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銀行と Fintech:強力なパートナーシップへの投資

旧来からの多くの金融機関が、革命的な Fintech 企業との協業を始めつつあります。デジタル ツールを採用することで、コストを削減し、顧客との行き違いを防ぎ、新たな収益源を見出しています。

2017 年 4 月
Paul Gillin

喫茶店でカフェモカを頼んだら、iPhone で店内の端末にタッチして支払います。ラップトップを開き、Prosper で借りた自動車ローンの残高を確認し、E*TRADE のアカウントにログインして支払いを承認します。Etsy のアカウントをチェックすると、妻が販売する手作りの装飾品の代金が、PayPal で支払われていました。妻はその事業を、Kickstarter のキャンペーンで資金調達して始めたのです。

これらはすべて金銭関係の取引にあたるわけですが、一点だけ共通する特徴があります。いずれの活動にも、従来の金融機関が介在していないのです。このような、いわゆる「Fintech」企業による革新的な動きが顕著になりつつあります。クラウド コンピューティング、ソーシャル メディア、モビリティ、ディープ アナリティクスを採用し、新しい金融商品やサービスを生み出しているのです。

昨年の Fintech 企業への投資額は、合計で 150 億ドルに上りました。PricewaterhouseCoopers 社の予測では、今後 3 ~ 5 年間で累積 1,500 億ドルを超える可能性があるとされています。

このように Fintech がその勢いを見せつける中で、金融サービス業界は戦々恐々としているとする向きもあるでしょう。しかし、実際にはそのようなことはありません。

変革の動きに対する懸念がないわけでもありません。銀行やその関連業種は、各種の規制や歴史的低金利、合併や買収のコスト負担に苦しみ、ここ数十年低迷が続いています。

シスコと Global Center for Digital Business Transformation による 2015 年の調査によれば、金融サービス業は、デジタル技術による競争環境の変化に対して、12 業種中 4 番目に脆弱であるとされました。2014 年の Accenture 社のレポートでも、金融部門における変革は、2020 年までに銀行の収益の 35 % にリスクをもたらすと予測されています。

シスコの分析においては、2015 年の時点で、金融サービス部門の各企業がデジタル化を通じて獲得した価値は、その本来の数値の 20 % にとどまっており、額面にして、1,440 億ドルが手つかずのままとなっています。

一方、従来の銀行や証券会社も手をこまねいているわけではありません。レコード業界、出版業界、サービス業、運送業などでの惨憺たる状況をふまえ、同じ轍を踏むことなく変革を受け入れようとしています。Fintech 企業と提携してデジタル ツールを取り入れ、コストの削減や顧客とのやりとりにおけるトラブルの削減、さらには新たな収益源の確保を目指しています。

金融サービス業界に多くの顧客を抱えるコンサルティング会社、NewVantage Partners 社の Randy Bean 最高経営責任者は次のように述べています。「金融サービス企業は、ビッグ データ、人工知能、機械学習、デジタル エクスペリエンス、ブロックチェーンを活用することで、従来のビジネス プロセスを合理化した上で、新しい体験を顧客に提供しようとしています」

また、ボストンの SapientNitro 社のシニア ストラテジストで、銀行のリテール業務や窓口業務の今後に関する最新のレポートを執筆した David Poole 氏は、「iTunes やデジタル カメラは既存のビジネスを駆逐してしまいましたが、Fintech は銀行を退場させるのではなく、そのクライアントになろうとしています」と述べています。

たとえば、次のような例が挙げられます。

  • J.P. Morgan Chase & Co. は、昨年、オンラインでの融資を行う On Deck Capital 社と提携し、On Deck 社が開発/所有する信用評価アルゴリズムを使用して、小規模な企業顧客向けの融資処理を改善しました。J.P. Morgan 社が 400 万の小規模企業を顧客とし、On Deck 社によって短時間でその融資を処理することができるようになっています。
  • Cardlytics 社は、広告主と興味を示す購入者との関係をより近づけるデジタル広告プラットフォームを提供しており、1,500 以上の金融機関と取引があります。同プラットフォームから得られる情報を使用することで、各銀行は販売側との間に緊密な関係を形成し、クレジット カードの取引をさらに促進することができます。
  • Sensibill 社は、カナダ最大手の銀行 5 行と提携し、各行のデジタル バンキング用アプリと、同社の自動レシート管理機能を統合しました。12 月には、Scotiabank を皮切りに、同機能の利用が開始されます。
  • 新技術の育成を目的とした FinTech Innovation Lab という国際的な取り組みが 4 年前に始まっており、新技術の製品ラインへの取り込みを希望する銀行のうち、最大手の 20 行が提携しています。

デジタル化による変革が始まった当時の企業に比べると、金融機関にはあるアドバンテージがあります。それは各種の金融規制です。規制への対応は負担が大きく、コストのかさむことが多い一方で、新規参入に対する障壁ともなります。

また、金融機関の顧客には現状維持の傾向があり、既存取引の解消はあまり検討されません。特に固執する理由がなくとも、取引解消時の負担と混乱が大きいからです。SapientNitro 社の Poole 氏によれば、「ほとんどの人が、いまだに従来の金融機関と取引を行っています」

銀行は特に、新しいデジタル ツールに多くの利点を見出しています。たとえばコスト削減です。法律事務所 Manatt, Phelps & Phillips, LLP が米国の銀行幹部 75 人を対象に調査を行った結果、地方銀行の 80% 以上が現在 Fintech と連携していることがわかりました。回答者の約 9 割で、そのような連携が自行の成功にとって「絶対に不可欠」または「非常に重要」とされています。

法律事務所 Mayer Brown LLP が英国の金融サービス プロバイダーを対象に行った最近の調査では、Fintech 企業との提携がコスト削減に役立ったと回答した割合が 87 % に達しました。また、ほぼ同数がブランド更新の機会が提供されたとしたほか、半数以上が提携によって収益が増加したと回答しました。

歴史的なマージンの低下に苦しんでいる銀行業界にとって、デジタル化による効率化は非常に魅力的なものです。たとえば、SapientNitro 社の Poole 氏によると、取引 1 回あたりのコストは、店舗では 4 ドルかかるのに対し、オンライン バンキングではわずか 19 セントで済みます。また、デジタル ツールを好む傾向が強い若い世代を引き付けるには、オンライン サービスが最適と考えられています。

オンライン化が進むことで、実店舗の必要性も減少します。たとえば、Bank of America の支店数は、金融危機前の 6,000 店から、現在では 4,600 余りまで削減されました。銀行取引を自分で処理する顧客が増えると、各行は低コストの店舗やビデオ会議でのコンサルティングに人材をシフトできるようになります。Citigroup は、2016 年に支店の 7 % を閉鎖しました。2016 年第 3 四半期の収支報告で John Gerspach 最高財務責任者は、プロセスの改善により「リテール バンク事業の収益性が大幅に向上」したと述べました。

さらに、銀行はモバイルをよく利用するユーザがクレジット カード ビジネスの有力な顧客となることにも気づきました。JPMorgan 社は、新規顧客の 4 分の 3 以上がデジタル チャネルを通じて獲得されたものであり、2016 年第 3 四半期にはモバイルでの支払いが 17 % 増加したと述べています。

銀行などを中継せずに、検証済みの安全な取引を匿名で行うことができるブロックチェーン技術は、つい最近まで業界への脅威と考えられてきました。しかし、現在では各金融サービス企業が支持するようになり、取引の合理化とカスタマー サービスの迅速化を実現するものと受け止められつつあります。

Blockchain Collaborative Consortium は、ブロックチェーン技術の利用促進を目的とする企業連合ですが、1 年間で会員数が 34 から 109 へと 3 倍以上に増えました。ブロックチェーンの拡張性やセキュリティ上の短所の解消を狙ったプラットフォームである Ethereum は、CME Group 社、Credit Suisse 社、J.P. Morgan 社、Santander 社などからサポートを受けています。これまで秘密主義だった業界にしては珍しく、複数の大手銀行が、Ethereum の企業用バージョンに協賛しています。「私たちにはコラボレーションが必要です。共同で構築する必要があります」と、Ethereum アライアンスのメンバーである CME Group 社のデジタル化リーダー Sandra Ro 氏が IEEE Spectrum で述べています

金融業界がこれほど自信を持って動いている理由としては、かつてのレコード業界やカメラ業界に比べると、多くの時間があると考えていることが挙げられます。「業界にどのような変革が生じようとも、私たちにはまだお客様がいます」と言うのは、Citizens Financial Group 社の Ursula Cottone 最高データ責任者です。Fintech との提携には「あちらにはお客様がなく、こちらには技術がない」ことから、意義があると述べています。

Citizens 社は、複数の Fintech 企業と提携しています。提携先の 1 つでは、顧客の投資目標や許容可能リスクを理想的な製品セットに結び付けるサービスを提供しています。また、ノンバンクに資金源を求めるベンチャー キャピタルなどのクライアント向けに仲介サービスを提供する新興企業とも提携しています。同企業では、内外のデータ ソースとの連携を通じて、詳細な顧客プロファイルの開発も行っており、銀行側での製品のカスタマイズや推奨サービスの選定に使用することができます。「最終的に常に利益が出るとは限りませんが、クライアントをつなぎとめるための手段の 1 つとなっています」と Cottone 氏は述べています。

このように、金融機関には多くの時間的な余裕があります。しかし、油断は禁物です。顧客維持率は相対的に高いかもしれませんが、関係の親密さという点ではさほどでもありません。Accenture 社のレポートによると、米国の銀行顧客の 4 分の 3 程度が、銀行との関係は「頻繁にアドバイスを受けたり、さまざまな場面でやりとりするようなものではなく、単なる取引関係にすぎない」と考えています。

また、Accenture 社の調査では、銀行の顧客のほぼ半分が、取引相手として望ましい会社であれば銀行以外の企業への切り替えもいとわないことがわかりました。18 歳から 34 歳の消費者の場合、その割合は 70% を超えています。「金融部門における変革は、2020 年までに銀行の収益の 35 % にリスクをもたらす」とも予測されており、このような点を考慮するならば、Amazon.com 社が Capital One Financial 社の買収を検討しているというレポートについても、簡単に無視するわけにはいかないでしょう。

従来型の金融サービス企業は、提携、コスト削減、基本サービスの提供によって当面は存続できる可能性があります。ただし、そのようなアプローチには、「他業種から参入する競合企業によって、従来型企業がユーティリティとしての限定的な役割に押し込められ、業界全体の収益性が停滞し、顧客ロイヤルティの希薄化が進む」リスクもはらんでいると、Accenture 社は記しています。つまり、モバイル バンキングやオンライン バンキングは両刃の剣とも言えます。コストはより低いかもしれませんが、オンラインの銀行サービスや証券サービスも、ほぼ同様な状況と考えられます。

金融機関が今後さらに成功を収めるには、顧客一人ひとりとの関係を深め、単なる資金管理にとどまらないサービスを提供することで、Accenture 社が呼ぶところの「エブリデイ バンク」になる必要があるというのが、各専門家の一致した意見です。そのような方向性に沿って、多くの企業が、新しいさまざまな方法で顧客との関係を築こうと試行錯誤しています。たとえば、ビデオ会議を通じて専門家のアドバイスを気軽に聞ける端末を用意したり、Capital One 社が試験的に実施しているような本格的なカフェやアート ギャラリーを提供したりしています。また、Fintech 企業と協力して、既存のオンライン サービスの改善も行っています。たとえば、GEICO General Insurance Company 社のモバイル アプリを使うと、アプリで ID カードを管理したり、各種のロード サービスを受けたりすることができます。

法人や富裕層の投資家を主な顧客とする金融機関もまたリスクを抱えています。ただ、この場合に脅威となるのは、予測分析アルゴリズムや人工知能、リアルタイムでの意思決定支援ツールなどです。つまり、人間のアナリストでは太刀打ちできないスピードで顧客に分析情報が提供されるのです。Boston Consulting Group 社の直近のレポートでは、Internet of Things(IoT)の影響が金融サービス業界全体に波及するとの指摘がなされていました。従来型の企業は、機器とサービスを合わせて販売する新なた市場に参入することになります。すると、追跡する必要のある取引や提携先の数が大幅に増加するでしょう。複数の業種が急速に伸長し、それらの複雑な関係が、少数の支配的な企業によって調整されることが予想されます。「そのような業界固有のエコシステムに参加しない金融会社は、そこから生じる収益構造の大枠から外されたように感じるでしょう」と、Boston Consulting Group 社は記しています。

結論として言えるのは、顧客との関係を考え直す企業こそが、次代の新しい金融企業になり得るということです。SapientNitro 社の Poole 氏は、Netflix 社がビデオ レンタル業界に起こした変革を引き合いに出して、こう語っています。「人々は、Netflix をみて初めて、自分たちが求めていたものを知りました。金融業界における Netflix になれる企業こそが、時代を切り開くのです」

 

シスコの金融サービス ソリューション

シスコは金融業界におけるデジタル化を支援し、変革に伴うリスクを軽減します。