― よくご自分を負けず嫌いとおっしゃるわりには、非常にうまく負けや失敗とつきあわれているような気がしますが…。
大事なことは勝つことじゃなくて、チャレンジすることで得られる「何か」だと思うんです。だから、失敗したほうがかえってタメになる。ボクなんて失敗ばっかりだから、ホントにしょっちゅうタメになることばかり (笑) 。勝ったときのことやうまくいったときのことは、不思議なくらい覚えてないですね。失恋とか受験の失敗とか、悔しかった経験がボクのバネになっているような気がします。
人間って、負けることを怖れていると、どんどん小利口になって動かなくなるでしょう? 本質的にチャレンジというのは、自分から枠を取り払って、本当の自分自身に向かっていく行為だと思う。そうすると、どんどん自然体になって、肩の力が抜けていくんですよ。現代社会はその逆。その最たるものが F1 時代のモナコでの生活でした。人間の煩悩や欲求をムリヤリ駆り立てるような不自然な生活はバカらしいですよ。その反動として、山に向かったような部分もあるかもしれませんね。
― F1 時代から、登山に挑戦されていましたが、技術の最先端にあるF1と大いなる自然界とでは、やはり「勝負」の感覚も微妙に異なるのでは?
本当に一生懸命やり尽くしたら、勝ち負けなんか関係ないと思います。やはり、全力で夢に向かうことが大事。結果を気にしたら、チャレンジはできないんじゃないでしょうか。
イヤなのは納得のいかない負け方をしたとき。つまり、自分との勝負に負けたときです。そういう「ホントじゃない負け」はイヤですね。わだかまりがいつまでも残ってしまう。結果として、失敗は失敗、負けは負けだから、それは潔く認めなきゃダメ。負けてあれこれ言い訳するヤツには、負けたくせにカッコつけんなよ、と思います。
たとえば、山でストームに遭ったら、ありとあらゆる力を駆使して生き延びようとしますよね。そうやって生還すると、それまでよりちょっとだけ強くなれた自分がいるんです。たぶん、それはわずか 0.5% くらいの進歩だと思うんですが、その 0.5% を体感できるというのがスゴイことなんですよ。何の苦もなく成功して帰ってきたら、たぶん、そうはいかない。その、たった 0.5% の進化のためにボクはまた山に挑むわけです。