Cisco Exclusive Interview「カオスが生み出す癒しのパワー ~無意識を揺さぶるツツイ&インターネット・ワールド」筒井康隆

INDEX

  1. 演じる喜び、書く楽しみ、そして断筆宣言
  2. ツツイ流小説作法とITの関係
  3. 無意識の領域に潜り込むインターネットの魔力
  4. 人間、クッタクを忘れてはいけません
  5. 「老い」とは、シュールレアリズムなり

無意識の領域に潜り込むインターネットの魔力

― インターネットにおける筒井さんの最も大きな発見は何ですか?

ネットの世界には良くも悪くもとんでもないヤツがいる、ということに尽きるかもしれません。『朝のガスパール』で会議室を開設した当初はアクセス数も膨大でしたし、天国と地獄の両方を一ぺんに味わう羽目になりました (笑) 。ネットが怖いのは人間の無意識の領域に働きかけるパワーがあることです。最近、ネット殺人が話題になりましたが、ボクはこういうことはいつか起こるだろうと思っていました。掲示板もそうだけれど、チャットは特に危険ですね。コトバだけで瞬間的なやり取りを続けていくと、本人も気づいていなかったような心の暗部が引き出されてしまうことがある。その結果、コトバがどんどん過激になっていき、傷つけられた恨みが無意識の中に増幅されていく。残念ながら、ああいう事件は今後もまだまだ起こり得ると思います。

その反面、ネットには自然淘汰というか自浄作用もあって、異常な事態はそう長くは続かないものなんです。会議室を地獄に追い込んだヒール役の子がいたんですが、この彼はいったん追い出されてアタマを冷やして戻ってきたら、すっかりいい人になっていた (笑) 。自らの「無意識の悪意」が公の場で暴き出されたことで、逆にスッキリしちゃった例でしょうね。ネットには、どうもそういう「癒しの効果」があるらしい。あっ、でも、あれこれあった挙げ句、病院送りになってしまったメンバーも 2~3人いたなあ (笑) 。効用があるかわりに副作用もキツイ。ネットのコミュニケーションとはそういうものなのかもしれませんね。

当時の会議室は現在の「221 (ツツイ) 情報局」に継承され、今は落ち着いたいい雰囲気になっています。残ったメンバーの中には素晴らしい才能の持ち主が大勢いて、創作活動においてもいろいろ助けてもらっています。インターネットというのはボランティア精神が根付いている土壌ではありますが、ボクは本当に良くやってくれた人にはボーナスをさしあげることにしています。A.ビアスの『悪魔の辞典』 (02年) の翻訳版をつくるにあたっては、特に優秀な 4~5人の方にきちんとお給料を払って下訳などをやってもらいました。こうした素晴らしい才能を発見できるのも、インターネットならではといえるでしょうね。

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