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第 12 号 - Cisco insight

第 12 号 - 特集記事 - 2

自治体のサービス、業務の「デジタル化」はどのように進められているのか-
「Cisco 地方自治体向けセミナー」レポート

自治体のサービス、業務の「デジタル化」はどのように進められているのか -「Cisco 地方自治体向けセミナー」レポート

社会全体の急速な「デジタル化」が進む中、政府や自治体といった行政機関にも対応が求められています。行政サービスのデジタル対応による利用者の利便性向上といった視点にとどまらず、テクノロジーを活用して、いかに業務効率を高め、職員の働き方を変えていくかが、労働者人口が減っていく中での急務ともなっています。実際に、多くの自治体が既にデジタル化へ向けた取り組みを進めていますが、具体的な進め方、直面した課題、得られた成果といった情報については、共有される機会が少ないのが現状です。2019 年 6 月 13 日にシスコシステムズ(以下、シスコ)東京本社で開催された「Cisco 地方自治体向けセミナー ~事例を通じて考える行政サービスのデジタル化と働き方改革~」は、自治体における先進的なデジタル化事例の共有を通じて、共通の課題を抱える担当者が意見交換を行う貴重な機会となりました。

行政に求められる「デザインシンキング」とは-基調講演

基調講演では、総務省 行政管理局 調査官の大西 一禎氏に「行政分野におけるデザインシンキングの可能性 ~諸外国の状況と総務省(e-Gov)における取り組み~」と題して、お話しをいただきました。

大西氏は、近年、国家のIT戦略において重要な概念のひとつとなっている「デザインシンキング(デザイン思考)」について紹介しました。デザインシンキングとは、製品やサービスを作る際に、実際にそれを使う利用者のニーズや使い勝手を起点として、立案や設計を行う考え方のこと。大西氏は「これまで行政、特に中央政府は、サービスの立案にあたって、利用者の視点が足りないことが多かったように思います。新たなサービスを受け入れてもらうには、利用する人にとっての課題や、それを解決するために何が必要かを理解することが求められます」と、デザインシンキングの重要性を訴えました。

利用者の視点でサービス設計を行う際のポイントは、「思い込みや机上論を捨てる」ことと「ソリューション主導を避ける」ことだと言います。サービスを企画する側としては、つい「ユーザーには、こういう課題があるはずだ」「こういうサービスがあれば便利なはずだ」と考えてしまいがちです。こうした、企画側の思い込みを排し、実際のユーザーに対する調査や聞き取りを通じて、どのようなニーズがあるかを理解することが「利用者起点での問題定義」の第一歩になります。特に、ITを活用したサービスの企画において、この「利用者起点」は重要です。IT の分野は進歩が早く、次々と新たなソリューションが登場します。「利用者が何を求めているか」よりも、「新しい技術でこんなことができる」というソリューションを先行させてサービスを企画するのは危険だと、大西氏は指摘しました。

実際にデザインシンキングに基づく問題解決の例として、大西氏はシンガポールにおける事例を紹介しました。

シンガポールの労働省においては、かねてよりIT等を活用しながら、業務の効率化や生産性の向上に務めてきました。そうした取り組みは実際に、業務の正確性の向上など、ある程度の成果を生んでいましたが、その半面、窓口の混雑が激しくなるといった副作用も生み、最終的な顧客である市民の満足度は低下していました。同省では、「顧客である市民にとって満足度が高いサービスの提供」を目指し、システムの導入やオフィスのレイアウト変更による動線の効率化や、通知文書の見直しなどを含む、業務プロセス全体の刷新に取り組みました。結果、激しかった混雑は緩和され、窓口での問い合わせ件数も減るなど、顧客の満足度向上につながる成果が得られました。

こうした「デザインシンキング」を行政の現場へ取り入れていくにあたっては、さまざまな困難に遭遇することが予想されます。これについては、関係機関での合意形成や調整を進めながら、小さな成功体験を積み重ね、徐々に範囲を広げていくことが必要です。また、IT 担当部門だけでなく、顧客体験に直接責任を負う業務部門を巻き込んでプロセス改革を進められれば、得られる成果の拡大は加速します。大西氏は「デザインシンキングの最終的な目標は組織文化や職員のマインドセットを変えていくこと。これが持続的な顧客満足の向上につながっていく」と述べました。

現在、総務省においても電子政府に向けた「e-Gov」の中で、デザインシンキングの取り組みを進めているといいます。e-Gov の電子窓口、電子申請システムを多様なアプリケーションと連携させ、利用者の利便性を高められるAPI の検討を民間事業者との共創で進めており、2020 年秋頃の公開を目指しているそうです。

総務省
行政管理局 調査官
大西 一禎氏

RPA の導入と「電子決裁率 100 %」はどのように達成されたか-茨城県

続いて、茨城県 総務部 参事(IT行政改革担当)の菊池 睦弥氏が「茨城県が進める業務のデジタル化 ~RPA・電子決裁などの取組~」と題し、茨城県庁におけるIT化の取り組みについて紹介しました。

茨城県では、行政改革の旗印の下、長年にわたって組織のスリム化、業務の合理化が進められてきた結果、一般行政職員1人当たりの人口が、政令市を抱える都府県を除いて全国トップのスリムな人員体制となり、職員にかかる負担も増えていったといいます。そうした中、2017 年 9 月に、IT 業界での経験が豊富な大井川和彦氏が県知事に就任。以降、知事の強力なリーダーシップのもとで、働き方改革と生産性の向上を図るために行政サービスのデジタル化が加速しました。翌2018 年には、業務見直しの視点でシステム部門へ切り込む戦略的な組織として「ICT 戦略チーム」を設置。同チームでは、「県庁業務へのRPA(Robotic Process Automation)の導入」「電子決裁率100 %に向けた取り組み」を展開しています。

RPA の導入に当たっては、まず庁内各課へRPA 導入業務についての提案を募集しました。職員の関心も高く、36 の部署から64 の提案が出されましたが、その中からICT 戦略チームが内容を吟味し、「出先機関への予算配分業務」「県立学校の教員旅費申請の代理登録業務」など、導入時の費用対効果が特に高いと見込まれる4 業務で実証実験を実施しました。

その結果、実験を行った4業務において約80 ~ 90 %の業務時間の削減効果が認められました。菊池氏によれば、実証実験を通じて「県庁の業務は同じ課であっても、職員によってまったく別の業務を行うなど業務内容が細分化していて、1 業務当たりのボリュームが予想外に少ない」「異動サイクルが3年程度の中、RPA シナリオのメンテナンスや担当職員の育成をどうするか」「現状、紙で受理されている申請書が多く、RPA の効果を最大化するにあたってはデジタル化が不十分」といった課題が発見されたといいます。同庁では、業務プロセス自体の改善、人材育成や電子申請の推進なども合わせて、RPA の本格導入に向けた取り組みを継続しています。

「電子決裁率100 %に向けた取り組み」は、大井川知事のリーダーシップにより進められている全庁的な取り組みです。取り組みの趣旨としては、公文書改ざん問題への対応、文書の検索性の効率化、テレワークの推進、書類のデータ化による業務生産性の向上といったものが挙げられますが、知事からは「例外を認めない形で電子決裁を徹底するように」との厳命があったといいます。

茨城県
総務部 参事(IT行政改革担当)
菊池 睦弥氏

実は、茨城県では 2005 年 10 月に電子決裁システムを既に導入していましたが、その利用率は過去に10 %台を越えることはありませんでした。理由としては、「規定上、例外として紙決裁が認められていたこと」「職員が紙決裁に馴染んでいたこと」「スキャナーで紙文書を電子化する負担が大きいこと」などがありました。その一方で、茨城県での年間起案件数は約28 万件にのぼっており、文書の電子化及び電子決裁の利用率向上は、業務改善に向けた最優先事項になっていました。

同庁では、所属別、各職員別の電子決裁率を見える化した上で、「審査」と「決裁」を分離し、電子決裁システムに添付する書類は必要最小限に絞るなどのプロセス面での工夫も行いながら、電子決裁を推進していきました。その結果、2018 年 4 月に13.3 %だった電子決裁率は、7 月までの4カ月間で99.1 %にまで上昇。9 月には99.8%と、目標の100%へ一気に近づいています。「例外を認めない」という原則を知事の強いリーダーシップによって貫けたことが、成功要因だったと菊池氏は振り返ります。

電子決裁についても「紙書類のスキャンにかかる負担が残っている」「原本は必ず保存する必要があるため、本当の意味でのペーパーレス化にはなっていない」「スキャンする資料がA4縦型で、横長画面のPC上での閲覧に最適化されていない」といった課題は残されています。これらについても、電子申請をさらに推進し、原本からデジタル化されている書類を増やすといった取り組みを通じて、解決を図っていきたいとしています。

2020 年に向けた「働き方改革」「業務改革」の実際-東京都

「RPA の取組とテレワークへの挑戦」と題した講演を行ったのは、東京都 戦略政策情報推進本部 ICT推進部 企画課統括課長代理(総務事務改革担当)の佐藤 真理氏です。東京都では、小池百合子都知事のもと、2020 年に向けて、生産性向上と都庁の機能強化に向けた改革を進めています。2017 年度には、「意識改革」「働き方改革」「業務改革」という3分野での改革を実現するため、職員アンケートを通じて課題を設定しました。「テレワークの導入」と「内部管理事務へのRPA の活用」は、その課題を解決していくための、主要な取り組みの一部になっています。

テレワークは、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の実現、育児や介護を行っている職員の生活と仕事の両立、災害時や突発事態への対応を可能にするものとして、東京都では2017 年度から段階的に導入を進めてきました。部署単位での試行を皮切りに、2018 年度にはモデル職場を全局に拡大。サテライトオフィスなども設置して導入範囲を広げ、2019 年 4 月より本庁職員に対する本格導入を開始しました。目的のひとつだった「柔軟な働き方によるライフ・ワーク・バランスの充実」に関しては、講演者である佐藤氏自身も、生活と仕事の両立にあたって、テレワークの恩恵を実感したことや、周囲の職員からもテレワークの恩恵は大きいと感じているとの声もありました。

その一方で、テレワークは「コミュニケーションが取りにくい」と感じる職員も一定数いることが課題として見えてきており、「チャットシステムなどによって、職員同士でより気軽に相談やコミュニケーションができる環境を考えたい」(佐藤氏)としています。東京都では、2020 年のオリンピック・パラリンピック期間中で想定される交通混雑の緩和に貢献することも視野に入れつつ、引き続きテレワークを推進し、大会期間中にはテレワーク、時差勤務、休暇取得などを職員が選択し、円滑に業務が行える環境作りを目指していきます。

「RPA」については、職員のマンパワーを付加価値の高い事業やサービスに集中し、都民サービスのさらなる向上を目指す取り組みとして、2018年度に実証実験が行われました。実験には、主税局、オリンピック・パラリンピック準備局、水道局、収用委員会事務局、総務局が参加。通勤届の作成、人件費支出科目のデータ登録、職員名簿の作成、オープンデータ用のファイル作成といった業務にRPAを適用し、効果や課題を検討しました。約 6 カ月の実証実験では、29 の業務のうち、25 の業務で作業時間が短縮され、試算では、年間計438 時間の縮減効果が確認されました。また、人的ミスの減少で業務の正確性が上がったほか、RPA のシナリオ作成時に必要な業務分析を職員自身が行ったことにより、部署や職員による自律的な業務改善への意識が醸成されるといった副次的な効果もあったとしています。

その一方で、実験を通じて今後のリスクとなり得る課題も浮かび上がりました。例えば、RPA の運用スキルが、担当者の異動などによって伝承されなかった場合に、RPA に依存した業務の実施に混乱が生じる可能性があるというのも、そのひとつです。さらには、エンドユーザーが勝手にRPA のロボットを作成することによって、システムやネットワークに過度な負荷がかかるという状況も防いでいく必要があります。東京都では、これらの成果と課題を参考に、徐々にRPA の対象事務を拡大しつつ、RPA 推進サポートチームの設置、適正な運用に向けた管理ルールの作成などを進め、各局が自主的にRPA を活用し、課題解決に取り組めるよう、2021 年度の本格導入を目指したい考えです。

東京都
戦略政策情報推進本部 ICT推進部 企画統括課長代理(総務事務改革担当)
佐藤 真理氏