Enhanced Interior Gateway Routing Protocol(EIGRP)は、Cisco IOS® ソフトウェア リリース 10.3(11)、11.0(8)、11.1(3)、およびそれ以降で大幅に拡張されました。 実装は、EIGRP によって利用される帯域幅の容量をより適切に管理し、低速ネットワーク(フレーム リレーなど)やネイバーが多数の構成でのパフォーマンスを向上させるように変更されました。
変更の大部分は透過的です。 ほとんどの既存設定は、今までどおり動作し続けます。 ただし、低速リンクおよびフレーム リレー ネットワークの向上を有効に利用するには、EIGRP が実行されている各インターフェイスで帯域幅を適切に設定することが重要です。
この拡張実装は以前のバージョンと相互運用できますが、ネットワーク全体をアップグレードするまで拡張のすべてのメリットを実感することはできません。
このドキュメントを読むには、次の基礎知識が必要です。
EIGRP
フレーム リレー
このドキュメントは、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されたものです。 このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。 対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのような作業についても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
拡張実装では、一定時間内に伝送する EIGRP データの量を決めるために、あらかじめ設定されたインターフェイスの帯域幅が使用されます。 デフォルトでは、EIGRP はインターフェイス帯域幅の 50% 以上を使用しないように制限されます。 EIGRP の帯域幅の使用を制御する主な利点は、EIGRP パケットの喪失を防ぐことです。EIGRP パケットの喪失は、EIGRP のデータ生成速度がインターフェイス回線のデータ吸収速度よりも速い場合に発生することがあります。 これは、アクセス インターフェイスの帯域幅と PVC のキャパシティが大きく異なることがある、フレーム リレー ネットワークでは特に有用です。 もう 1 つの利点は、EIGRP パケットが大量に発生した状態であっても、ユーザ データを伝送するための帯域幅をある程度確保できることです。
帯域幅の量は、次のインターフェイス サブコマンドによって制御されます。
router-number percent
上記に加えて、IP、AppleTalk、および IPX EIGRP に応じて次の中から選択 することも可能です。
bandwidth-percent コマンドは、EIGRP が使用できる設定済みの帯域幅のパーセンテージを示します。 デフォルトは 50% です。 bandwidth コマンドはルーティング プロトコル メトリックの設定にも使用されるため、ポリシー上の理由から、ルートの選択に影響する特定の値が設定されることがあります。 ポリシー上の理由などによって、帯域幅が意図的に低く設定されている場合、bandwidth-percent コマンドに 100 より大きい値を設定できます。
たとえば、次の設定では、IP-EIGRP AS 109 はシリアル 0 で 42Kbps(56Kbps の 75%)を使用できます。
interface Serial 0 bandwidth 56 ip bandwidth-percent eigrp 109 75
次の設定では、IPX-EIGRP AS 210 はシリアル 1 で 256Kbps(128Kbps の 200%)を使用できます。
interface Serial 1 bandwidth 128 ipx bandwidth-percent eigrp 210 200
注: これは、Serial 1 が実際には 256 Kbps 以上の速度で動作していることを前提とします。
拡張実装で帯域幅が実際のリンク速度より低い値に設定されている場合、コンバージェンスが以前の実装よりも遅くなることがあります。 多くの経路を持つシステムで帯域幅の設定が低い場合は、コンバージェンスが非常に遅いことがトリガーとなって「Stuck In Active」が検出され、そのネットワーク上でのコンバージェンスが中断されるおそれがあります。 この状態は、次の形式のメッセージが繰り返し表示されることからわかります。
%DUAL-3-SIA: Route XXX stuck-in-active state in IP-EIGRP YY. Cleaning up
この問題を回避するには、EIGRP の「アクティブ」タイマーの値を大きくします。これは、次のコマンドで設定します。
router eigrp as-number timers active-time
拡張コードのデフォルト値は 3 分です。 以前のリリースでは、デフォルト値は 1 分でした。 この値の変更は、ネットワーク全体にわたって行う必要があります。
帯域幅の設定が高すぎる場合(実際に使用可能な帯域幅よりも大きい場合)は、EIGRP パケットが喪失するおそれがあります。 パケットは再送されますが、これによってコンバージェンスの質が下がります。 ただし、この場合は、以前の実装よりコンバージェンスが遅くなることはありません。
次の推奨事項では、インターフェイスの「帯域幅」パラメータの設定に関して説明します(デフォルトでは、EIGRP はこの帯域幅の 50% を使用できます)。 ルーティング ポリシーの留意事項やその他の理由から、インターフェイスの帯域幅設定を変更できない場合は、bandwidth-percent コマンドを使用して EIGRP 帯域幅を制御します。 低速インターフェイスでは、コンバージェンス速度を向上させるために、EIGRP で使用できる帯域幅をデフォルトの 50 % より上げることをお勧めします。
ベスト プラクティスとして、自動集約機能を無効にします。 自動集約を無効にするには、no auto-summary コマンドを設定します。
LAN インターフェイスの帯域幅パラメータはデフォルトで実際のメディア速度に設定されているため、帯域幅を明示的に低い値に設定する場合を除き、特に設定する必要はありません。
帯域幅パラメータは、デフォルトでシリアル インターフェイスの T1 速度(1.544 Mbps)に設定されています。 これは、実際のリンク速度に設定することをお勧めします。
ノンブロードキャスト マルチアクセス(NBMA)インターフェイスを正しく設定することが特に重要です。正しく設定しなければ、多くの EIGRP パケットがスイッチド ネットワークで失われる可能性があります。 NBMA インターフェイスの設定には、3 つの基本原則があります。
EIGRP が 1 つの仮想回線(VC)で送信できるトラフィックは、その VC のキャパシティを超えないようにします。
すべての VC での EIGRP トラフィックの合計値が、そのインターフェイスのアクセス回線速度を超えないようにします。
EIGRP が各 VC 上で使用できる帯域幅は、どちらの方向も同じにする必要があります。
NBMA インターフェイスには、次の 3 種類のシナリオがあります。
純粋なマルチポイント設定(サブインターフェイスなし)
純粋なポイントツーポイント設定(各 VC が異なるサブインターフェイス上にある)
ハイブリッド設定(ポイントツーポイント サブインターフェイスおよびマルチポイント サブインターフェイス)
次に、それぞれについて個別に見ていきます。
この設定では、設定した帯域幅が EIGRP によって各 VC に均等に分割されます。 これによって各 VC が過負荷状態にならないようにする必要があります。 たとえば、56K の VC が 4 本ある T1 アクセス回線がある場合、帯域幅を 224Kbps(4 * 56Kbps)に設定してパケットの廃棄を防止する必要があります。 VC の総帯域幅がアクセス回線速度と等しい、またはそれを超える場合は、帯域幅をアクセス回線速度と同じ値に設定します。 VC 間でキャパシティが異なる場合は、最もキャパシティの小さい VC を考慮して帯域幅を設定する必要があります。
たとえば、T1 アクセス回線に 256Kbps の VC が 3 本と 56Kbps の VC が 1 本ある場合、帯域幅は 224Kbps(4 * 56Kbps)に設定します。 このような設定では、他の VC の帯域幅を向上させるために、少なくとも低速 VC をポイントツーポイント サブインターフェイスに配置することをお勧めします。
この設定では、各サブインターフェイスで帯域幅を個別に設定することができるため、帯域幅を最大限に制御できます。また、これは、仮想回線のキャパシティが異なる場合に最適な設定です。 各サブインターフェイスの帯域幅は、関連付けられた VC で使用可能な帯域幅よりも大きくならないように設定し、すべてのサブインターフェイスの帯域幅合計が使用可能なアクセス回線の帯域幅を超えないようにする必要があります。 インターフェイスの帯域が過多になる場合は、各サブインターフェイスにわたってアクセス回線帯域幅を分割する必要があります。 たとえば、T1 アクセス回線(1544 Kbps)に キャパシティが 256Kbps の仮想回線が 10 本ある場合、各サブインターフェイスの帯域幅をそれぞれ 256Kbps ではなく 154Kbps(1544/10)に設定します。
ハイブリッド コンフィギュレーションでは、3 つの基本原則に従いながら、2 つの異なる方法を組み合せて使用します。
このセクションの例は、トポロジと設定の関係を示しています。 これらの設定例に示されるのは、EIGRP の帯域幅の使用に関する設定コマンドのみです。
トラフィックの量が少ないネットワークでよく見られる設定は、ハブへのアクセス回線がオーバースクライブしているハブアンドスポーク設定です(通常はこれが問題になるほどのデータ トラフィックがないため)。 このシナリオでは、図 1 に示すように、ハブに対する 256Kbps のアクセス回線と、10 ヵ所のスポーク サイトのそれぞれに 56Kbps のアクセス回線があると想定します。IP EIGRP プロセス ID の 123 が設定済みです。
注: このドキュメント内の図では、点線は個別の PVC に相当し、それぞれの色は個別の IP サブネットを表しています。
図 1
使用できる最大の帯域幅が 256 Kbps であるため、個々の PVC が処理できる最大の帯域幅は 25 Kbps(256/10)です。 このデータ レートは非常に低く、それほど多くのユーザ データ トラフィックは流れないと想定できるため、EIGRP で使用可能な帯域幅のパーセンテージを 90 % にします。
ハブ設定は、次のようになります。 この設定では、サブインターフェイス s0.1 および s0.2 の設定のみを示します。 10 個すべてのサブインターフェイスの設定は同じため、設定を短くするためにその他 8 個のサブインターフェイスは省略します。
ハブ ルータ |
---|
interface Serial 0 encapsulation frame-relay !--- To enable Frame Relay encapsulation on the interface. interface Serial 0.1 point-to-point !--- The subinterface is configured to function as a point-to-point link using this command. bandwidth 25 !--- To set the bandwidth value for this interface. ip bandwidth-percent eigrp 123 90 !--- To configure the percentage of bandwidth that may be !--- used by EIGRP on this interface. interface Serial 0.2 point-to-point bandwidth 25 ip bandwidth-percent eigrp 123 90 |
10 台の各スポーク ルータでは、前述の 3 つ目のルールを満たすために、EIGRP トラフィックをハブと同じレートに制限するよう設定する必要があります。 スポークの設定は次のようになります。
スポーク ルータ |
---|
interface Serial 0 encapsulation frame-relay !--- To enable Frame Relay encapsulation on this interface. interface Serial 0.1 point-to-point !--- The subinterface is configured to function as a point-to-point link !--- using this command. bandwidth 25 !--- To set the bandwidth value for this interface. ip bandwidth-percent eigrp 123 90 !--- To configure the percentage of bandwidth that may be !--- used by EIGRP on this interface. |
インターフェイスのキャパシティが 56 Kbps であっても、EIGRP は最大で 22.5 Kbps(25 K の 90 %)しか使用しません。 この設定はユーザ データ キャパシティには影響を与えないため、ユーザ データでは引き続き 56 Kbps 全体を使用できます。
一方、インターフェイスの帯域幅を、PVC のキャパシティを反映するように設定する場合は、EIGRP の帯域幅のパーセンテージを調整します。 この例では、EIGRP の目的の帯域幅は(256K/10)*.9 = 23.04K です。 そのため、帯域幅のパーセンテージは、23.04K/56K = .41(41%)になります。 したがって、次のように設定しても同じ結果が得られます。
interface Serial 0.1 point-to-point bandwidth 56 ip bandwidth-percent eigrp 123 41
この設定では、図 2 に示すように、IPX EIGRP のプロセス ID 456 を実行する 4 台のルータがある、マルチポイント ネットワークとして設定されたフルメッシュ フレーム リレー ネットワークがあります。
図 2
4 台中 3 台のルータ(ルータ A~C)には 256 Kbps のアクセス回線がありますが、残り 1 台(ルータ D)には 56 Kbps のアクセス回線しかありません。 このシナリオでは、EIGRP の帯域幅を制限して、ルータ D への接続が過負荷にならないようにする必要があります。 最も単純なアプローチは、4 台のルータすべての帯域幅を 56 Kbps に設定することです。
ルータ A ~ D |
---|
interface Serial 0 encapsulation frame-relay !--- To enable Frame Relay encapsulation on this interface. bandwidth 56 !--- To set the bandwidth value for this interface. |
この帯域幅は EIGRP によって 3 つの PVC に均等に分割されます。 しかし、A~C に接続する PVC にはより多くのトラフィックを処理できる十分なキャパシティがあるため、この方式で与えられた帯域幅はこれらの PVC にとって制限が大きすぎます。 この状況に対応する方法の 1 つが、上記の例のようにすべての PVC でポイントツーポイント サブインターフェイスを使用するようネットワークを変更することです。 また、図 3 に示すように、ルータ A ~ C をフルメッシュ マルチポイント サブインターフェイスに配置し、ルータ D への接続にポイントツーポイント サブインターフェイスを使用し、ルータ D のすべての接続をポイントツーポイント サブインターフェイスにすることによって、ネットワークを分割する方法もあります。この方法は、設定が少なくて済みます。
図3
ルータ A~C |
---|
interface Serial 0 encapsulation frame-relay !--- To enable Frame Relay encapsulation on this interface. interface Serial 0.1 multipoint !--- The subinterface is configured to function as a point-to-point link using this command. bandwidth 238 !--- To set the bandwidth value for this interface. interface Serial 0.2 point-to-point bandwidth 18 description PVC to Router D |
ルータ D の設定は次のようになります。
ルータ D |
---|
interface Serial 0 encapsulation frame-relay !--- To enable Frame Relay encapsulation on this interface. interface Serial 0.1 point-to-point bandwidth 18 !--- To set the bandwidth value for this interface. description PVC to Router A interface Serial 0.2 point-to-point !--- The subinterface is configured to function as a point-to-point link !--- using this command. bandwidth 18 description PVC to Router B interface Serial 0.3 point-to-point bandwidth 18 description PVC to Router C |
マルチポイント サブインターフェイスの設定が 238 Kbps(256-18)、ポイントツーポイント サブインターフェイスの設定が 18 Kbps(56/3)である点に注意してください。
「帯域幅」設定を「加工しない」値のまま残す場合は、前の例と同様に、もう一方の設定を使用できます。 ポイントツーポイント インターフェイスで必要な帯域幅は、(56K/3)*.5 = 9.33K です。 パーセンテージは 9.33K/56K = .16(16%)になります。 マルチポイント インターフェイスでは、目的の帯域幅は (256K - 18K)*.5 = 119K であり、帯域幅のパーセンテージは 119K/256K = .46 (46 %) になります。 その結果、設定は次のようになります。
ルータ A~C |
---|
interface Serial 0.1 multipoint !--- The subinterface is treated as a multipoint link. bandwidth 256 !--- To set the bandwidth value for this interface. ipx bandwidth-percent eigrp 456 46 !--- To configure the percentage of bandwidth that may be used by !--- EIGRP on this interface. interface Serial 0.2 point-to-point !--- The subinterface is configured to function as a point-to-point link !--- using this command. bandwidth 56 description PVC to Router D ipx bandwidth-percent eigrp 456 16 |