イノベーションを活性化させるアウトタスキング 【後編】

「コア」と「コンテキスト」の考え方を適用して、資源をうまく活用する


イノベーションを活性化させるアウトタスキング 【前編】

イノベーションを活性化させるアウトタスキング 【後編】

経営資源に限りがあるなかで、イノベーションの遂行に不可欠な資源をどのようにして割り当てればいいのか?その答えが、シスコが長年取り組んできた、コア⁄コンテキスト分析に基づくアウトソーシングとアウトタスキングの使い分けにあります。本稿では2回に分けて、その背景と手法とを説明します。

INDEX

  1. 「コア」を顧客視点で定義する
  2. アウトタスキングの実例
  3. 継続的なイノベーションへ
「コア」を顧客視点で定義する

 前回の記事では、イノベーションを継続的に実施するには、社内の経営資源の制約を解決する必要があること、限りある経営資源を有効に活用するにはアウトソーシングだけでなく、アウトタスキングを併用するのが効果的であることを述べました。アウトタスキングとは、主体的なコントロールをかけて外部委託する形態を指します。

 シスコは、このアウトタスキング戦略を確立する過程で、「キャズム」(川又政治訳、翔泳社)や「ライフサイクル・イノベーション」(栗原潔訳、同)で知られるジェフリー・ムーアに助言を求めました。90年代後半のことです。

 彼は、自社の企業活動を区分する概念として、「コア」と「コンテキスト」を打ち出し、これに「ミッションクリティカル」、「ノンミッションクリティカル」という区分を組み合わせてマトリクス化することによって、資源の外部化⁄内部化の明確な指針が得られるという考えを、シスコの経営陣に伝授しました。 


図1 コア⁄コンテキスト と ミッションクリティカル⁄ノンミッションクリティカル

図1 コア⁄コンテキスト と ミッションクリティカル⁄ノンミッションクリティカル
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 この定義の最大の特徴は、「コア」を顧客視点で考えていることです。自分たちが「これがわれわれのコアである」と考えるコアではなく、あくまでも顧客から見たコアというところに特徴があります。別な言い方をすれば、同一の事業を営む企業が自社を含めて複数あるとして、圧倒的大多数の顧客が自社を選択してくれる根拠となる「有形無形の競争優位点」が「コア」ということになります。

 企業はこのコアに最も優れた人材を投入し、必要とされる資金を十分に提供していかなければなりません。それが、将来の企業価値を形作っていくからです。また、逆にコンテキストには、資源を節約するための工夫を施していかなければなりません。経営資源が有限のものである以上、この発想は至極順当です。

 一方で、ジェフリー・ムーアは「コアは、いずれコンテキストになる」と述べています。競争が激しく、技術の進展が著しい現在では、今年コアであったものが来年もコアであり続ける保障はどこにもありません。仮に、陳腐化していくコアに2年も3年も最良の人材と潤沢な資金を割り当て続けていくとしたら、どうなるでしょうか?競争優位が失われることにならないでしょうか?

 このことから、企業はコアが移り変わっていくことを前提に、資源の割当を恒常的に調節していかなければなりません。言い換えれば、その時点におけるコアに、常に最良の資源が割り当てられるように、何らかのサイクルを回していくことが必要になります。それを可能にするのが、アウトタスキング戦略です。

 業務の一定部分をアウトタスキングし、余裕の生じた資源をコアに割り当てる…。時間が経つと、これまでコアだったものがコンテキストに変化する。そこで、アウトタスキング対象の業務の見直しを行う。場合によってはアウトタスキングの比率を増加させる。それによって資源の余裕を生み出し、新しいコアに割り当てる。

 このサイクルを繰り返すことによって初めて、新たなコアにその都度、最良の資源を投入することができるようになります。これは、ドラッカーが言う「廃棄の制度化」(前回記事参照)とほとんど同じ意味になります。

 なお、アウトタスキング戦略では、従来型のアウトソーシングが否定されているのではありません。コア⁄コンテキスト、ミッションクリティカル⁄ノンミッションクリティカルの分類を施していくと、自ずと、アウトソーシングがふさわしい業務領域が見つかります。その部分については、コスト削減効果を狙って、むしろ積極的に従来型のアウトソーシングを行うべきです。


図2 アウトソーシング⁄アウトタスキングの指針

図2 アウトソーシング⁄アウトタスキングの指針
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