最新コミュニケーション技術で環境負担低減 生産性とワークライフバランスを向上

シスコではITを活用した組織のグリーン化を目指し、業務の様々な場面で積極的な環境対策を実践している。これらの活動は、環境に優しい企業という企業価値の向上の側面のみならず、ワークライフバランスの改善や生産性の向上などの効果も生んでいるという。自社のITソリューションを効果的に使いながら環境対策を推進する同社の「グリーンIT」の取り組みにスポットを当てる。

“ITで組織をグリーン化”する3つのキーワード
シスコシステムズ合同会社
インターネット・ビジネス・ソリューションズ・グループ パートナー 鈴木 寿里 氏

シスコシステムズ合同会社
インターネット・ビジネス・ソリューションズ・グループ
パートナー
鈴木 寿里 氏

シスコシステムズ(以下、シスコ)は「組織のITシステムをグリーン化する」という側面と「ITを活用することで組織全体をグリーン化する」という側面からアプローチし、バランスの取れた対策を展開している。なかでも「ITの活用による組織全体のグリーン化」については、自社の製品を効果的に活用。 “建物のグリーン化”“オフィス環境のグリーン化”“移動の削減”の3つの分野で成果を上げているという。具体的にはどのような取り組みなのだろうか。

「“建物のグリーン化”について、シスコでは『コネクテッド リアル エステート』という考え方を推奨しています」と語るのはシスコの鈴木 寿里氏だ。これは、建物の空調や照明、セキュリティコントロールなどをIPネットワークで統合し、監視、管理を強化。使われていない会議室の空調や照明などを自動で制御し無駄なエネルギーを削減するというもの。

「昨年インドに開設したシスコの第2本社では、既にこの考えを導入しています。例えば会議室では予約が入らないかぎり、空調や照明は切られた状態になります。たとえ予約が入っていても、人感センサーで人の気配を感知するシステムが動いているため、人がいなければ、自動的に電源をオフにしてエネルギー消費を抑えています」(鈴木氏)。まさにITを使った環境対策と言えよう。

“オフィス環境のグリーン化”については「コネクテッド ワークプレイス」という考え方を推進している。これは無線LANやIP電話の活用、フリーアドレスのワークスタイルを導入することでオフィスの効率的な利用を目指すというものだ。「サンノゼの本社はもちろん、東京のオフィスでもフリーアドレスを導入しています。フリーアドレスという発想自体は目新しいものではありませんが、無線LANとIP電話を有効活用することで、その効果を高めています」(鈴木氏)。その結果、従業員一人当たりのオフィス面積を従来の約6割にまで減らすことに成功。エネルギー消費を削減すると同時に、オフィス空間の効率的な活用を実現している。また、フレックスタイムにより、通勤時間を有効利用することで、ワークライフバランスの向上にも役立っているという。

移動の削減は会議システムの導入から
オフィス環境のグリーン化を進める「コネクテッド ワークプレイス」。フリーアドレスのオフィスでは、無線LANやIP電話が使え、フレキシブルなコミュニケーションが行える。

オフィス環境のグリーン化を進める「コネクテッド ワークプレイス」。フリーアドレスのオフィスでは、無線LANやIP電話が使え、フレキシブルなコミュニケーションが行える。

“移動の削減”については、各種遠隔会議システムを状況に応じて利用することで、移動に伴うCO2排出量の削減を実現している。会議システムを利用する企業は増えてきているが、シスコの特長ともいえるのが「電話会議」「Web会議/簡易テレビ会議」「テレプレゼンス」といった様々な規模とニーズに対応できる自社ソリューションを利用していることだ。

例えば気軽に音声のみでのミーティングを開きたいのなら、「Cisco Unified IP Phone」を使った電話会議が選択できる。また、ドキュメントやアプリケーションを画面上で共有しながら、打合せをしたい、となればリアルタイムでのWebコミュニケーションを実現する「Cisco Unified MeetingPlace」や「WebEx Meeting Center」がある。これらのソリューションでは、現地に出向く必要がないのは当然ながら、最寄りの会議室にさえ行くことなしにデスクや自宅で簡単に会議に参加できるというわけだ。「私も利用していますが、海外との打合せもスムーズに行えますので出張の必要がなく、環境面での負荷軽減はもちろんのこと、移動時間の短縮、コスト削減など大きな効果があります。また、ドキュメントの共有が可能なため、ペーパーレスで会議が行えるのも利点です」(鈴木氏)。

そして、「Cisco TelePresence」は、遠隔地からの参加者が、その場にいるかのようなリアリティに溢れた会議を可能にする。「従来のテレビ会議システムでは操作が複雑で、運用には専門の技術者が必要でした。しかし、今では会議室の電話のディスプレイから予約した会議を選択し、ボタンを押すだけの簡単な操作ですぐに遠隔会議を開始できます」(鈴木氏)。

しかも、H.264ビデオコーデックによる動画圧縮や専用の高精細度カメラなどの先進技術が更なるメリットを生んでいる。実物大の高精細度画像と空間離散音声により、相手の微妙な表情さえ読み取れるリアル遠隔会議を実現してくれるのだ。

シスコでは、グローバルな全社会議でこの「Cisco TelePresence」の技術を利用している。今年2月に行われた会議では本社会場に集まった人数が約250人。そのほか日本を含む世界の6カ所から約800人がテレプレゼンス経由で参加し、社内向けのインターネット放送を視聴した社員も含めると総勢5200人の大会議となった。

「この会議に日本からは、私を含めた社員数十名が『Cisco TelePresence』を利用し、参加しました。仮に、このためにサンノゼまで飛行機で出かけたとしたら、人数分の旅費や宿泊費、人件費などのコストはもちろんのこと、CO2という観点からもかなりの負荷が掛かっていたはずです。これが全社規模になれば相当数に上るでしょう」(鈴木氏)。

シスコでは、世界各国171カ所に「Cisco TelePresence」を設置し、これまでに、6万2000回以上の会議を実施している。CO2の削減効果に換算すると、年間約1200万立方メートルにも及び、その量は驚くことに5800台の自動車が1年間に排出する量に相当するという。

企業に新たなメリットをもたらすグリーン化への取り組み
「Cisco TelePresence」は、高品質の音声と高解像度ビデオに人間が対話するための要素を組み合わせ、ネットワーク経由で対面で会っているかのような会議環境を提供する。

「Cisco TelePresence」は、高品質の音声と高解像度ビデオに人間が対話するための要素を組み合わせ、ネットワーク経由で対面で会っているかのような会議環境を提供する。

こうした遠隔会議システムの利用について、鈴木氏は、日本の企業は、欧米企業に比べて遅れていると指摘する。その原因について「日本独自のface to face重視のコミュニケーション文化にあるようです」と分析する。

米国では大陸を横断するのに飛行機でも数時間は掛かり、時差も発生する。そこで、ビジネスにおいても電話会議やボイスメールといったコミュニケーション手段が古くから使われ、技術の進歩と共にWeb会議やテレプレゼンスの利用も進んできた。これに対し国土の狭い日本では、飛行機や新幹線を使えば、2〜3時間もあれば全国主要都市への移動が可能になる。これにface to face重視のコミュニケーション文化が加わったことで、こうした技術の導入が遅れたのではないかというのだ。

「それでも、世界規模で環境やエネルギー、コストへの関心が高まっている現在、日本でもこうした状況を見直す動きは必ず出てくると思います。環境問題がトリガーとなり、これまで日本で考えられてこなかった“コミュニケーションの生産性”という概念が着目されるようになってくると思うのです」(鈴木氏)。シスコでは、このように環境対策に正面から向き合うことで、効率的なビジネス・モデルが確立され、企業の収益率をアップさせるという相乗効果も生まれつつある。企業がグリーンITに取り組むことは単なるCSR(企業の社会的責任)対策にとどまらず、意思決定のスピード化やコスト削減、生産性の向上といった多くのメリットを享受できるようになることを体現した実例と言えるだろう。

Cisco TelePresence について詳しくはこちら >

2008年6月17日〜7月14日 nikkeiBPnet Special(日経BP社)掲載記事より転載