2021 年グローバル ネットワーキング トレンド レポート

ビジネスレジリエンス特別版:混乱の時代の中で俊敏性とレジリエンスを向上させている 5 つのトレンドをご覧ください。

はじめに:レジリエンス

はじめに:事業継続からビジネスレジリエンスへ

個人も企業も COVID-19 のような長期にわたる世界的な混乱が起きることを予測しておらず、そのための準備もできていませんでした。突然ともいえるタイミングですべてのワークフォースがリモートワークを開始し、大急ぎで商品やサービスをオンラインで販売するようになった企業もあれば、戦略的なサプライチェーンを新しいサプライヤや地域に移行した企業もあります。

当然のことながら、このパンデミックはすべての国、地方自治体、および組織への警鐘となりました。では何が変わったのでしょうか。結局のところ、これは企業が直面した初めての苦境ではなく、10の組織のうち7つの組織は、過去 5 年で 1 回以上深刻な危機を経験しています。また、95% はこれが最後ではないと確信しています。1

多くの組織は過去 5 年で 1 回以上深刻な危機を経験しています。

サイバー攻撃、規制命令、社会不安などの人間によって引き起こされる混乱は、私たちにとって一般的になりつつあります。ハリケーン、山火事、洪水などの自然災害は世界中で増加しており、その発生頻度も高くなっています。

将来の混乱を乗り越えるには、IT リーダーが新しい考え方を取り入れる必要があります。ビジネスレジリエンスを確保するには、従来の事業継続計画の基盤となっている規範的でリアクティブなアプローチではなく、IT の俊敏性を新たな視点で重要視する考え方が必要です。今日の事業継続の取り組みとは異なり、ビジネスレジリエンスを確保すれば、組織は想定外の事態にも対応できるようになります。 

ビジネスレジリエンスと事業継続

  • 事業継続:混乱の後に事前定義済みの許容レベルで製品やサービスの提供を継続するための組織の能力。*
  • ビジネスレジリエンス:環境の変化に対応して目標を達成し、生き残って成功を収められるようにするための組織の能力。**

* 国際標準化機構、『Security and Resilience-Vocabulary』、ISO 22300-2018

** 国際標準化機構、『Security and resilience - Organizational resilience - Principles and attributes』、ISO 22316-2017

図 1. 事業継続からビジネスレジリエンスへ

図 1. 事業継続からビジネスレジリエンスへ

ネットワーキングの 5 つのトレンド

ネットワーク:ビジネスレジリエンスの確保に関する 5 つのトレンド

重要なビジネスプロセスは、組織のレジリエンスを確保するための基盤を提供し、ますます複雑化しつつあるデジタルテクノロジーに依存しています。

事業継続のプロフェッショナルの過半数(59.8%)は、IT レジリエンスが現在のパンデミックに対応するうえで最も重要な要素であると見ています。

ネットワークは、ダイナミックかつ分散化が進むユーザとデバイス、および分散化されつつあるアプリケーションとワークロードを結びつけ、保護する、唯一のプラットフォームとして、組織のレジリエンス構築を支援する上で中心的な役割を果たします。

言い換えれば、ネットワークの接続と稼働時間を維持するネットワークレジリエンスだけではもはや十分ではありません。企業には、あらゆる状況に迅速に対応したり、新しい運用モデルやサービスを実現したり、IT プロセスと統合したり、従業員、コアアクティビティ、顧客、およびブランドを保護したりできる高度なネットワーク プラットフォームによって実現されるレジリエンスが必要です。実際のところ、これはデジタル トランスフォーメーションのイニシアチブをサポートするのに必要となる高度なネットワークと同じです。                      

ネットワークレジリエンスとビジネスレジリエンスを確保するネットワーキング

  • ネットワークレジリエンス:準備した設備に基づいて、特定の通信ネットワークの通常運用で障害や課題が生じた場合にサービスの許容レベルを達成および維持するための能力。*
  • ビジネスレジリエンスを確保するネットワーキング:予想していた中断や不測の中断が生じた場合に組織が迅速、安全、かつ効率的に対応できるよう設計されたネットワーキング。 

* 国際電気通信連合、『Requirements for Network Resilience and Recovery』。

ワークフォース、ワークプレイス、ワークロード、および運用の俊敏性とレジリエンスの確保

シスコは、組織のレジリエンスを確保するための計画をサポートする取り組みの一環として、ネットワーキング担当のリーダーが考慮すべき 5 のトレンドに注目しました。これらのトレンドは、ワークフォース、ワークプレイス、ワークロードIT 運用という 4 つの重要な領域のレジリエンスを向上させることに関連しています。                      

図 2. ワークフォース、ワークプレイス、ワークロード、および運用のレジリエンスを確保するためのネットワークの基盤

図 2. ワークフォース、ワークプレイス、ワークロード、および運用のレジリエンスを確保するためのネットワークの基盤

ワークフォース – リモート、セキュア

トレンド #1:ワークフォース — リモートワークフォースにセキュリティを拡張

ほとんどの組織は、新しいより柔軟な働き方が従業員の恒久的な現実になるであろうことに気付いています。

パンデミックの前と比較して、現在では在宅勤務の従業員の数が平均で 4.7 倍になっています。多くの IT チームは、突然の需要に対応するために規模の拡大に取り組みました。

結果として、IT 部門には次のような新たなビジネス要件が課されています。

  • 従業員が場所を問わず生産性を向上させたり連携したりできるようにする
  • 各従業員の IT のパフォーマンス、コスト、およびセキュリティを最適化する
  • エンタープライズクラスの IT 運用とガバナンスを自宅にまで拡張する

ただし、こうした要件を満たすにあたっては、それぞれに課題があります。特に、リモートワーカーのセキュリティエンドユーザの行動は、大部分の IT 組織にとって常に懸念事項であり、課題となります。

リモートワーカーの実現における IT の課題トップ 4:

  1. セキュリティ(65%)
  2. エンドユーザの行動(52%)
  3. アプリケーション パフォーマンス(43%)
  4. IT 運用(35%)2

個人のデバイスと接続を使用して企業のアプリケーションやデータにアクセスした場合、リモートワーカーはサイバーセキュリティ攻撃に対して特に脆弱になります。多くの攻撃は VPN を回避し、今も最も防御するのが難しい環境であるパブリッククラウドのサービスやアプリケーションに直接アクセスします。3

ネットワークの考慮事項:大規模かつセキュアな在宅勤務モデルを実現するにあたり、IT チームは次のアプローチの一部、またはすべてを導入する必要があります。

  • VPN を拡張してリモートワーカーを保護する:エンタープライズ VPN は、今後もエンタープライズレベルの制御と保護をリモートワーカーに拡張するための最も効果的かつ迅速な手段の 1 つとなります。
  • 多要素認証(MFA)を使用してアプリケーションを保護する:MFA は、ネットワークの使用、または機密性の高いアプリケーションやデータへのアクセスを許可する前に各ユーザのアイデンティティを確認するものであり、組織を保護するうえで非常に重要です。
  • セキュア アクセス サービスエッジ(SASE)を導入してマルチクラウドアクセスを確実に保護できるようにする:クラウドベースのセキュリティと SASE は、接続、ユーザデバイス、またはクラウド環境にかかわらず、インターネットベースの脅威を防ぐのに役立ちます。

図 3. VPN、MFA、および SASE によるリモートワークフォースの保護

図 3. VPN、MFA、および SASE によるリモートワークフォースの保護

ワークフォース – 安全性、信頼性

トレンド #2:ワークプレイス — オンプレミスの職場への安全な復帰を可能にする

多くの疑問が残されているものの、現在のパンデミックを受けてワークプレイスが進化していくのは明らかです。現在では、数え切れないほどの企業がビデオ会議やロケーションベースの Wi-Fi といった既存のサービスの強化に取り組んでいます。また、物理的距離の監視、近接度の報告、さらなるワークプレイスの自動化、そして人間の生産性向上とコミュニケーションをサポートするロボットなどの新しいサービスや防衛手段を導入している企業もあります。

ワークプレイスへの安全な復帰に関するネットワーキングチームの取り組み

  • 62% がより広範なビデオ会議を導入しています。

  • 38% が安全な労働環境を確保するためにソーシャルな密集状態を分析しています。

  • 36% がリモート NetOps およびヘルプデスクに重点を置いています。

  • 32% がソーシャルディスタンスを維持するために近接度を報告する機能を導入しています。

  • 30% が温度カメラ、高度な空気ろ過、非接触型のエレベーター制御などの新しいワークプレイスの安全対策を確立しています。

出典:『2020 Cisco Business Resilience Networking Survey』

ネットワークの考慮事項:最新のアジャイルネットワークは、従業員の安全かつシームレスなオンプレミスへの復帰を促進する重要な原動力です。

  • ネットワークのストレステストを行う:多くの場合、ネットワークは何週間も停止されています。引き続き必要な有線およびワイヤレスサービスを利用できるのが当たり前だと思ってはなりません。

  • アイデンティティベースのセキュアアクセスを自動化する:組織は、オンプレミス、自宅、またはパブリックネットワークなど、接続元にかかわらず、一貫した方法でユーザとデバイスのオンボーディング、およびサービスへの接続を管理、保護、セグメント化できなければなりません。

  • ロケーションベース分析で従業員と顧客の安全性を高める:ワークプレイスの監視、アラート、および分析を可能にし、既存の Wi-Fi ネットワークを活用して従業員、パートナー、ゲスト、顧客の正常性と安全性を確保できるようにします。

ワークロード – マルチクラウド

トレンド #3:ワークロード — マルチクラウドを導入してレジリエンスを向上

世界的なパンデミックを受け、IT リーダーはビジネスレジリエンスを向上させる手段としてクラウドサービスを使用しています。これには、アプリケーション、ワークロード、およびデータをオンプレミスデータセンターとパブリック クラウド プロバイダーに分散して、コストを削減したり、柔軟性を向上させたり、壊滅的な障害を防いだり、そうした障害のリスクを分散したりするマルチクラウドモデルの導入の拡大が含まれます。

21% の組織が、パンデミックに関連する CapEx の問題が発生していることから、パブリッククラウドに移行するワークロードを増やしています。

ネットワークの考慮事項:ユーザと DevOps チームのエクスペリエンスの一貫性を確保するために、組織にはネットワークとクラウド、セキュリティ、および IT 運用の優先事項を一致させる、プロアクティブなマルチクラウド ネットワーキング戦略が必要です。

成功をもたらすマルチクラウド ネットワーキング戦略では、次の 3 つの大きな柱がベースとなります。

  • ワークロード:クラウド運用モデルを導入し、オンプレミスデータセンター、複数の異なるクラウド、およびその他のコンピューティング環境全体にわたるワークロードとサービスのポリシー、セキュリティ、管理を簡素化します。
  • アクセス:SD-WANSASE のアプローチを導入し、キャンパス、ブランチ、自宅からの、または出先での企業ネットワークとパブリックネットワーク全体にわたるユーザとデバイスの(SaaS を含む)マルチクラウドアクセスを一貫した方法で確実に保護できるようにします。
  • セキュリティ:複数のクラウドやその他のコンピューティング環境に分散したユーザ、デバイス、およびアプリケーションに関連するリスクを軽減します。

図 4. マルチクラウドネットワーク:ワークロード、アクセス、セキュリティ

図 4. マルチクラウドネットワーク:ワークロード、アクセス、セキュリティ

運用 – 自動化

トレンド #4:運用 — 運用を自動化してリカバリを高速化

分散したリモートワーカーの急増だけが、今日の NetOps チームに大きな負担をかける要因となっているわけではありません。パンデミックも、クライアント数、アプリケーション トラフィック パターン、そして E ラーニング、ビデオ会議、仮想イベント、遠隔医療、プロセス自動化、およびその他のネットワークに依存するサービスといった新しいユースケースのかつてない急激な変動に拍車をかけました。

50% は、今日の混乱に対応するためにネットワークの自動化を優先しています。

『2020 Cisco Business Resilience Networking Survey』

そのため、今日のネットワーク プロフェッショナルの半数が、ネットワーク自動化を混乱の中でサービスとパフォーマンスを維持するための重要な要件であると認識しているのは驚くことではありません。

出典:シスコ、『2020 Global Networking Trends Report』

ネットワークの考慮事項:NetOps チームは、次のようなステップバイステップのアプローチで継続的に改善を図り、増大する混乱や脅威に迅速に対応できます。

  • ネットワークのプロビジョニング、構成、イメージ管理などの反復的な管理タスクを自動化して管理の負担を軽減し、各ドメインのコンプライアンスを向上させます。
  • ネットワークのアクセス、オンボーディング、およびセグメンテーションを自動化して分散したユーザやモノのグループを保護し、サイバーセキュリティ攻撃の拡大を抑えます。
  • アプリケーションとデータを保護してワークロードを監視するアプリケーション中心のセグメンテーションにより、エンタープライズ データ センター内のネットワークポリシーを自動化します。
  • オンプレミス環境とハイブリッドクラウド環境にわたる一貫したアプリケーションポリシーを実現するクラウド運用モデルにより、データセンターだけでなく、クラウドまでのポリシーを自動化します。
  • エンドツーエンドのマルチドメイン ポリシーベースのセグメンテーションを自動化し、ユーザやモノからワークロードへの一貫したエンドツーエンドのゼロトラストアクセスモデルを確立します。

35% が 2022 年までにすべてのドメインのネットワークをインテントベースに移行する計画を立てています(その割合は 2019 年にはわずか 4% でした)。

図 5. ユーザからワークロードまでの場所を問わない自動化とインサイト

図 5. ユーザからワークロードまでの場所を問わない自動化とインサイト

運用 – AI 対応

トレンド #5:運用 – AI を搭載したネットワーク分析機能を活用してよりスマートなインサイトを得る

特に混乱が起きている状況では、複雑で大規模な最新のネットワークと、それに起因する複数の分散した監視プラットフォームに影響をもたらす大量のイベントや問題の管理は、大きな負担であると同時に非効率的になる可能性があります。

4,400:エンタープライズ ネットワークのワイヤレスに関連する 1 ヵ月のイベントの平均数。*

出典:『Cisco telemetry: Cisco Catalyst Center, 2020』

* 600 を超えるエンタープライズ ネットワークに基づきます。イベントには、オンボーディングの失敗/時間、無線スループット、DHCP の応答時間/失敗が含まれます。こうしたイベントの数は、AI 対応の動的な基準設定によってすでに削減されています。

スマートかつタイムリーに修復の判断を下せるよう、NetOps チームが高度な分析を活用しなければならないのは明らかです。

AI 対応のネットワーク分析と機械学習の手法を利用することにより、NetOps チームは自らで可能なレベルをはるかに超える問題を解決しています。                      

全世界で見てみると、Cisco Catalyst Center 内のアプリケーションである Cisco AI Network Analytics は、1 ヵ月に 260 万件発生する「イベント」の 1 万 5,080 件の「問題」を実際に解決し、99.4% の削減率を達成しています。*

出典:『Cisco telemetry: Cisco Catalyst Center, 2020』

* 700 を超える全世界のエンタープライズ ネットワークに基づきます。

このような削減により、チームは本当に重要なビジネスに悪影響を及ぼす可能性がある事柄に全力を注ぐことができています。

そしてこうした問題は、もはやエンタープライズ ネットワークだけに限られるものではありません。今では、ネットワークのトランザクションの大部分が従来のエンタープライズ ネットワークの外部で発生するか終了しているため、NetOps チームには、接続しているパブリックネットワークの可視性と分析も必要です。これは、最近のパンデミックのような異常なストレスがある中では特に重要です。                       

図 6. パンデミックの中で増加するクラウドおよびインターネットサービスの中断

図 6. パンデミックの中で増加するクラウドおよびインターネットサービスの中断

Cisco ThousandEyes は、2020 年 2 月から 3 月の間に ISP とクラウドプロバイダーのネットワークの中断がそれぞれ 61% と 44% 増加したことを確認しました。

ネットワークの考慮事項:膨大なイベントを把握するために、NetOps チームは AI 対応のネットワーク分析およびアシュアランスシステムを導入して以下を実現する必要があります。

  • より正確な検出:ネットワークドメイン内とネットワークドメイン全体の自動化された問題および異常検出の精度を高めます。
  • より迅速な修復:イベントを関連付けて最も可能性の高い問題や異常の根本原因を特定し、それについて明確に説明します。
  • ポリシー管理の自動化:デバイス、アプリケーション、およびトレンドを特定し、推奨されるポリシーアップデートを提供します。
  • パフォーマンス低下の抑制:パターンとトレンドを特定し、プロアクティブなアクション、修正アクション、および予防アクションを迅速化するコンテキストに即したインサイトを提供します。
  • ピアインテリジェンス:ネットワーク管理者が使用しているネットワークのパフォーマンスと全世界、業界、または地域のベンチマークを比較するのに役立つインテリジェンスと分析情報を提供します。

AI 対応のインサイトを使用してネットワークの管理を強化する方法をご覧ください。

最後に

結論:高度なネットワーク プラットフォームでビジネスレジリエンスを向上

破壊的な出来事は、私たちのキャリアを通じて私たちとネットワークに課題をもたらし続けます。今こそ、ネットワーク戦略を策定してビジネスレジリエンスに関する戦略を実現し、次に起きる大きな出来事の一歩先を行くのに最も必要な新しいネットワーク機能の優先順位を決定する方法を見直すべきときです。

インテントベース ネットワークがもたらす自動化と AI 対応のインサイトにより、あらゆる状況に適応するのに役立つ強力なプラットフォームが実現します。自動化と AI 対応のインサイトは、以下のレジリエンスを確保するのに必要な俊敏性、セキュリティ、インテリジェンス、およびスピードをもたらします。

  • ワークフォース:自宅、オフィス、またはそれ以外のあらゆる場所で働く従業員が、セキュアなエンタープライズクラスのパフォーマンスとアプリケーションへのアクセスを実現できるようにします。
  • ワークプレイス:Wi-Fi 対応の監視、アラート、および分析機能により、従業員が安全にオフィスに復帰できるようにします。
  • ワークロード:マルチクラウド レジリエンス モデルの導入を促進し、パブリッククラウドとオンプレミスデータセンターのワークロードの場所にかかわらずデータとアプリケーションを保護します。
  • 運用:可視性を向上させてアラートを削減し、より迅速な修復を可能にすると同時に、エンドツーエンドのネットワークポリシーとセグメンテーションを自動化し、管理タスクを簡素化します。

今日のネクストノーマルの時代においては、将来のあらゆる状況に対応できるネットワークを構築することが重要です。ビジネスレジリエンス戦略について考えるときには、どのようにすれば既存のネットワークをその戦略の重要なイネーブラにできるのかを検討してください。