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Knocking on the Dream
日本発、究極のドリームカーが世界に羽ばたく日

ガソリンエンジン車第 1 号がドイツのベンツ工場で誕生してから 120年。車は人々に利便性と快適さ、そして自由をもたらしたことで、5億台近くが世界中を走り回る。その反面、環境汚染源そして走る凶器として人々を悩ませてもいる。21世紀は環境に優しく人にも優しい、クリーンで安全なドリームカーの実現が大きな課題だ。日本はいち早く実用的な燃料電池自動車を開発するなど、ドリームカーで世界をリードする。

INDEX

  1. クリーンカー開発で世界をリードする日本
  2. 低温対策とコスト低減に加えて水素インフラの整備がFCV普及のカギ
  3. 日本のドリームカーが世界に羽ばたく日

クリーンカー開発で世界をリードする日本

写真
燃料電池自動車

車は公共交通機関のように時間や行き先の制約を受けず、いつでも好きなときに好きなところへ自由に移動できる乗り物だ。しかも、スポーツ、ファッション、動く応接室、憩いの場、ステータスシンボル…、乗る人によって様々な役割を果たし単なる移動手段を超えた存在でもある。特に「自由に移動できる」という魅力はなにものにも代え難い。

しかし、車の自由度の高さが、走る凶器となって人々に襲いかかるというマイナス面にもつながっている。ドライバーの油断や判断ミス、車の故障などによって人々を傷つけるからだ。世界で毎日 600人以上が自動車事故で死亡している (1年間で 22万人、総務省統計表) ことを見れば、「人に優しい」車の開発が急務であることは間違いない。また、大気汚染の原因となる二酸化炭素や窒素酸化物などをまき散らし、喘息などを引き起こすほか、地球温暖化の元凶とも非難されている。

20世紀を席巻した従来の車では、21世紀の車の大きな課題である「環境と安全」という壁を乗り越えることは難しい。これからの車は、「環境に優しく、人にも優しい」というドリームカーへの変身が大きな課題だ。このドリームカー実現の切り札として期待されているのが、燃料電池自動車 (FCV : Fuel Cell Vehicle) と ITS (Intelligent Transport Systems) だ。日本はこの二つの分野で世界をリードする。

まず、ドリームカーの条件である「環境に優しい」に関して、FCV は優等生だ。2002年から経済産業省主導で始まった「水素・燃料電池実証プロジェクト (JHFC)」 (コラム 1 参照) を推進している財団法人日本自動車研究所の FC・EV センター企画・実証グループ研究員 荻野法一氏は、FCV のクリーン度を次のように指摘する。

FCV は、水素と酸素が化学反応した際に発生する電力を動力源とする。走行時に発生するのは水のみで、温暖化の原因となる二酸化炭素、大気汚染の原因となる窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質はまったく排出されない。地球上の車が FCV に変われば、環境負荷は大きく改善される。正に夢のクリーンエネルギー自動車だ。世界の自動車メーカはこのクリーンエネルギー自動車の実用化に向けて激しい開発競争を展開している。

この背景には、先行者が圧倒的に優位になるという事実がある。ハイブリッドカーで戦陣を切った『プリウス』がハイブリッドカー市場で圧倒的なシェアを占めていることを見ればうなずける。こうした先行者利得を意識して、2002年 12月、トヨタとホンダは世界に先駆けて FCV の実用車を官庁にリース販売した。小泉首相が FCV を運転するパフォーマンスを行ったのは記憶に新しい。その後、実用車レベルでの FCV の開発レースで世界をリードしている日本では、ナンバープレートをつけた約 50台の FCV が公道を走り回っている。

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