IS-IS について
IS-IS は、ISO(国際標準化機構)/IEC(国際電気標準化会議)10589 に基づく IGP です。Cisco NX-OS は、インターネット プロトコル バージョン 4(IPv4)および IPv6 をサポートします。IS-IS はネットワーク トポロジの変化を検出し、ネットワーク上の他のノードへのループフリー ルートを計算できる、ダイナミック リンクステート ルーティング プロトコルです。各ルータは、ネットワークの状態を記述するリンクステート データベースを維持し、設定された各リンクにパケットを送信してネイバーを検出します。IS-IS はネットワークを介して各ネイバーにリンクステート情報をフラッディングします。ルータもすべての既存ネイバーを通じて、リンクステート データベースのアドバタイズメントおよびアップデートを送信します。
IS-IS の概要
IS-IS は、設定されている各インターフェイスに hello パケットを送信し、IS-IS ネイバー ルータを検出します。hello パケットには認証、エリア、サポート対象プロトコルなど、受信側インターフェイスが発信側インターフェイスとの互換性を判別するために使用する情報が含まれます。また、一致する最大転送ユニット(MTU)設定を持つインターフェイスだけを使用して IS-IS が隣接関係を確立できるように、hello パケットがパディングされます。互換インターフェイスは隣接関係を形成し、リンクステート アップデート メッセージ(LSP)を使用して、リンクステート データベースのルーティング情報をアップデートします。ルータはデフォルトで、10 分間隔で定期的に LSP リフレッシュを送信し、LSP は 20 分間(LSP ライフタイム)リンクステート データベースに残ります。LSP ライフタイムが終了するまでにルータが LSP リフレッシュを受信しなかった場合、ルータはデータベースから LSP を削除します。
LSP 間隔は、LSP ライフタイムより短くする必要があります。そうしないと、リフレッシュ前に LSP がタイムアウトします。
IS-IS は、隣接ルータに定期的に hello パケットを送信します。hello パケットに対して一時モードを設定すると、IS-IS が隣接関係を確立する前に使用された余分なパディングがこれらの hello パケットに含まれなくなります。隣接ルータの MTU 値が変更された場合、IS-IS はこの変更を検出し、パディングされた hello パケットを一定期間送信できます。IS-IS はこの機能を使用して、隣接ルータ上の一致しない MTU 値を検出します。詳細については、「Hello パディングの一時モードの設定」の項を参照してください。
IS-IS エリア
IS-IS ネットワークは、ネットワーク内のすべてのルータを含むシングル エリアとして設計することもできますし、バックボーンまたはレベル 2 エリアに接続する複数のエリアとして設計することもできます。非バックボーン エリアのルータはレベル 1 ルータで、ローカル エリア内で隣接関係を確立します(エリア内ルーティング)。レベル 2 エリアのルータは、他のレベル 2 ルータと隣接関係を確立し、レベル 1 エリア間のルーティングを実行します(エリア間ルーティング)。1 つのルータにレベル 1 エリアとレベル 2 エリアの両方を設定できます。これらのレベル 1/レベル 2 ルータは、エリア ボーダー ルータとして動作し、ローカル エリアからレベル 2 バックボーン エリアに情報をルーティングします(次の図を参照)。
レベル 1 エリア内のルータは、そのエリア内の他のすべてのルータに対する到達方法を認識します。レベル 2 ルータは、他のエリア境界ルータおよび他のレベル 2 ルータへの到達方法を認識します。レベル 1/レベル 2 ルータは 2 つのエリアの境界にまたがり、レベル 2 バックボーン エリアとの間で双方向にトラフィックをルーティングします。レベル 1/レベル 2 ルータはレベル 1 ルータの Attached(ATT)ビット信号を使用して、レベル 2 エリアに接続するため、このレベル 1/レベル 2 ルータへのデフォルト ルートを設定します。
エリア内に 2 台以上のレベル 1/レベル 2 ルータがある場合など、場合によっては、レベル 1 ルータがレベル 2 エリアへのデフォルト ルートとして使用するレベル 1/レベル 2 ルータを制御することもできます。Attached ビットを設定するレベル 1/レベル 2 ルータを設定できます。詳細については、「IS-IS 設定の確認」の項を参照してください。
Cisco NX-OS の IS-IS インスタンスは、レベル 1 またはレベル 2 エリアを 1 つだけサポートするか、またはそれぞれのエリアを 1 つずつサポートします。デフォルトでは、すべての IS-IS インスタンスが自動的にレベル 1 およびレベル 2 ルーティングをサポートします。

ASBR(自律システム境界ルータ)は、IS-IS AS(自律システム)全体に外部宛先をアドバタイズします。外部ルートは、他のプロトコルから IS-IS に再配布されたルートです。
NET およびシステム ID
IS-IS インスタンスごとにネットワーク エンティティ タイトル(NET)が関連付けられています。NET は、その IS-IS インスタンスをエリア内で一意に特定する IS-IS システム ID とエリア ID からなります。たとえば、NET が 47.0004.004d.0001.0001.0c11.1111.00 の場合、システム ID は 0001.0c11.1111.00、エリア ID は 47.0004.004d.0001 です。
DIS
IS-IS はブロードキャスト ネットワーク内で代表中継システム(DIS)を使用することにより、各ルータがブロードキャスト ネットワーク上の他のルータと不要なリンクを形成しないようにします。IS-IS ルータは DIS に LSP を送信し、DIS がブロードキャスト ネットワークのあらゆるリンクステート情報を管理します。エリア内で DIS を選択するために IS-IS に使用させる IS-IS プライオリティをユーザ側で設定できます。
![]() (注) |
ポイントツーポイント ネットワークでは DIS は不要です。 |
IS-IS 認証
隣接関係および LSP 交換を制御するために、認証を設定できます。ネイバーになろうとするルータは、設定されている認証レベルの同じパスワードを交換する必要があります。パスワードが無効なルータは、IS-IS によってブロックされます。IS-IS 認証はグローバルに設定することも、レベル 1、レベル 2、またはレベル 1/レベル 2 両方のルーティングに対応する個々のインターフェイスに設定することもできます。
IS-IS がサポートする認証方式は、次のとおりです。
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クリア テキスト:交換するすべてのパケットで、クリアテキストの 128 ビット パスワードが伝送されます。
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MD5 ダイジェスト:交換するすべてのパケットで、128 ビット キーに基づくメッセージ ダイジェストが伝送されます。
受動的攻撃から保護するために、IS-IS はネットワークを介してクリア テキストとして MD5 秘密キーを送信します。また、リプレイ アタックから保護するために、IS-IS は各パケットにシーケンス番号を組み込みます。
hello および LSP 認証用のキーチェーンも使用できます。キーチェーン管理の詳細については、「Cisco Nexus 3000 シリーズ NX-OS セキュリティ設定ガイド」を参照してください。
メッシュ グループ
メッシュ グループは一連のインターフェイスであり、グループ内では、インターフェイスを介して到達可能なすべてのルータが他の各ルータとの間に 1 つ以上のリンクを持ちます。多数のリンクで障害が発生しても、ネットワークから 1 つまたは複数のルータが切り離されることはありません。
通常のフラッディングでは、新しい LSP を受信したインターフェイスは、その LSP をルータ上の他のすべてのインターフェイスにフラッディングします。メッシュ グループを使用する場合、メッシュ グループに含まれているインターフェイスは新しい LSP を受信しても、メッシュ グループ内の他のインターフェイスには、新しい LSP をフラッディングしません。
![]() (注) |
特定のメッシュ ネットワーク トポロジーで、ネットワークのスケーラビリティを向上させるために、LSP を制限しなければならない場合があります。LSP フラッディングを制限すると、ネットワークの信頼性も下がります(障害発生時)。したがって、メッシュ グループはどうしても必要な場合に限り、慎重にネットワークを設計したうえで使用することを推奨します。 |
ルータ間のパラレル リンクに、ブロック モードでメッシュ グループを設定することもできます。このモードでは、各ルータがそれぞれリンクステート情報を最初に交換すると、それ以後はメッシュ グループのそのインターフェイスですべての LSP がブロックされます。
過負荷ビット
IS-IS は過負荷ビットを使用して他のルータに指示を与え、それらのルータがトラフィックの転送にローカル ルータを使用せずに、引き続きローカル ルータ宛てのトラフィックをルーティングするようにします。
過負荷ビットを使用する状況は、次のとおりです。
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ルータがクリティカル条件下にある。
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ネットワークに対して通常手順でルータの追加および除去を行う。
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その他(管理上またはトラフィック エンジニアリング上)の理由。BGP コンバージェンスの待機中など。
ルート集約
サマリー集約アドレスを設定できます。ルート集約を使用すると、固有性の強い一連のアドレスをすべての固有アドレスを代表する 1 つのアドレスに置き換えることによって、ルート テーブルを簡素化できます。たとえば、10.1.1.0/24、10.1.2.0/24、および 10.1.3.0/24 というアドレスを 1 つの集約アドレス 10.1.0.0/16 に置き換えることができます。
IS-IS はルーティング テーブルに含まれている固有性の強いルートが多いほど、固有性の強いルートの最小メトリックと同じメトリックを指定して、サマリー アドレスをアドバタイズします。
![]() (注) |
Cisco NX-OS は、自動ルート集約をサポートしていません。 |
ルートの再配布
IS-IS を使用すると、スタティック ルート、他の IS-IS 自律システムが学習したルート、または他のプロトコルからのルートを再配布できます。再配布を指定したルート マップを設定して、どのルートが IS-IS に渡されるかを制御する必要があります。ルート マップを使用すると、宛先、送信元プロトコル、ルート タイプ、ルート タグなどの属性に基づいて、ルートをフィルタリングできます。詳細については、ルート ポリシー マネージャの構成のセクションを参照してください。
IS-IS ルーティング ドメインにルートを再配布しても、デフォルトでは Cisco NX-OS がそのつど、IS-IS ルーティング ドメインにデフォルト ルートを再配布することはありません。IS-IS にデフォルト ルートを生成し、ルート ポリシーでそのルートを制御できます。
IS-IS にインポートされたすべてのルートに使用する、デフォルトのメトリックも設定できます。
ロード バランシング
ロード バランシングを使用すると、ルータは、宛先アドレスから等距離内にあるすべてのルータのネットワーク ポートにトラフィックを分散できます。ロード バランシングは、ネットワーク セグメントの使用率を向上させ、有効ネットワーク帯域幅を増加させます。
Cisco NX-OS は、等コスト マルチパス(ECMP)機能をサポートします。IS-IS ルート テーブルおよびユニキャスト RIB の等コスト パスは最大 64 です。これらのパスの一部または全部でトラフィックのロード バランシングが行われるように、IS-IS を設定できます。
BFD
この機能では、IPv4 および IPv6 用の双方向フォワーディング検出(BFD)をサポートします。BFD は、転送パスの障害を高速で検出することを目的にした検出プロトコルです。BFD は 2 台の隣接デバイス間のサブセカンド障害を検出し、BFD の負荷の一部を、サポートされるモジュール上のデータ プレーンに分散できるため、プロトコル hello メッセージよりも CPU を使いません。詳細については、『Cisco Nexus 3000 Series NX-OS Interfaces Configuration Guide』を参照してください。
仮想化のサポート
Cisco NX-OS は、IS-IS の複数のプロセス インスタンスをサポートします。各 IS-IS インスタンスは、システム制限まで複数の仮想ルーティングおよび転送(VRF)インスタンスをサポートできます。サポートされる IS-IS インスタンスの数については、『Cisco Nexus 3000 Series NX-OS Verified Scalability Guide』を参照してください。
高可用性およびグレースフル リスタート
Cisco NX-OS は、マルチレベルのハイ アベイラビリティ アーキテクチャを提供します。IS-IS は、ステートフル リスタートをサポートしています。これは、ノンストップ ルーティング(NSR)とも呼ばれます。IS-IS で問題が発生した場合は、以前の実行時状態からの再起動を試みます。この場合、ネイバーはいずれのネイバー イベントも登録しません。最初の再起動が正常ではなく、別の問題が発生した場合、RFC 3847 のとおり、IS-IS はグレースフル リスタートを試みます。グレースフル リスタート、つまり、Nonstop Forwarding(NSF)では、処理の再起動中も IS-IS がデータ転送パス上に存在し続けます。再起動中の IS-IS インターフェイスが稼働を再開すると、ネイバーを再探索して隣接関係を確立し、更新情報の送信を再開します。この時点で、NSF ヘルパーは、グレースフル リスタートが完了したと認識します。
ステートフル リスタートは次のシナリオで使用されます。
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プロセスでの問題発生後の最初の回復試行
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system switchover コマンドを使用したユーザー開始スイッチオーバー
グレースフル リスタートは次のシナリオで使用されます。
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プロセスでの問題発生後の 2 回目の回復試行(4 分以内)
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restart isis コマンドを使用したプロセスの手動再起動
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アクティブ スーパーバイザの削除
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reload module active-sup コマンドを使用したアクティブ スーパーバイザ リロード。
![]() (注) |
グレースフル リスタートがデフォルトとなっており、ディセーブルにしないことを強く推奨します。 |
複数の IS-IS インスタンス
Cisco NX-OS は、同じノード上で動作する、IS-IS プロトコルの複数インスタンスをサポートしています。同一インターフェイスには複数のインスタンスを設定できません。すべてのインスタンスで同じシステム ルータ ID を使用します。サポートされる IS-IS インスタンスの数については、『Cisco Nexus 3000 Series NX-OS Verified Scalability Guide』を参照してください。