RFID、最近の動きを追う

低価格化が進む一方で、取引条件に加える大企業も出現

文:サムエル・グリーンガード

食品・消費財業界に物流サービスを提供している従業員 700 名の ES3 では、つい先ごろ、RFID(無線 IC タグ)の導入を完了した。

それに先立ち同社は、小売在庫、医療機器、生産資材のトラッキングや流通に関連した先行事例を調べてみた。するとすべてにおいて、最新の情報にアクセスし、即座にプロセシングすることが基本だとわかった。これを具体化するにはどうしたらよいか。検討していく過程で、手書きの書類がまずはじかれ、バーコードや磁気ストライプでも情報容量が少なすぎることがわかった。ペーパーワークの削減、サイクルタイムの短縮、コスト削減といったメリットを確実なものにするには、新しい物流技術である RFID を導入するしかない。同社はそう判断した。

現在、ES3 では RFID をさまざまな用途で活用している。ペンシルバニア州ヨークの自動化倉庫では、257 エーカーの敷地内に、通常600 ~ 1,100 台のトレーラーが出入りしている。それらに対する積み込み作業の自動化で RFID が威力を発揮している。トラックが正門に到着すると、警備員が、運転手と積み荷を識別するための RFID タグ(アンテナ付きの小型チップ)をトレーラーに取り付ける。

このタグによって、各トレーラーの状況をリアルタイムに追跡することができ、モニターに表示される“点”で現在位置を確認することができる。運転手も道に迷ったり、間違った積み込みドックに乗り入れたりせずに済むようになり、正門での入構確認にかかる時間も、3 分から 30 秒前後にまで短縮できるようになった。

「このシステムを導入しただけで、月に 10,000 ドル以上も節約できました。RFID のおかげで、車両管理と資産管理が一変しました」。ES3 の上級副社長ジェフ・デービス氏はそう話す。

関心は高まっている

RFID は数十年前からある技術だが、中小規模の企業に広く受け入れられるようになったのは、価格が下がり、ハードウェアやソフトウェアが改良されてきた、つい最近のことである。中小企業市場専門の調査コンサルティング会社 AMI-Partners の上級副社長ディーピンダー・サーニ氏によれば、Wal-Mart をはじめとする大企業や、米国国防省などの政府機関も、納入業者に RFID の使用を求めるようになってきたという。サーニ氏の概算では、従業員数 100 ~ 1,000 人の米国企業で、2005 年に RFID を導入した企業は約 20%、100 人未満の企業では 5% 弱に上ったようだ。

RFID を使えば、手書きの記録やバーコードのスキャニングといった煩雑な作業を自動化できる。RFID リーダはバーコードリーダと違って、視界の外にある対象でもタグの読み取りが可能。また、トランザクションと並行してデータの処理ができるため、後で処理する非効率が避けられる。

RFID には国際標準の EPC(Electronic Product Code)が使用されており、製品データベースと連動させることによって多様な情報を紐づけることができる。また、記憶容量を持つタイプでは、メンテナンス、保管場所、破損、有効期限などの情報を記録させることができ、磁気ストライプやバーコードでは真似のできない管理が可能だ。

「RFID を導入することで、より多くの情報を活用することができるようになり、それがひいては在庫費用の削減につながります」。コンサルティング会社 Accenture のパートナーである E・ジェフリー・ハチンソン氏は述べている。

資産の追跡管理、コンプライアンス、セキュリティ

「RFID 導入の検討には、業務のあり方を再構築し、業者や顧客との情報交換のあり方を一から見直す機会を持つという意味があります」。シスコシステムズ インターネットビジネスソリューションズグループ副社長のモゼン・モアザミ氏は、そう説明する。彼によれば、RFID の業務アプリケーションは大きく 3 つに分類できる。

セキュリティ:施設内の人や車両の位置を追跡するシステム、出入口やチェックポイントで人や物の出入りを管理するアプリケーションなど。

コンプライアンス:企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)、医療保険のポータビリティと説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)、食品医薬品局による規制など、米国政府が行っている各種規制の要件に応じて、人、物、トランザクションに関するリアルタイムな情報を自動的に記録するためのアプリケーション。

資産の追跡管理:商品、物品、資材などの資産の正確な位置を特定することで、エンドツーエンドの可視性と管理を可能にし、最終的に収益向上を実現するアプリケーション。

経済的なメリットとコスト

モアザミ氏によれば、RFID 技術を用いることで通例 1~3% の粗利増、5~10% のコスト減が可能になるほか、在庫回転率を 5~20% 、資産価値を 5~15% 改善できるという。中小規模の企業が RFID 技術を導入するには、RFID システム(デバイスとソフトウェア)を購入するのと並行して、ネットワークインフラの増強が必要になるケースが多い。

Accenture のハチンソン氏によると、導入にかかる総費用は、システムの複雑さやカバーエリアの広さに応じて、数千ドルから数百万ドルになるという。また、ES3 のデービス氏によれば、同社がヨークの倉庫に導入した RFID ソリューションへの投資は、21 ヶ月で完全に回収できたとのことである。同社は物流ソリューションプロバイダの WhereNet が提供するソリューションを採用した。トレーラーの追跡管理システム、構内で常時 15,000 枚以上が流れているパレットを追跡管理するための倉庫作業管理システムなどから成る。

残念ながら小規模企業にとって、RFID の導入はまだまだ負担が大きい。タグの価格が 1 個当たり 15~20 セント、リーダは 1 台当たり約 1,000 ドルするため、「RFID は決して安い買い物ではない」と AMI-Partners のサーニ氏はいう。そこで彼は、中小規模の企業が採り得る方策として、現状のネットワークインフラを RFID に対応可能なものに段階的にアップグレードしていき、併せて業界標準のハードウェアやソフトウェアの比率を高めていくやり方を勧めている。「いずれ RFID を導入するのに最適な時期が来ます」とサーニ氏はいう。

将来的にはタグの値段ももっと下がり、紙製のバーコードラベルのコスト水準に近づいていく――そうすれば、どんな規模の企業でも、RFID を使って日常的にアイテムレベルの追跡管理、在庫補充、セキュリティ対策などを行うようになるはずだと、ハチンソン氏は説明する。ほんの数年前には想像できなかったような効率アップが可能になる。