Cisco Exclusive Interview「カオスが生み出す癒しのパワー ~無意識を揺さぶるツツイ&インターネット・ワールド」筒井康隆

INDEX

  1. 演じる喜び、書く楽しみ、そして断筆宣言
  2. ツツイ流小説作法とITの関係
  3. 無意識の領域に潜り込むインターネットの魔力
  4. 人間、クッタクを忘れてはいけません
  5. 「老い」とは、シュールレアリズムなり

「老い」とは、シュールレアリズムなり

― 『敵』 (98年) や『わたしのグランパ』 (99年) では、まったく異なるタイプの老人を主人公に設定されていますが、「老人三部作」の締めはどんな作品になりそうですか。

『敵』の渡辺儀助 (大学教授を定年退職した 75歳。プライドを持ち、孤高の生活を保っている) や『わたしのグランパ』の五代謙三 (刑務所帰り。人騒がせだが人望があり、周囲を幸せにしていく) とは全く異なる種類の「老い」を描きたいと思っています。

ボクに言わせれば、老いとはシュールレアリズムそのものなんですよ。もともと SF に近づいていったのも、結局、シュールで実験的なことができる装置としての SF という部分が大きいんです。ボクはいろいろなスタイルの小説を書きますが、笑いを中心に人間の無意識を揺さぶる実験を小説でやっているようなもの。その点で、老いとか老人というのはワクワクするくらい面白い素材です。特に、無意識と意識の境界が微妙な部分に非常に惹かれますね。

― では、今年の 9月で 70歳を迎えられる筒井さんにとって「老い」とはどんなものなのでしょうか。

ボク自身は、今のところ年を取ったなあという実感はないですね。「70歳を超えたら、一気にガクッと来ますよ」と、亡くなった中村真一郎さんがおっしゃっていたんですが、今のところその感じはわからない。古希まであと 2か月なんですが、いきなりそこでガクンとくるのかしら (笑) 。

まあ、体力の衰えはともかくとして、無意識がどんなふうに日々の中に浸潤してくるものなのか。小説家のボクとしては、自分がどう老いていくのか、非常に楽しみにしている部分がありますね。

― これをやり残して死ぬわけにはいかない、というライフワークはありますか?

あ、それはないですね。これまででだいたいやり尽くしたという感が強いものですから。もちろん、小説を書くのも演じるのも面白いと思うからやっているわけで、つまらなくなったら全部やめてしまうでしょうが。

ただ、今連載している『現代語裏辞典』が、ようやく「す」の項まで来たところで、このペースだと、あと 4年くらいで終わるはずなんですよ。221 情報局の連中にいろいろ手伝ってもらっている労作なので、これはきちんと形にしないといかんでしょうねえ。

それから、少々、趣味的な話になりますが、グリーグ (北欧の作曲家) の『ペール・ギュント』組曲にはいろいろ興味深い点がありましてね。今、勝手にあれこれ調べたりいじったりして遊んでおるのですが、これをどこかで舞台にしてくれて、芸術祭参加なんてことになったら、もう最高なんだけどなあ (笑) 。

ボクにはどうも不思議な運があって、やりたいことや面白いアイデアが浮かぶと、それを実現してくれる人が必ず現れるんです。人間の無意識に興味をもって、そういう小説をたくさん書いてきたから、もしかしたら無意識の領域との回路が通常よりもつながりやすくなっているのかもしれませんね。

しかし、まあ、人生というのは、しょせんはギリシャ神話のシジフォスと同じで、やってもやってもキリがない。ボクはそう思うことにしています。