概要
このドキュメントでは、ASR1000 ルータでのパケット損失の原因が、そのコンポーネントや Field Replaceable Unit(FRU)の最大キャパシティであるかどうかを確認する手順について説明します。 ルータのフォワーディング容量に関する知識があると、ASR1000 のパケット損失のトラブルシューティングに長い時間がかからないため、時間の節約になります。
前提条件
要件
このドキュメントに特有の要件はありません。
使用するコンポーネント
このドキュメントの情報は、次のソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づいています。
- すべての Cisco ASR 1000 シリーズ アグリゲーション サービス ルータ(1001、1002、1004、1006、および 1013 プラットフォームを含む)
- Cisco ASR 1000 シリーズ アグリゲーション サービス ルータをサポートする Cisco IOS® XE のソフトウェアリリース
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのようなコマンドについても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
表記法
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
問題
ASR1000 シリーズ ルータのプラットフォームは集中型のルータプラットフォームです。そのため、ルータが受け取るすべてのパケットは、送信可能になる前に、集中型フォワーディングエンジンに到達する必要があります。集中型のフォワーディングカードは、Embedded Service Processor(ESP)と呼ばれます。 シャーシの ESP モジュールにより、ルータの転送キャパシティが決まります。回線とのパケットの送受信を行う共有ポートアダプタ(SPA)は、SPA インターフェイスプロセッサ(SIP)と呼ばれるキャリアカードを介して ESP に接続されています。 SIP の合計帯域幅容量により、ESP に送受信されるトラフィックの量が決まります。
使用されているハードウェア構成(ESP と SIP の組み合わせ)に対するルータのキャパシティの計算を誤ると、ASR1000 シリーズ ルータがパケットをラインレートで転送することができないネットワーク設計となるおそれがあります。
解決方法
ここでは、ASR1000 シリーズ ルータでパケット損失の可能性がある 3 つのシナリオについて説明します。その次の項では、ルータがこれらのシナリオのいずれかに該当するかどうかを判断するために使用できるコマンド ライン インターフェイス(CLI)を紹介します。
シナリオ 1: 入力インターフェイスの帯域幅が大きく、出力インターフェイスの帯域幅が小さい
例は、
- トラフィックの受信は 2 つの Gig インターフェイスで、送信は 1 つの Gig インターフェイスで実行
- トラフィックの受信は 1 つの 10 Gig インターフェイスで、送信は 1 つの Gig インターフェイスで実行
SIP カードは、入力パケットの分類と、オーバーサブスクリプションを許容するためのバッファリングをサポートしています。トラフィック フローの入力と出力のインターフェイスを特定します。ルータの入力リンクは帯域幅が大きく、パケットをライン レートで受信しており、出力リンクは帯域幅が小さい場合、入力 SIP でバッファリングが行われます。
こうしたシナリオで、ライン レートでの入力トラフィックが一定期間持続すると、最終的にはバッファが枯渇し、ルータによるパケット ドロップが始まる原因となります。これらは、入力インターフェイスでの show interface <interface-name> x/x/x controller の出力では、ignored または ingress over sub drops と表示されます。
- このシナリオにおける解決策は、ネットワークにおけるトラフィックフローを調べ、それをリンクのキャパシティに応じて分散させることです。
注:SIP では入力パケットの分類がサポートされています。これにより、優先順位の高いパケットは(オーバーサブスクリプションになっていない限り)転送し、重要でないパケットはドロップすることができます。
ASR1000 ルータでの入力の分類およびスケジューリングについては、次のリンクで説明されています。
ASR1000 でのパケットの分類とスケジューリング
シナリオ 2: ネクストホップデバイスで輻輳が発生し、インターフェイスフロー制御が有効になっている
フロー制御が有効になっているか、また、インターフェイスがネクストホップデバイスから pause input を受信しているかを確認するには、show interface の出力結果を使用します。pause input は、ネクスト ホップのデバイスが輻輳していることを意味します。入力ポーズフレームは、 ASR1000 に減速するよう通知するため、ASR1000 でパケットバッファリングが発生する原因になります。 トラフィックレートが高い状態が一定時間続くと、最終的にパケット損失につながります。
- このシナリオでは、ASR1000 には問題はないため、解決策は、ネクスト ホップのデバイスでボトルネックを排除することです。ドロップはルータ上で観察されるため、ネットワークエンジニアがネクストホップデバイスを見落とし、あらゆるトラブルシューティングの取り組みをルータに対して行ってしまうことが非常によくあります。
シナリオ 3. トラフィックレートがルータのキャパシティ以上
show platform コマンドを実行して、シャーシ内の ESP と SIP のタイプを特定します。ASR1000 にはパッシブ バックプレーンがあります。システムのスループットは、システムで使用されている ESP および SIP のタイプによって決まります。
以下に、いくつかの例を示します。
- 製品番号 ASR1000-ESP5、ASR1000-ESP20、ASR1000-ESP40、ASR1000-ESP100、および ASR1000-ESP200 は、それぞれ 5 G、20 G、40 G、100 G、200 G のトラフィックに対応しています。ESP の帯域幅は、方向に関係なく、システムの合計出力帯域幅を示します。
- 製品番号 ASR-1000-SIP10 と ASR-1000-SIP40 は、スロットあたりの合計帯域幅が、それぞれ 10 G と 40 G です。2 つのサブスロットに 2 枚の SPA-1X10GE-L-V2 カードが装着された SIP10 カードによって ESP に送られるトラフィックは、SIP10 の帯域幅によって決まります。2 つの 10GE SPA が受信するラインレート 20 G のトラフィックではありません。
ESP10 を搭載した ASR1000 ルータのスループットは、次の画像のようになります。

ルータを通過する合計トラフィックを確認するには、show interface summary コマンドを使用します。Received Data Rate(RXBS)および Transmit Data Rate(TXBS) のカラムに入力および出力の合計レートが表示されます。
ESP の負荷を確認するには、Show platform hardware qfp active datapath utilization summary を実行します。ESP が過負荷になると、減速するように入力 SIP カードにバックプレッシャがかかり、バッファリングが開始されます。これにより、高いレートが長期間維持されると、最終的にパケット損失につながります。
このシナリオで取るべきアクションは次のとおりです。
- ESP の限界に達したら、ESP カードをアップグレードします。
- ESP データパスの使用率が高く、トラフィックレートが ESP の限界を下回っている場合、ルータに設定されている機能のスケールリミットを確認します。
- ルータを通過するトラフィック フローに対し、ESP と SIP カードが正しい組み合わせで使用されていることを確認します。
トラブルシューティングのためのコマンド
トラブルシューティング コマンドの結果、ルータがここで説明するシナリオの影響を受けていないことが確認された場合は、ASR1000 でのパケットドロップのトラブルシューティングに進みます。
Cisco ASR 1000 シリーズ サービス ルータでのパケット ドロップ
便利なコマンドは次のとおりです。
- show platform
- show interface <interface-name> <slot/card/port> controller
- show interface summary
- show platform hardware qfp active datapath utilization summary
- show platform hardware port <slot/card/port> plim buffer settings
- show platform hardware port <slot/card/port> plim buffer settings details
この例では、トラフィックは TenGigEthernet 0/2/0 で受信されており、TenGigEthernet 0/1/0 で送信されています。 出力は、IOS XE ソフトウェアリリース 15.1(3)S2 IOS®-XE を搭載した ASR1002 ルータからキャプチャされたものです。

show platform
show platform の出力結果を使用して、ESP と SIP カードのキャパシティを特定します。この例では、ルータのフォワーディング容量(最大出力容量)は 5 G になります。これは、ESP のキャパシティによって決まります。
------------------ show platform ------------------
Chassis type: ASR1002
Slot Type State Insert time (ago)
--------- ------------------- --------------------- -----------------
0 ASR1002-SIP10 ok 3y45w
0/0 4XGE-BUILT-IN ok 3y45w
0/1 SPA-1X10GE-L-V2 ok 3y45w
0/2 SPA-1X10GE-L-V2 ok 3y45w
R0 ASR1002-RP1 ok, active 3y45w
F0 ASR1000-ESP5 ok, active 3y45w
P0 ASR1002-PWR-AC ok 3y45w
P1 ASR1002-PWR-AC ok 3y45w
Slot CPLD Version Firmware Version
--------- ------------------- ---------------------------------------
0 07120202 12.2(33r)XNC
R0 08011017 12.2(33r)XNC
F0 07091401 12.2(33r)XNC
show interface
ingress over sub drops は、入力 SIP でバッファリングが行われていることを示し、フォワーディングエンジンまたは出力パスが輻輳していることを意味します。フロー制御ステータスは、輻輳が発生した場合にルータが受信したポーズフレームを処理するか、またはポーズフレームを送信するかを示します。
Router#sh int Te0/2/0 controller
TenGigabitEthernet0/2/0 is up, line protocol is up
Hardware is SPA-1X10GE-L-V2, address is d48c.b52e.e620 (bia d48c.b52e.e620)
Description: Connection to DET LAN
Internet address is 10.10.101.10/29
MTU 1500 bytes, BW 10000000 Kbit/sec, DLY 10 usec,
reliability 255/255, txload 8/255, rxload 67/255
Encapsulation ARPA, loopback not set
Keepalive not supported
Full Duplex, 10000Mbps, link type is force-up, media type is 10GBase-SR/SW
output flow-control is on, input flow-control is on
ARP type: ARPA, ARP Timeout 04:00:00
Last input 00:06:33, output 00:00:35, output hang never
Last clearing of "show interface" counters 1d18h
Input queue: 0/375/0/0 (size/max/drops/flushes); Total output drops: 0
Queueing strategy: fifo
Output queue: 0/40 (size/max)
5 minute input rate 2649158000 bits/sec, 260834 packets/sec
5 minute output rate 335402000 bits/sec, 144423 packets/sec
15480002600 packets input, 18042544487535 bytes, 0 no buffer
Received 172 broadcasts (0 IP multicasts)
0 runts, 0 giants, 0 throttles
0 input errors, 0 CRC, 0 frame, 0 overrun, 0 ignored
0 watchdog, 257 multicast, 0 pause input
10759162793 packets output, 4630923784425 bytes, 0 underruns
0 output errors, 0 collisions, 0 interface resets
0 unknown protocol drops
0 babbles, 0 late collision, 0 deferred
0 lost carrier, 0 no carrier, 0 pause output
0 output buffer failures, 0 output buffers swapped out
TenGigabitEthernet0/2/0
0 input vlan errors
444980 ingress over sub drops
0 Number of sub-interface configured
vdevburr01c10#
show platform hardware qfp active datapath utilization summary
このコマンドは、ESP に対する負荷を表示します。行の処理:Load の値が大きい場合は ESP の使用率が高いため、さらなるトラブルシューティングを行い、その原因はルータに設定されている機能であるか、トラフィックレートが高いことであるか確認する必要があります。
Router0#show platform hardware qfp active datapath utilization
CPP 0 5 secs 1 min 5 min 60 min
Input: Priority (pps) 1073 921 1048 1203
(bps) 1905624 1772832 1961560 2050136
Non-Priority (pps) 491628 407831 415573 373270
(bps) 3536432120 2962683416 3051102376 2652122448
Total (pps) 492701 408752 416621 374473
(bps) 3538337744 2964456248 3053063936 2654172584
Output: Priority (pps) 179 170 124 181
(bps) 535864 509792 370408 540416
Non-Priority (pps) 493706 409239 417159 374982
(bps) 3545612320 2967293504 3056172104 2657838152
Total (pps) 493885 409409 417283 375163
(bps) 3546148184 2967803296 3056542512 2658378568
Processing: Load (pct) 17 46 38 36
show interface summary
[TXBS] フィールドには、ルータの合計出力トラフィックが表示されます。この例では、合計出力トラフィックは、3.1 G(2680945000 + 372321000 = 3053266000)です。
Router#sh int summary
*: interface is up
IHQ: pkts in input hold queue IQD: pkts dropped from input queue
OHQ: pkts in output hold queue OQD: pkts dropped from output queue
RXBS: rx rate (bits/sec) RXPS: rx rate (pkts/sec)
TXBS: tx rate (bits/sec) TXPS: tx rate (pkts/sec)
TRTL: throttle count
Interface IHQ IQD OHQ OQD RXBS RXPS TXBS TXPS TRTL
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
GigabitEthernet0/0/0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
GigabitEthernet0/0/1 0 0 0 0 0 0 0 0 0
GigabitEthernet0/0/2 0 0 0 0 0 0 0 0 0
GigabitEthernet0/0/3 0 0 0 0 0 0 0 0 0
* Te0/1/0 0 0 0 0 383941000 152887 2680945000 265668 0
* Te0/2/0 0 0 0 0 2541026000 254046 372321000 147526 0
GigabitEthernet0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
* Loopback0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
show platform hardware port <slot/card/port> plim buffer settings
このコマンドは、PLIM 上のバッファの使用状況を確認するために使用します。Curr の値が最大に近いときは、PLIM バッファがいっぱいになっています。
Router#Show platform hardware port 0/2/0 plim buffer settings
Interface 0/2/0
RX Low
Buffer Size 28901376 Bytes
Drop Threshold 28900416 Bytes
Fill Status Curr/Max 0 Bytes / 360448 Bytes
TX Low
Interim FIFO Size 192 Cache line
Drop Threshold 109248 Bytes
Fill Status Curr/Max 1024 Bytes / 2048 Bytes
RX High
Buffer Size 4128768 Bytes
Drop Threshold 4127424 Bytes
Fill Status Curr/Max 1818624 Bytes / 1818624 Bytes
TX High
Interim FIFO Size 192 Cache line
Drop Threshold 109248 Bytes
Fill Status Curr/Max 0 Bytes / 0 Bytes
Router#Show platform hardware port 0/2/0 plim buffer settings detail
Interface 0/2/0
RX Low
Buffer Size 28901376 Bytes
Fill Status Curr/Max 0 Bytes / 360448 Bytes
Almost Empty TH0/TH1 14181696 Bytes / 14191296 Bytes
Almost Full TH0/TH1 28363392 Bytes / 28372992 Bytes
SkipMe Cache Start / End Addr 0x0000A800 / 0x00013AC0
Buffer Start / End Addr 0x01FAA000 / 0x03B39FC0
TX Low
Interim FIFO Size 192 Cache line
Drop Threshold 109248 Bytes
Fill Status Curr/Max 1024 Bytes / 2048 Bytes
Event XON/XOFF 49536 Bytes / 99072 Bytes
Buffer Start / End Addr 0x00000300 / 0x000003BF
RX High
Buffer Size 4128768 Bytes
Fill Status Curr/Max 1818624 Bytes / 1818624 Bytes
Almost Empty TH0/TH1 1795200 Bytes / 1804800 Bytes
Almost Full TH0/TH1 3590400 Bytes / 3600000 Bytes
SkipMe Cache Start / End Addr 0x00013B00 / 0x00014FC0
Buffer Start / End Addr 0x03B3A000 / 0x03F29FC0
TX High
Interim FIFO Size 192 Cache line
Drop Threshold 109248 Bytes
Fill Status Curr/Max 0 Bytes / 0 Bytes
Event XON/XOFF 49536 Bytes / 99072 Bytes
Buffer Start / End Addr 0x000003C0 / 0x0000047F