるようにするには、リモート インターフェイスと互換性があるように OSPFv3 インターフェイスを設定しておく必要があります。この 2 つの OSPFv3 インターフェイスで、次の基準が一致している必要があります。
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hello 間隔
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デッド間隔
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エリア ID(「エリア」の項を参照)
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認証
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オプション機能
一致する場合は、次の情報がネイバー テーブルに入力されます。
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ネイバー ID:ネイバー ルータのルータ ID
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優先度:ネイバー ルータの優先度。プライオリティは、指定ルータの選定(「指定ルータ」を参照)に使用されます。
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状態:ネイバーから通信があったか、双方向通信の確立処理中であるか、リンクステート情報を共有しているか、または完全な隣接関係が確立されたかを示します。
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デッド タイム:このネイバーから最後の hello パケットを受信したあとに経過した時間を示します。
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リンクローカル IPv6 アドレス:ネイバーのリンクローカル IPv6 アドレス
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指定ルータ:ネイバーが指定ルータ、またはバックアップ指定ルータとして宣言されたかどうかを示します(「指定ルータ」の項を参照)。
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ローカル インターフェイス:このネイバーの hello パケットを受信したローカル インターフェイス。
最初の hello パケットが新規ネイバーから受信されると、そのネイバーは、初期化状態のネイバー テーブルに入力されます。いったん双方向通信が確立されると、ネイバー状態は双方向となります。2 つのインターフェイスが互いのリンクステート データベースを交換するため、次に ExStart および交換状態となります。これらがすべて完了すると、ネイバーは完全な状態へと移行し、これが完全な隣接関係となります。ネイバーは、デッド間隔で hello パケットをまったく送信しない場合は、ダウン状態に移行し、隣接とは見なされなくなります。
隣接関係
すべてのネイバーが隣接関係を確立するわけではありません。ネットワーク タイプと確立された指定ルータに応じて、完全な隣接関係を確立して、すべてのネイバーと LSA を共有するものと、そうでないものがあります。詳細については、「指定されたルータ」セクションを参照してください。
隣接関係は、OSPFv3 のデータベース説明パケット、リンク状態要求パケット、およびリンク状態更新パケットを使用して確立されます。データベース説明パケットには、ネイバーのリンクステート データベースからの LSA ヘッダーが含まれます(「リンク状態データベース 」の項を参照)。ローカル ルータは、これらのヘッダーを自身のリンクステート データベースと比較して、新規の LSA か、更新された LSA かを判定します。ローカル ルータは、新規または更新の情報を必要とする各 LSA について、リンク状態要求パケットを送信します。これに対し、ネイバーはリンク状態更新パケットを返信します。このパケット交換は、両方のルータのリンクステート情報が同じになるまで継続します。
指定ルータ
複数のルータを含むネットワークは、OSPFv3 特有の状況です。すべてのルータがネットワークで LSA をフラッディングした場合は、同じリンクステート情報が複数の送信元から送信されます。ネットワークのタイプによっては、OSPFv3 は指定ルータ(DR)という 1 台のルータを使用して LSA のフラッディングを制御し、OSPFv3 の残りの部分に対してネットワークを代表する役割をさせる場合があります(「エリア」の項を参照)。DR がダウンした場合、OSPFv3 はバックアップ指定ルータ(BDR)を選択します。DR がダウンすると、OSPFv3 はこの BDR を使用します。
ネットワーク タイプは次のとおりです。
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ポイントツーポイント: 2 台のルータ間にのみ存在するネットワーク。ポイントツーポイント ネットワーク上の全ネイバーは隣接関係を確立し、DR は存在しません。
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ブロードキャスト: ブロードキャスト トラフィックが可能なイーサネットなどの共有メディア上で通信できる複数のルータを持つネットワーク。OSPFv3 ルータは DR および BDR を確立し、これらにより、ネットワーク上の LSA フラッディングを制御します。OSPFv3 は、よく知られている IPv6 マルチキャスト アドレス FF02::5 および MAC アドレス 0100.5300.0005 を使用して、ネイバーと通信します。
DR と BDR は、hello パケット内の情報に基づいて選択されます。インターフェイスは hello パケットの送信時に、どれが DR および BDR かわかっている場合は、優先フィールドと、DR および BDR フィールドを設定します。ルータは、hello パケットの DR および BDR フィールドで宣言されたルータと優先フィールドに基づいて、選定手順を実行します。最終的に OSPFv3 は、最も大きいルータ ID を DR および BDR として選択します。
他のルータはすべて DR および BDR と隣接関係を確立し、IPv6 マルチキャスト アドレス FF02::6 を使用して、LSA 更新情報を DR と BDR に送信します。次の図は、すべてのルータと DR との隣接関係を示しています。
DR は、ルータ インターフェイスに基づいています。1 つのネットワークの DR であるルータは、別のインターフェイス上の他のネットワークの DR となることはできません

エリア
OSPFv3 ネットワークを複数のエリアに分割すると、ルータに要求される OSPFv3 の CPU とメモリに関する要件を制限できます。エリアとは、ルータの論理的な区分で、OSPFv3 ドメイン内にリンクして別のサブドメインを作成します。LSA フラッディングはエリア内でのみ発生し、リンクステート データベースはエリア内のリンクにのみ制限されます。定義されたエリア内のインターフェイスには、エリア ID を割り当てることができます。エリア ID は、10.2.3.1 などの、数字またはドット付き 10 進表記で表現される 32 ビット値です。
Cisco NX-OS はエリアを常にドット付き 10 進表記で表示します。
OSPFv3 ネットワーク内に複数のエリアを定義する場合は、0 という予約されたエリア ID を持つバックボーン エリアも定義する必要があります。エリアが複数ある場合は、1 台以上のルータがエリア境界ルータ(ABR)となります。ABR は、バックボーン エリアと他の 1 つ以上の定義済みエリアの両方に接続します(次の図を参照)。

ABR には、接続するエリアごとに個別のリンクステート データベースがあります。ABR は、接続したエリアの 1 つからバックボーン エリアにエリア間プレフィックス(タイプ 3)LSA(「 ルート集約」セクションを参照)を送信します。バックボーン エリアは、1 つのエリアに関する集約情報を別のエリアに送信します。OSPFv3 エリアの図では、エリア 0 が、エリア 5 に関する集約情報をエリア 3 に送信しています。
OSPFv3 では、自律システム境界ルータ(ASBR)という、もう 1 つのルータ タイプも定義されています。このルータは、OSPFv3 エリアを別の自律システム(AS)に接続します。自律システムとは、単一の技術的管理エンティティにより制御されるネットワークです。OSPFv3 は、そのルーティング情報を別の自律システムに再配布したり、再配布されたルートを別の自律システムから受信したりできます。詳細については、「詳細な機能」のセクションを参照してください。
リンクステート アドバタイズメント
OSPFv3 はリンクステート アドバタイズメント(LSA)を使用して、固有のルーティング テーブルを構築します。
LSA タイプ
次のテーブルに、Cisco NX-OS でサポートされる LSA タイプを示します。
名前 |
名前 |
説明 |
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1 |
ルータ LSA |
すべてのルータが送信する LSA。この LSA には、すべてのリンクの状態とコストが含まれますが、プレフィックス情報は含まれません。ルータ LSA は SPF 再計算をトリガーします。ルータ LSA は指定ルータローカル OSPFv3 エリアにフラッディングされます。 |
2 |
ネットワーク LSA |
DR が送信する LSA。この LSA には、マルチアクセス ネットワーク内のすべてのルータの一覧が含まれますが、プレフィックス情報は含まれません。ネットワーク LSA は SPF 再計算をトリガーします。「指定ルータ」のセクションを参照してください。 |
3 |
エリア間プレフィックス LSA |
ABR が、ローカル エリア内の宛先ごとに外部エリアに送信する LSA。この LSA には、境界ルータからローカルの宛先へのリンク コストが含まれます。「エリア」のセクションを参照してください。 |
4 |
エリア間ルータ LSA |
エリア境界ルータが外部エリアに送信する LSA。この LSA は、リンク コストを ASBR のみにアドバタイズします。「エリア」の項を参照してください。 |
5 |
AS 外部 LSA |
ASBR が生成する LSA。この LSA には、外部自律システム宛先へのリンク コストが含まれます。AS 外部 LSA は、自律システム全体にわたってフラッディングされます。「エリア」の項を参照してください。 |
7 |
タイプ 7 LSA |
ASBR が NSSA 内で生成する LSA。この LSA には、外部自律システム宛先へのリンク コストが含まれます。タイプ 7 LSA は、ローカル NSSA 内のみでフラッディングされます。「エリア」の項を参照してください。 |
8 |
リンク LSA |
リンクローカル フラッディング スコープを使用して、すべてのルータによって送信される LSA(「フラッディングと LSA グループ ペーシング」のセクションを参照してください。この LSA には、このリンクのリンクローカル アドレスと IPv6 アドレスが含まれます。 |
9 |
エリア内プレフィックス LSA |
すべてのルータが送信する LSA。この LSA には、プレフィックスまたはリンク状態へのあらゆる変更が含まれます。エリア内プレフィックス LSA はローカル OSPFv3 エリアにフラッディングされます。この LSA は SPF 再計算をトリガーしません。 |
11 |
猶予 LSA |
再起動されるルータが、リンクローカル フラッディング スコープを使用して送信する LSA。この LSA は、OSPFv3 のグレースフル リスタートに使用されます。「ハイ アベイラビリティおよびグレースフル リスタート」を参照してください。 |
リンク コスト
各 OSPFv3 インターフェイスは、リンク コストを割り当てられています。このコストは任意の数字です。デフォルトでは、Cisco NX-OS が、設定された参照帯域幅をインターフェイス帯域幅で割った値をコストとして割り当てます。デフォルトでは、参照帯域幅は 40 Gbps です。リンク コストは各リンクに対して、LSA 更新情報で伝えられます。
フラッディングと LSA グループ ペーシング
OSPFv3 は、LSA のタイプに応じて、ネットワークのさまざまなセクションに LSA の更新をフラッディングします。OSPFv3 は、次のフラッディング スコープを使用します
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リンク ローカル:LSA は、ローカル リンク上でのみフラッディングされます。リンク LSA および猶予 LSA に使用されます。
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エリアローカル:LSA は、単一の OSPF エリア全体にのみフラッディングされます。ルータ LSA、ネットワーク LSA、エリア間プレフィックス LSAs、エリア間ルータ LSA、およびエリア内プレフィックス LSA に使用されます。
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AS スコープ:LSA は、ルーティング ドメイン全体にフラッディングされます。AS スコープは AS 外部 LSA に使用されます。
LSA フラッディングにより、ネットワーク内のすべてのルータが同じルーティング情報を持つことが保証されます。LSA フラッディングは、OSPFv3 エリアの設定により異なります(「エリア」の項を参照)。LSA は、リンクステート リフレッシュ時間に基づいて(デフォルトでは 30 分ごとに)フラッディングされます。各 LSA には、リンクステート リフレッシュ時間が設定されています。
ネットワークの LSA 更新情報のフラッディング レートは、LSA グループ ペーシング機能を使用して制御できます。LSA グループ ペーシングにより、CPU またはバッファの使用率を低下させることができます。この機能により、同様のリンクステート リフレッシュ時間を持つ LSA がグループ化されるため、OSPFv3 で、複数の LSA を 1 つの OSPFv3 更新メッセージにまとめることが可能となります。
デフォルトでは、相互のリンクステート リフレッシュ時間が 10 秒以内の LSA が、同じグループに入れられます。この値は、大規模なリンクステート データベースでは低く、小規模のデータベースでは高くして、ネットワーク上の OSPFv3 負荷を最適化する必要があります。
リンクステート データベース
各ルータは、OSPFv3 ネットワーク用のリンクステート データベースを保持しています。このデータベースには、収集されたすべての LSA が含まれ、ネットワークを通過するすべてのルートに関する情報が格納されます。OSPFv3 は、この情報を使用して、各宛先への最適なパスを計算し、この最適なパスをルーティング テーブルに入力します。
MaxAge と呼ばれる設定済みの時間間隔で受信された LSA 更新情報がまったくない場合は、リンクステート データベースから LSA が削除されます。ルータは、LSA を 30 分ごとに繰り返してフラッディングし、正確なリンクステート情報が期限切れで削除されるのを防ぎます。Cisco NX-OS は、すべての LSA が同時にリフレッシュされるのを防ぐために、LSA グループ機能をサポートしています。詳細については、「フラッディングと LSA グループ ペーシング 」のセクションを参照してください。
マルチエリア隣接関係(Multi-Area Adjacency)
OSPFv3 マルチエリア隣接関係により、複数のエリアにあるプライマリ インターフェイス上にリンクを設定できます。このリンクは、それらのエリア内の優先されるエリア内リンクになります。マルチエリア隣接関係では、OSPFv3 エリアにポイントツーポイントの番号なしリンクを確立し、そのエリアにトポロジ パスを提供します。プライマリ隣接関係はリンクを使用して、ネイバー ステートが full の場合に、ルータ LSA で対応するエリアの番号なしポイントツーポイント リンクをアドバタイズします。
マルチエリア インターフェイスは、OSPF の既存のプライマリ インターフェイス上の論理構成体として存在しますが、プライマリ インターフェイス上のネイバー ステートは、マルチエリア インターフェイスと無関係です。マルチエリア インターフェイスはネイバー ルータ上の対応するマルチエリア インターフェイスとの隣接関係を確立します。詳細については、マルチエリアの隣接関係の設定を参照してください。
OSPFv3 と IPv6 ユニキャスト RIB
OSPFv3 は、リンクステート データベースでダイクストラの SPF アルゴリズムを実行します。このアルゴリズムにより、パス上の各リンクのリンク コストの合計に基づいて、各宛先への最適なパスが選択されます。選択された各宛先への最短パスが OSPFv3 ルート テーブルに入力されます。OSPFv3 ネットワークが収束すると、このルート テーブルは IPv6 ユニキャスト RIB にデータを提供します。OSPFv3 は IPv6 ユニキャスト RIB と通信し、次の動作を行います。
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ルートの追加または削除
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他のプロトコルからのルートの再配布への対応
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変更されていない OSPFv3 ルートの削除およびスタブ ルータ アドバタイズメントを行うためのコンバージェンス更新情報を提供します(「複数の OSPFv3 インスタンス(Multiple OSPFv3 Instances)」を参照)。
さらに OSPFv3 は、変更済みダイクストラ アルゴリズムを実行して、エリア間プレフィックス、エリア間ルータ、AS 外部、タイプ 7、およびエリア内プレフィックス(タイプ 3、4、5、7、8)の各 LSA の変更の高速再計算を行います。
アドレス ファミリのサポート
Cisco NX-OS は、ユニキャスト IPv6 やマルチキャスト IPv6 などの複数のアドレス ファミリをサポートしています。アドレス ファミリに特有の OSPFv3 機能は、次のとおりです。
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デフォルト ルート
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ルート集約
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ルートの再配布
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境界ルータのフィルタ リスト
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SPF 最適化
これらの機能の設定時に IPv6 ユニキャスト アドレス ファミリ コンフィギュレーション モードを開始するには、address-family ipv6 unicast コマンドを使用します。
認証および暗号化
OSPFv3 メッセージに認証を設定して、ネットワークでの不正な、または無効なルーティング更新を防止できます。
RFC 4552 は、IPv6 認証ヘッダー (AH) またはカプセル化セキュリティ ペイロード (ESP) 拡張ヘッダーを使用して、OSPFv3 への認証を提供します。Cisco NX-OS 7.0(3)I3(1) 以降、Cisco NX-OS は、IPv6 AH ヘッダーを使用して OSPFv3 パケットを認証することにより、RFC 4552 をサポートします。
Cisco NX-OS は、IP セキュリティ(IPSec)認証方式と、メッセージ ダイジェスト 5(MD5)またはセキュア ハッシュ アルゴリズム 1(SHA1)アルゴリズムをサポートして、OSPFv3 パケットを認証します。OSPFv3 IPSec 認証は、コマンドを使用しする静的キーのみをサポートします。
Cisco NX-OS は、OSPFv3 メッセージの暗号化と認証の両方に IPSec ESP 方式もサポートしています。暗号化は、ESP 暗号化の AES または 3DES アルゴリズムと、ESP 認証の SHA-1 または NULL をサポートします。
Cisco NX-OS リリース 10.4(1)F 以降、Cisco NX-OS は、キーチェーン オプションを使用した暗号化または認証アルゴリズムとキーの構成をサポートしています。
IPSec 暗号化または認証は、OSPFv3 プロセス、エリア、インターフェイス、あるいはその両方に対して構成可能です。認証設定は、プロセスからエリア、インターフェイス レベルに継承されます。認証が 3 つのレベルすべてで構成されている場合、インターフェイス構成がプロセスおよびエリア構成よりも優先され、エリア構成はプロセス レベルよりも優先されます。
高度な機能
Cisco NX-OS は、ネットワークでの OSPFv3 の可用性やスケーラビリティを向上させる高度な OSPFv3 機能をサポートしています。
スタブ エリア
エリアをスタブ エリアにすると、エリアでフラッディングされる外部ルーティング情報の量を制限できます。スタブ エリアとは、AS 外部(タイプ 5)LSA(「リンク ステート アドバタイズメント」のセクションを参照)が許可されないエリアです。これらの LSA は通常、外部ルーティング情報を伝播するためにローカル自律システム全体でフラッディングされます。スタブ エリアには、次の要件があります。
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スタブ エリア内のすべてのルータはスタブ ルータです。「スタブ ルーティング」の項を参照してください。
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スタブ エリアには ASBR ルータは存在しません。
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スタブ エリアには仮想リンクを設定できません。
次の図に示す OSPFv3 自律システムでは、エリア 0.0.0.10 内のルータはすべて、外部自律システムに到達するために ABR を通過しなければなりません。エリア 0.0.0.10 は、スタブ エリアとして設定できます。

スタブ エリアは、外部自律システムへのバックボーン エリアを通過する必要のあるすべてのトラフィックにデフォルト ルートを使用します。デフォルト ルートは、プレフィックス長が IPv6 向けに 0 に設定されたエリア間プレフィックス LSA です。
Not-So-Stubby Area
Not-So-Stubby Area(NSSA)は、スタブ エリアに似ていますが、NSSA では、再配布を使用して NSSA 内で自律システム外部ルートをインポートできる点が異なります。NSSA ASBR はこれらのルートを再配布し、タイプ 7 LSA を生成して NSSA 全体にフラッディングします。または、このタイプ 7 LSA を AS 外部(タイプ 5)LSA に変換するよう、NSSA を他のエリアに接続する ABR を設定することができます。こうすると、ABR は、これらの AS 外部 LSA を OSPFv3 自律システム全体にフラッディングします。変換中は集約とフィルタリングがサポートされます。type-7 LSA の詳細については、「リンクステート アドバタイズ」のセクションを参照してください。
たとえば、OSPFv3 を使用する中央サイトを、異なるルーティング プロトコルを使用するリモート サイトに接続するときに NSSA を使用すると、管理作業を簡素化できます。NSSA を使用する前は、企業サイトの境界ルータとリモート ルータの間の接続を OSPFv3 スタブ エリアとして実行できませんでした。これは、リモート サイトへのルートはスタブ エリア内に再配布できないためです。NSSA が実装されたことで、企業ルータとリモートルータ間のエリアを NSSA として定義することにより、NSSA で OSPFv3 を拡張してリモート接続をカバーできます(NSSA の設定 セクションを参照)。
バックボーン エリア 0 を NSSA にできません。
仮想リンク
仮想リンクを使用すると、物理的に直接接続できない場合に、OSPFv3 エリア ABR をバックボーン エリア ABR に接続できます。次の図には、エリア 3 をエリア 5 経由でバックボーン エリアに接続する仮想リンクを示します。

また、仮想リンクを使用して、分割エリアから一時的に回復できます。分割エリアは、エリア内のリンクがダウンしたために隔離された一部のエリアで、ここからはバックボーン エリアへの代表 ABR に到達できません。
ルートの再配布
OSPFv3 は、ルート再配布を使用して、他のルーティング プロトコルからルートを学習できます。ルートの再配布のセクションを参照してください。リンク コストをこれらの再配布されたルートに割り当てるか、またはデフォルト リンク コストを再配布されたすべてのに割り当てるよう、OSPFv3 を設定します。
ルート再配布では、ルート マップを使用して、再配布する外部ルートを管理します。再配布を指定したルート マップを設定して、どのルートが OSPFv2 に渡されるかを制御する必要があります。ルート マップを使用すると、宛先、送信元プロトコル、ルート タイプ、ルート タグなどの属性に基づいて、ルートをフィルタリングできます。ルート マップを使用して、これらの外部ルートがローカル OSPFv3 AS でアドバタイズされる前に AS 外部(タイプ 5)LSA および NSSA 外部(タイプ 7)LSA のパラメータを変更できます。詳細については、「Route Policy Manager の設定」を参照してください。
ルート集約
OSPFv3 は学習したすべてのルートをあらゆる OSPF 対応ルータと共有するので、ルート集約を使用して、それぞれの OSPF 対応ルータにフラッディングされる固有のルートの数を削減した方がよい場合もあります。ルート集約により、より具体的な複数のアドレスが、すべての具体的なアドレスを表す 1 つのアドレスに置き換えられるため、ルート テーブルが簡素化されます。たとえば、2010:11:22:0:1000::1 と 2010:11:22:0:2000:679:1 を 1 つの集約アドレス 2010:11:22::/32 に置き換えることができます。
一般的には、エリア境界ルータ(ABR)の境界ごとに集約します。集約は 2 つのエリアの間でも設定できますが、バックボーンの方向に集約する方が適切です。こうすると、バックボーンがすべての集約アドレスを受信し、すでに集約されているそれらのアドレスを他のエリアに投入できるためです。集約には、次の 2 タイプがあります。
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エリア間ルート集約
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外部ルート集約
エリア間ルート集約は ABR 上で設定し、自律システム内のエリア間のルートを集約します。集約の利点を生かすには、これらのアドレスを 1 つの範囲内にまとめることができるように、連続するネットワーク番号をエリア内で割り当てます。
外部ルート集約は、ルート再配布を使用して OSPFv3 に投入される外部ルートに特有のルート集約です。集約する外部の範囲が連続していることを確認する必要があります。異なる 2 台のルータからの重複範囲を集約すると、誤った宛先にパケットが送信される原因となる場合があります。外部ルート集約は、ルートを OSPF に再配布している ASBR で設定してください。
集約アドレスの設定時に Cisco NX-OS は、ルーティング ブラック ホールおよびルート ループを防ぐために、集約アドレスの廃棄ルートを自動的に設定します。
高可用性およびグレースフル リスタート
Cisco NX-OS はハイ アベイラビリティをサポートしています。Cisco NX-OS システムでコールド リブートが発生した場合、ネットワークはシステムへのトラフィック転送を中止し、ネットワーク トポロジからシステムを削除します。このシナリオでは、OSPFv3 でステートレス リスタートが発生し、ローカル システム上のすべての隣接関係が削除されます。Cisco NX-OS はスタートアップ構成を適用し、OSPFv3 がネイバーを再発見して隣接関係を再度確立します。
プロセスで問題が発生すると、OSPFv3 は自動的に再起動します。再起動後、プラットフォームがネットワーク トポロジから除外されないように、OSPFv3 はグレースフル リスタートを開始します。手動で OSPF を再起動すると、ステートフル スイッチオーバーと同様のグレースフル リスタートが実行されます。どちらの場合も、実行コンフィギュレーションが適用されます。
グレースフル リスタート、つまり、Nonstop Forwarding(NSF)では、処理の再起動中も OSPFv3 がデータ転送パス上に存在し続けます。OSPFv3 はリスタートの実行が必要になると、最初にリンクローカル猶予(タイプ 11)LSA を送信します。この再起動中の OSPFv3 プラットフォームは NSF 対応と呼ばれます。
猶予 LSA には猶予期間が含まれます。猶予期間とは、ネイバー OSPFv3 インターフェイスは再起動中の OSPFv3 インターフェイスからの LSA を待つよう指定された時間です(通常、OSPFv3は隣接関係を切断し、ダウン状態または再起動中のOSPFv3インターフェイスからのすべてのLSAを廃棄します)。参加するネイバーは、NSF ヘルパーと呼ばれ、再起動中の OSPFv3 インターフェイスから発信されたすべての LSA を、インターフェイスがまだ隣接しているかのように保持します。
再起動中の OSPFv3 インターフェイスが稼働を再開すると、ネイバーを再探索して隣接関係を確立し、LSA 更新情報の送信を再開します。この時点で、NSF ヘルパーは、グレースフル リスタートが完了したと認識します。
![]() (注) |
再起動中の OSPFv3 インターフェイスが猶予期間の終了前に復旧しない場合、またはネットワークでトポロジの変更が発生した場合、OSPFv3 ネイバーは再起動中の OSPFv3 との隣接関係を切断し、通常の OSPFv3 再起動として扱います。 |
![]() (注) |
OSPFv3 のインサービス ソフトウェア アップグレード(ISSU)をサポートするには、グレースフル リスタートを有効にする必要があります。グレースフル リスタートを無効にすると、この構成では ISSU をサポートできないことを伝える警告が Cisco NX-OS から出されます。 |
複数の OSPFv3 インスタンス
Cisco NX-OS は、OSPFv3 プロトコルの複数インスタンスをサポートしています。デフォルトでは、すべてのインスタンスが同じシステム ルータ ID を使用します。複数のインスタンスが同じ OSPFv3 自律システムにある場合は、各インスタンスのルータ ID を手動で設定する必要があります。
OSPFv3 ヘッダーには、特定の OSPFv3 インスタンスの OSPFv3 パケットを識別するためのインスタンス ID フィールドが含まれます。この OSPv3 インスタンスを割り当てることができます。インターフェイスは、パケット ヘッダーの OSPFv3 インスタンス ID が一致しない OSPFv3 パケットをすべてドロップします。
Cisco NX-OS では、インターフェイス上に 1 つの OSPFv3 インスタンスのみが許可されます。
SPF 最適化
Cisco NX-OS は、次の方法で SPF アルゴリズムを最適化します。
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ネットワーク(タイプ 2)LSA、エリア間プレフィックス(タイプ 3)LSA、および AS 外部(タイプ 5)LSA 用部分 SPF:これらの LSA のいずれかが変更されると、Cisco NX-OS は、全体的な SPF 計算ではなく、高速部分計算を実行します。
-
SPF タイマー:さまざまなタイマーを設定して、SPF 計算を制御できます。これらのタイマーには、後続の SPF 計算の幾何バックオフが含まれます。幾何バックオフにより、複数の SPF 計算による CPU 負荷が制限されます。
BFD
この機能では、双方向フォワーディング検出(BFD)をサポートします。BFD は、転送パスの障害を高速で検出することを目的にした検出プロトコルです。BFD は 2 台の隣接デバイス間のサブセカンド障害を検出し、BFD の負荷の一部を、サポートされるモジュール上のデータ プレーンに分散できるため、プロトコル hello メッセージよりも CPU を使いません。
仮想化のサポート
OSPFv3 は、仮想ルーティングおよび転送(VRF)インスタンスをサポートしています。