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Q&A: ロン・リッチ氏が語る、デジタル・マーケットでのモーメンタム構築の方法


2002年11月27日

文:ジェニー・カーレス(ニュース@シスコ)

シスコ・システムズのロン・リッチ氏とAMDのジョン・フォルクマン氏が、先日新しい本を出版しました。タイトルは、"MOMENTUM: How Companies Become Unstoppable Market Forces"で、出版社は Harvard Business School Press。ロン・リッチ氏はシスコ・システムズのコーポレート・ポジショニング担当副社長で、シスコ・ブランドの戦略ポジショニングを担っています。

この画期的な書籍では、企業がブランド・イメージの差別化を図るにはどうすればいいか、そのブランドを選ぶのが当然だとカスタマ、投資家、従業員に思わせるにはどうすればいいか、が論じられています。ニュース@シスコでは、企業はモーメンタムをどのように認識すべきか、ブランド・モーメンタムの理念がいかにシスコ・システムズの成功に貢献してきたかをリッチ氏に語っていただきました。

ご自身の調査に基づき、あなたはデジタル・マーケットのあらゆるリーダーに共通する成功要因はモーメンタムであると断じていますね。この場合の「モーメンタム」の定義はどのようなものなのでしょう?

ロン・リッチ:モーメンタムとは、デジタルの製品、サービスを購入する際に独特な判断材料を持つようになる心理状態です。我々は当該製品の購買者2万人以上を対象とした調査を行い、特定のブランド、製品ではカスタマ自身が選択を当然だと判断していたことを明らかにしました。デジタル・マーケットは絶えず変化しており、そのためブランドが将来も存続できるかどうかも絶えず疑いの目で見られているというのに、これは真実なのです。我々は、デジタル時代のこのような心理状態を理解したい、そして一つのブランド、製品が当然の選択となる過程を中心に考えたマーケティング・モデルとして、このような心理状態を概念化したいと考えたのです。

ただし、内容そのものを具体的なものにすることは可能です。マーケティングはとても抽象的なものですが、我々は科学的な要素も少し加えたいと思いました。我々はモーメンタム(推進力)の物理学的定義ー質量 x 速度ーに着目し、この定義をさらに細かくして、速度をスピードと方向性という二つの構成要素に分けました。それから、デジタル時代のダイナミックな思考様式を定義する方程式を編み出しました。ブランド・モーメンタム = 質量 x スピード x 方向性というものです。

企業あるいは製品、ブランドを考えた場合、モーメンタムにどのような属性があるのかを知っていると、自分たちの企業、製品、ブランドが競争相手に対して有利なのか、不利なのかがわかります。それから、どのように差別化するかを考えればいいのです。まるで相手チームの手の内がわかっているようなものですから、攻めるのか、守るのか、さらにどのような作戦をとればいちばん成功の確率が高いのかを知ることができます。

デジタル企業のブランディングはどのように違うのかを話していただけますでしょうか?

ロン・リッチ: ほとんどすべての企業が活用しているブランドの科学やマーケティングの哲学は、フィルムや食料、タバコなどの消費者向けパッケージ商品のために考え出されたものです。我々の研究は、デジタル技術に基づく製品に当てはめた場合、このような伝統的なマーケティング・モデルは不完全であるということを示しています。

技術の世界の製品は、従来のアナログ製品や類似製品とは基本的に二つの点で異なっています。一つ目の点は、デジタル製品には終着点がなく、アップグレードのプロセスが絶えず続くということ。二つ目の点は、デジタル製品は単独では機能できないということ。デジタルのソリューションとは、ともに機能する複数の製品の集合体なのです。

そのため、デジタル製品のカスタマは製品のイメージ属性ーブランドの伝統的定義ーのはるか先を見ており、特徴を求めているのですが、その特徴はモーメンタムに類似したものです。つまり、その製品にはサードパーティ・サポートや付加価値の形をとった質量があるのか、ということです。あるいは、その製品は他の技術イノベーションに先行できるほど急速に進化しているか、それとも他社に遅れをとっているか?この企業の方向性は、将来自分の問題を解決してくれるものだと信頼していいのか?

このような質問に対して、従来のイメージ重視のブランド、たとえばコダックフィルムやコーク、ペプシなどの炭酸飲料などのブランドは答える必要がありません。しかし、シスコやその他のデジタル企業は、そういった質問に答えなければならないのです。そうしないと、充分な差別化が図れず、カスタマの関心、信頼を得ることができず、製品を売り込むことができないのです。

あなたは、モーメンタム・インデックスについて「シンプルで、達成可能だが、易しくはない」と書いておられます。なぜ、難しいのでしょう?

ロン・リッチ: ブランド・モーメンタム・インデックスと呼んでいる、我々の考案した方程式では、3つのことを行うことが可能になります。まず、カスタマの心理における自社と競合企業のブランド・ポジションの違いを比較することができます。次に、ブランドの強み、弱みが診断できます。最後に、ブランドの差別化を効率的に推進するためのアクション・プランが作成できます。評価、診断ツールとしては、計器盤のようなものです。計器を読めば、改善するためには何をすべきかが瞬時に把握できるのです。

しかし、人々の認識に影響を及ぼすのは、そんなに簡単なことではありません。なんらかのイメージを作り上げようとするときには、たとえば従来からある製品に若々しさというイメージを作り上げようとするときには、イメージ作りのためにどれだけのお金が必要なのかという問題になってしまいがちです。しかし、デジタル産業ではイメージを作り上げるだけではだめなのです。質量を構築し、速度を上げ、方向性も定めなければなりません。

さらに、強力な製品戦略がなければ、質量の構築つまりマーケット・シェアの獲得は不可能です。他の競合企業すべてとの過酷な争いから抜け出し、いち早く新製品を発表できるようにスピードを上げるには、優れた実行力が必要になります。最後に、方向性を定めるには、強力なリーダーであり、カスタマに対して純粋な思想的リーダー(thought leader)となりうるビジョンを持ったCEOが必要になります。

シスコ・システムズでは、モーメンタムはどのように現れてきたのでしょう?

ロン・リッチ: さまざまな時代において、シスコは、モーメンタムを構成する質量、スピード、方向性の各要素で秀でていました。たとえば、1998年にジョン・チェンバーズ氏を思想的リーダー、先駆者(visionary)として前面に押し出す決定をして以来、シスコのブランド方向性要因はとても高度なものになっています。

過去5年間、シスコの質量は堅実に増加していて、直接シスコのために従事していないのに関わらず、約80万人の人がパートナ組織やエコシステムに参加することによってシスコ製品をサポートしてくれるようにまでなりました。もちろんシスコの強力なマーケット・シェアもこのブランド質量の基礎となっています。

シスコのブランド・スピードは、過去数年間変動を見せています。2、3年前、ジュニパ社がハイエンド・ルーティングの部門で最初にシスコからマーケット・シェアを奪ったときには、シスコのブランド・スピードも影響を受けました。ジュニパ社からマーケット・シェアを奪い返したことが直接の原因となって、差別化要因としてスピードを重要視できるようになり、過去2年間ではシスコのイノベーション戦略により、シスコにはブランド・スピードがあるという認知度をかなり向上させてきました。

ブランドの統合性を確立、維持するためのCEOの役割について語っておられますが、シスコではCEOの役割はどのようなものなのでしょう?

ロン・リッチ: CEOは今日の企業のブランド・パーソナリティなのです。 従来のマーケットではブランド・パーソナリティを作り上げることが可能でした。しかし、デジタル製品ではそうはいきません。デジタル企業ではブランド・パーソナリティは作ろうとして作れるものではない、と私は考えています。存在するのはCEOのパーソナリティだけであり、そのパーソナリティによって企業のブランド・パーソナリティのポジショニングが決まるのです。5年から7年にわたって、ジョン・チェンバーズ氏は最前線にいて、機会とカスタマの主要な動向を見出そうとしてきました。チェンバーズ氏はほとんど誰も言っていないときから生産性について発言しており、その先見の明により、リーダーシップの面でシスコ・ブランドは差別化を図ることができました。シスコ・ブランドの方向性がカスタマの注意を喚起し、つねにより良いマーケット・ポジションを保つための重要な要素となっています。

ブランド・モーメンタムを達成しようとがんばっている企業に向けての重要なアドバイスを、本の中からいくつか要約していただけるでしょうか?

ロン・リッチ: 追随する立場にある企業の場合ーほとんどの企業がそうなのですが、モーメンタムの理念では、二つのことを徹底しなければなりません。 まず、質量、スピード、方向性という観点から、競争相手の強いところと弱いところを知ることです。それから、競合企業の弱点を見出し、アキレスのかかとを攻めるのです。言い換えれば、競争相手の弱点によって、質量、スピード、方向性のうちのどれを構築すべきかを決定するのです。それに、やり遂げることのできるもの、成功の確率か高そうなものを選ぶこと。企業が犯す最大の過ちは、あまりにたくさんのことをやろうとすることです。過ぎたるは及ばざるがごとしです。自社のモーメンタムの強いところではなく、競争相手に欠けているモーメンタムに集中するのです。これが成功への最良の方程式なのです。

最後に、これは時として厄介なことであり、エンジニアリングを中心とした企業ではなおさらなのですが、我々の調査で明らかになったのは、人々が製品に注目するときの判断材料となるのは、必ずしも製品そのものができることーつまり速度や精度ーだけでなく、問題を解決するためにその製品でなにができるかということなのです。デジタル時代のカスタマが求めているのは問題を解決することであり、必ずしもより良い仕組みではないのです。正しい価値命題を設定するためには、これがいちばん本質的な要素となるのです。

ジェニー・カーレスは、カリフォルニア州サンタクルーズを拠点とするフリーランス・ライターです。

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Momentum: How Companies Can Become Unstoppable Market Forces
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