はじめに
このドキュメントでは、Multiprotocol Label Switching(MPLS; マルチプロトコル ラベル スイッチング)に関してビギナー レベルの方から寄せられる FAQ に回答しています。
Multi-Protocol Label Switching(MPLS; マルチプロトコル ラベル スイッチング)とは何ですか。
MPLSは、ラベルを使用してデータ転送の決定を行うパケット転送テクノロジーです。MPLS を使用すると、レイヤ 3 ヘッダーの分析が一度だけ(パケットが MPLS ドメインに入るときに)行われます。 ラベルの検証により、それに続くパケットの転送が実行されます。MPLS により、下記の有益なアプリケーションが提供されます。
さらに、コア ルータでの転送に要するオーバーヘッドが軽減されます。MPLSテクノロジーは、任意のネットワーク層プロトコルに適用されます。
ラベルとは何ですか。ラベルの構造はどのようなものですか。
ラベルは、Forwarding Equivalence Class(FEC;転送等価クラス)を識別するために使用される、短い4バイトの固定長で、ローカルで有効な識別子です。 特定のパケットに付加されるラベルは、そのパケットが割り当てられている転送等価クラス(FEC)を表します。

ラベルはパケットのどこに付加されますか。
ラベルは、データリンク層(レイヤ2)ヘッダーとネットワーク層(レイヤ3)ヘッダーの間に付加されます。ラベル スタックのトップはパケットの先頭にあり、ボトムは最後尾です。ラベル スタックの最後のラベルの直後には、ネットワーク レイヤ パケットが続きます。

FECとは
FECは、同じ方法、同じパス、同じ転送処理で転送されるIPパケットのグループです。FECは宛先IPサブネットに対応できますが、エッジLSRが重要と見なす任意のトラフィッククラスに対応することもできます。たとえば、特定の値のIP precedenceを持つすべてのトラフィックでFECを構成できます。
アップストリーム ラベル スイッチ ルータ(LSR)とは何ですか。ダウンストリーム LSR とは何ですか。
アップストリームおよびダウンストリームは、MPLS では相対的な用語です。これらの語は、常にプレフィクス(より適切な言い方では、FEC)を指します。 次に、具体例を示します。

FEC 10.1.1.0/24 に関して、R1 は R2 にとってダウンストリーム LSR になります。
FEC 10.1.1.0/24 に関して、R2 は R1 にとってアップストリーム LSR になります。

FEC 10.1.1.0/24 に関して、R1 は R2 にとってダウンストリーム LSR であり、R2 は R3 にとってダウンストリーム LSR になります。

FEC 10.1.1.0/24 に関して、R1 は R2 にとってダウンストリーム LSR になります。FEC 10.2.2.0/24 に関して、R2 は R1 にとってダウンストリーム LSR になります。
そのネットワーク(プレフィクス)に到達するために、データフローはアップストリームからダウンストリームに流れます。

R4ルーティングテーブルには、10.1.1.0/24に到達するためのネクストホップとしてR1、R2、およびR3があります。
10.1.1.0/24 に関して、R3 は R4 にとってダウンストリーム LSR になりますか。
はい、10.1.1.0/24に関して、トラフィックはR4からR3にダウンストリームで流れます。
着信、発信、ローカル、およびリモートという用語をラベル関連で使用するときの意味はどのようなものですか。
次のトポロジにおける R2 および R3 について考察してみましょう。R2 は、FEC F のラベル L を R3 に配布します。R3 は、FEC-F にデータを転送する際に、ラベル L を使用します(R2 は、FEC-F に関する R3 のダウンストリーム LSR であるためです)。 このシナリオでは次のようになっています。

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L は、F に関する R2 の着信ラベルです
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L は、FEC-F に関する R3 の出ラベルです
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L は、FEC F に関する R2 のローカル バインディングです
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L は、FEC-F に関する R3 のリモート バインディングです
LSR は MPLS インターフェイス上で(MPLS 以外の)ネイティブ IP パケットを送受信できますか。
はい。ただし、インターフェイス上で IP がイネーブルにされている場合に限ります。ネイティブ パケットは通常どおり送受信されます。IP は 1 つのプロトコルに過ぎません。MPLS パケットでは、別のレイヤ 2 エンコーディングが使用されます。受信側 LSR では、レイヤ 2 エンコーディングに基づいて MPLS パケットが認識されます。
LSR は非 MPLS インターフェイス上でラベル付きパケットを送受信できますか。
No.そのプロトコルに対してイネーブルになっていないインターフェイスでは、パケットが送信されることはありません。MPLS には、特定の EtherType コードが対応づけられています(IP、IPX、および AppleTalk に固有の EtherType があるのと同様です)。 Ciscoルータは、インターフェイスで有効になっていないEthertypeを持つパケットを受信すると、そのパケットをドロップします。たとえば、AppletalkがイネーブルになっていないインターフェイスでルータがAppletalkパケットを受信すると、そのパケットは廃棄されます。同様に、MPLSがイネーブルにされていないインターフェイスでMPLSパケットが受信されると、そのパケットはドロップされます。
どのプラットフォームおよび Cisco IOS が MPLS をサポートしていますか。
Cisco シリーズ 2691、3640、3660、3725、3745、6400-NRP-1、6400-NRP-2SV、6400-NSP、Route Switch Module(RSM; ルート スイッチ モジュール)搭載の Catalyst 5000、7200、7301、7400、7500、WS-SUP720-3B および WS-SUP720-3BXL 搭載の Catalyst 6500/Cisco 7600 シリーズ、Gigabit Switch Router(GSR; ギガビット スイッチ ルータ)、Route Processor Module(RPM; ルート プロセッサ モジュール)、Universal Broadband Router(UBR; ユニバーサル ブロードバンド ルータ)7200、AS5350、および IGX8400-URM はすべて MPLS をサポートしています。
これらのプラットフォームは、ラベル配布プロトコルとして Cisco Tag Distribution Protocol(TDP; タグ配布プロトコル)をサポートしています。
Label Distribution Protocol(LDP; ラベル配布プロトコル)、Resource Reservation Protocol(RSVP; リソース予約プロトコル)、および Border Gateway Protocol(BGP; ボーダー ゲートウェイ プロトコル)に関する情報は、Software Advisor(登録ユーザ専用)ツールを使用して入手できます。Software Advisor を使用すると、さまざまな Cisco IOS バージョンおよびプラットフォームでサポートされるフィーチャ セットの一覧を見ることができます。
Generic Routing Encapsulation(GRE; 総称ルーティング カプセル化)トンネルには 24 バイトのオーバーヘッドがあります。MPLS LSP トンネルにはどの程度のオーバーヘッドがありますか。
MPLSラベルスイッチドパス(LSP)トンネルには、オーバーヘッドの1つのラベル(4バイト)または2つのラベル(たとえば、リンク保護高速再ルーティングを使用する場合)があります。MPLS は GRE トンネルとは異なり、IP ヘッダーを書き換えません。代わりに、トンネルパスを使用するパケットにラベルスタックが付加されます。
LSRは、ラベルスタックのトップラベル、ボトムラベル、およびミドルラベルをどのように区別するのですか。
レイヤ 2 ヘッダーの直後にあるラベルがトップ ラベルであり、S ビットが 1 に設定されたラベルがボトム ラベルです。LSR でのミドル ラベルの読み取りや識別を必要とするアプリケーションはありません。ただし、ラベルがスタックの先頭になく、Sビットが0に設定されている場合、ラベルは中間ラベルになります。
ラベル値の範囲はどうなっていますか。どのラベル値が予約されていますか。予約されている値の意味はどのようなものですか。
次に示す値は、RFC3032 - MPLS Label Stack Encoding にも記載されています。
理論上、範囲は 0 〜 (220 〜 1) です。 ラベル値 0 〜 15 は予約済みであり、このうち 4 〜 15 は今後使用するために予約されています。値 0 〜 3 は次のように定義されています。
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値 0 は、IPv4 明示的 NULL ラベルを表します。このラベルは、ラベル スタックをポップする必要があり、IPv4 ヘッダーに基づいてパケットを転送する必要があることを示します。これは、出力側ルータまで Exp ビットを安全に保つために役立ちます。MPLSベースのQoSで使用される
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値 1 は、ルータ アラート ラベルを表します。受信したパケットのラベル スタックのトップにこのラベル値が入っている場合、パケットはローカル ソフトウェア モジュールに送信されて処理されます。パケットの実際の転送先は、スタック内でこのラベルの下にあるラベルによって決まります。ただし、パケットをさらに転送する場合、転送する前にルータアラートラベルをラベルスタックに戻す必要があります。このラベルの使用は、IPパケットでのルータアラートオプションの使用に似ています(たとえば、レコードルートオプションを使用したping)。
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値 2 は、IPv6 明示的 NULL ラベルを表します。このラベルは、ラベル スタックをポップする必要があり、IPv6 ヘッダーに基づいてパケットを転送する必要があることを示します。
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値 3 は、暗黙的 NULL ラベルを表します。これは LSR が割り当てて配布できるラベルです。ただし、このラベルが実際にカプセル化の上で表示されることはありません。このラベルは、LSR がスタックからトップ ラベルをポップし、パケットの残りの部分(ラベル付き、またはラベルなし)を、(Lfib のエントリの指示に従って)発信インターフェイス経由で転送することを意味します。 この値はカプセル化では表示されませんが、Label Distribution Protocol(LDP;ラベル配布プロトコル)で指定する必要があるため、値は予約されています。
LDP と TDP は、どのプロトコルとポート番号を使用して LDP/TDP ピアにラベルを配布するのですか。
LDP は TCP ポート 646 を使用し、TDP は TCP ポート 711 を使用します。これらのポートがルータ インターフェイスでオープンになるのは、そのインターフェイスで mpls ip が設定されている場合に限られます。トランスポートプロトコルとしてTCPを使用すると、堅牢なフロー制御および輻輳処理メカニズムを使用して、LDP/TDP情報を確実に配信できます。
Catalyst 6500 および 7600 Optical Services Router(OSR; オプティカル サービス ルータ)上での MPLS サポートに関してどのような制約事項がありますか。
MPLS ドメインに接続されたインターフェイスは、Parallel Express Forwarding(PXF; パラレル エクスプレス転送)複合体を利用する任意のモジュールなどの Optical Services Module(OSM; オプティカル サービス モジュール)のいずれか、または FlexWAN モジュール内のインターフェイスを使用する必要があります。MPLS レイヤ 3 VPN に関しても同じ制約事項があります。つまり、IPフレームは、OSMまたはFlexWANモジュールのインターフェイスであるWANインターフェイスに入る必要があります。Supervisor 720 に関してはこれらの制約事項はありません。
MPLS 設定のサンプルをどこで入手できますか。
MPLSの設定に関するドキュメントは、『実装と設定:MPLS』を参照してください。
MPLSパケットのロードバランシングにはどのようなオプションがありますか。
MPLSパケットは、MPLSラベル情報または必須IPヘッダーの送信元アドレスと宛先アドレス(あるいはその両方)を使用してロードバランシングできます。
異なるサイトにある2台のCisco Catalystスイッチ間に、MPLS接続を介して802.1Qトランクを設定できますか。
MPLSを介してリモートサイトに接続する場合、これはレイヤ3接続であり、802.1Qトランクはレイヤ2プロトコルであるため、MPLS接続を介して802.1Qトランクを設定することはできません。VLANを拡張するには、ISPが提供するメトロイーサネット接続または802.1Qトンネリングが必要です。MPLSクラウドでは、ISPはVirtual Routing and Forwarding(VRF)を介して通信します。
詳細については、「IEEE 802.1Q トンネリングの設定」を参照してください。
発信MPLS EXP値は、着信IPパケットのDifferentiated Services Code Point(DSCP)値をデフォルトで継承しますか。または、MPLS対応インターフェイスで、着信DSCPは追加設定なしで信頼されますか。
はい。追加設定は必要ありません。
DHCP リレー機能は、MPLS VPN ネットワークで動作しますか。
はい。DHCP 要求は MPLS VPN ネットワークの VRF 内で転送され、これを出力プロバイダー エッジが同一 VRF 内で DHCP サーバに送信します。
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