モノづくり日本の復権を支える町工場のネットワーク

「刺しても痛くない注射針」、ペダルをこげば自転車のタイヤに空気が入る「エアーハブ」、中小企業の人工衛星「まいど 1号」など、世界が注目するこれらのものは町工場が開発あるいは開発中のものだ。日本のモノづくりを支えているのは、こうした技術力の高い元気な町工場にほかならない。そして最近は下請意識を変革し IT ネットワークを活用した町工場も元気になってきた。

INDEX

  1. 高い技術力と逆転の発想で元気な町工場
  2. 町工場にも景気回復の光が差し込み始めた
  3. 町工場をネットワークしてモノづくりを支援
  4. 日本のモノづくり復権に向けたネットワークの役割

高い技術力と逆転の発想で元気な町工場

だれも実現できなかった毛髪並みの太さの「刺しても痛くない注射針」を開発したのは、東京・墨田区の岡野工業。痛みを感じさせないために、注射針は外径 200ミクロン・内径 60ミクロン以下。しかもコストを抑えるにはプレス加工以外に選択肢はない。ところが、物理学の教授からプレス加工は「物理的に不可能」といわれたのだが、岡野代表社員は今まで培ったノウハウに裏付けられた高い技術力と、持ち前の負けじ魂で不可能を可能にした。こうした高い技術力を誇る岡野工業は、ほかでは不可能と思われた仕事が持ち込まれるモノづくりの駆け込み寺だ。そして引き受けた仕事は必ず実現することから、岡野代表社員は不可能を可能にする男、モノづくりのカリスマとして知られている。

また、自転車をこぐとタイヤに空気が入る「エアーハブ」を発明したのも、大阪の町工場である中野鉄工所。コストで太刀打ちできない中国製自転車に対して、付加価値の高いエアーハブ自転車を作ることで差別化が可能になった。またエアーハブの発明は、瀕死状態にあった自転車ハブ専業の中野鉄工所を復活させた。この発明の裏には、口を開けて仕事を待っている下請けから、リスクをとりながら仕事を創るメーカへという意識変革がある。そのためには親会社ではなく顧客に顔を向けなければならない。中野社長は「パンクの原因は空気圧の低下」という雑談から、消費者が快適に乗れる自転車をつくるために、「ペダルをこぎながらタイヤに空気を供給すればいい」という逆転の発想で、自ら開発リスクを負いながらそれを実現した。

多くの人に夢を与える町工場の人工衛星「まいど 1号」も、東大阪のボーイング社認定工場アオキの青木社長が先導しているプロジェクトだ。町工場の高い技術力と知恵をベースにしたネットワークで東大阪宇宙開発協同組合を結成し、2005年度の打ち上げをめざしている。これらの町工場は傑出した存在で例外と思われるかもしれないが、もともと町工場は世界に誇る高品質の日本製品の部品を作ってきただけに技術レベルは高い。下請けという受け身の立場からリスクをとって新たなことにチャレンジする意識改革を行うことで元気な町工場に生まれ変わることは間違いない。

次ページへ