「パビリオン側のニーズと、実際の建造物や電波状況などの条件を摺り合わせた最適な提案を図るために、事前に綿密な打ち合わせを図ったことが今回の成功の要因でした。私たちはさまざまな情報が走る伝送路としてコンバージド IP ネットワークを提案し、全体的なデザインを固めていきました」と語るのはシスコのグローバルシステムエンジニアリング本部の担当課長である大西正之だ。
スタッフ間の連絡はもちろん、パビリオン側が望む非常に高度なショーの実現や、VIP ルームのホスピタリティの提供にはさまざまな難しい問題が横たわっていた。例えば、火星探査機「マーズ・ローバー」の模型などが展示されたスペースでは、火星からのライブ映像を NASA 経由でリアルタイムに表示する。火星探索機が捉えた火星のライブ映像がアメリカ国外で公開されるのは、今回が初めてだ。そこで、このバックボーンとして、NASA とパビリオンの間で IP-Sec VPN が構築されたのである。その苦労を大西はこう回想する。 「セキュリティをはじめとする NASA の要求は非常に厳しいものでした。そこで、私自身が現地に赴いて、パビリオン側の代弁者として要件を詰めました。そんな努力が実を結び、来場者に喜んでもらえるサービスが実現したと自負しています」
また、五感にダイレクトに訴えかけるショーの各機器も、ハリウッドの特殊効果会社から IP-Sec VPN を介してシステムを米国から遠隔操作できる仕組みが築かれた。さらに実装段階では技術的難易度の高さとともに、工期のタイトさも厳しい要件となっていたのである。 「そこで、実装から運用までのパートナーとして、IP ネットワークやワイヤレス IP ネットワーク上の音声サービスに関して、豊富な知識と実績を築いてきた株式会社 PFU に協力をお願いしたのです」
そんなシスコの要請に応えた同社の東海カスタマサービス部オープンサービスセンター主任・森宏明氏はこう語る。 「私たちは、まだパビリオンが建設途中の段階からネットワーク構築を進めました。鉄材で囲まれた構造物内の電波の伝搬特性を把握することは難しく、さらにパーティショニングや展示物が設置されるたびに、その環境はどんどん変化していきます。そこでシミュレーションとサイトサーベイを繰り返し、最適な無線のチューニングを行なったのです」
また、館内のすべてに電波が高品質のまま届くと同時に、近隣パビリオンに影響を与えないように、電波が館外には漏れない工夫も求められた。さらに電波の中継点となるアクセスポイントの設置位置は電波効率だけでなく、ショーや展示スペースのデザインイメージや、ニューヨークのロフト感覚でゆったりしたくつろぎ空間を提供する VIP ルームのムードや景観を損なわないように細心の配慮が払われた。
タレスコ氏も、パビリオン内部の諸機能の完成に先立つ 2005年 1月には IP フォンやインターネット、Eメール、ボイスメールや無線 IP フォンなど、館内および外部とのコミュニケーション環境が整備されたことで、米本国とのやりとりや館内スタッフのモビリティが確保でき、開館準備やマネジメントの効率化も進んだと PFU の評価を語ってくれた。