
| ユーザー事例 |
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自治体が民間に開放するIP-VPN
ふくおかギガビットハイウェイ
[目次]
- ◆ [トップダウンが生んだ新しい情報ハイウェイ]
- ◆ [MPLSベースのIP-VPNで高速ネットワークを実現]
- ◆ [デファクトスタンダードの強みをいかんなく発揮]
- ◆ [ネットワーク構築のアドバイザー的役割を担ったシスコ]
インターネットの普及によって、首都圏と地方の情報格差はすでに存在しないに等しい。しかし、地方のネットワークシステムは、採算性の問題で首都圏に対し整備のスピードが遅れがちとなっている。そのため、民間が整備するのを待たず、自治体が自前でネットワークハイウェイを構築するケースが増えはじめた。福岡県でも、県の予算でこれまでに例のない高速情報ハイウェイを構築。県知事自らがトップダウンで構築した、画期的な情報ハイウェイの実態について探ってみよう。
| トップダウンが生んだ新しい情報ハイウェイ |
自治体が構築するネットワークは、自治体の庁舎と出先の出張所や学校などの公的な設備を結ぶ、大きなイントラネットのようなものがほとんどである。しかし福岡県では、地域活性化のために企業誘致を行う活動の一環として、県が民間に開放する情報ハイウェイを持つこととなった。この背景には通信事業者のネットワーク構築の対応がなかなか進まないことがある。企業誘致を行うにあたり、ネットワーク通信網の整備は今や非常に重要な要素である。そこで、早急に高速ネットワークを実現するため、福岡県が自ら情報ハイウェイを構築することとなったのだ。
こうした多額の予算を必要とする重要事案の決定には時間がかかるのが通例だ。しかし福岡県では、県知事の判断によって非常に素早く対応した。自治体内の通信インフラの整備ではなく、産業政策のひとつである民間向けの情報ハイウェイ網の整備であるため、ネットワーク構築はできるだけ早い方がいい。福岡県では、県知事の素早い決断によって、構想から実際の稼働までが非常に早いものとなっている。実際に「ふくおかギガビットハイウェイ」の構築を推進してきた、福岡県高度情報政策課情報企画監の溝江言彦氏はこう語る。
「ふくおかギガビットハイウェイの構築がスムーズに進んだ背景には、知事のリーダーシップと、福岡県をこれからどうしていくのかという知事の政策的な意図が大きく反映しています。グローバルな環境の中で、福岡県の企業ビジネスを成り立たせるためにはネットワークが不可欠です。また、ビジネス面だけではなく医療や教育も含め、これから始まるグローバルな競争に乗り遅れてはいけないし、グローバルなサービスを福岡県でも利用できなければいけません。その中で県として必要だったのが、インフラの整備であったというわけです。また、政府のe-Japan戦略もあり、福岡県も当然ネットワークの充実に対応する必要がありました。実際には、e-Japan戦略以前の2000年4月にふくおかギガビットハイウェイの構想ができており、迅速に対応が行えたわけです」
福岡県企画振興部
高度情報政策課情報企画監
溝江言彦氏
| MPLSベースのIP-VPNで高速ネットワークを実現 |
インフラ整備といっても、もちろん県として光ファイバーを敷設するわけではなく、ダークファイバーを借り上げている。また、アクセスポイントも県の設備ではなく、民間のものを借りている。いわば民間の資産、ノウハウを活用することにより、高度なネットワークを迅速に稼動させることを狙ったわけである。この点について、福岡県高度情報政策課企画主幹の江口勝氏は次のように語っている。
「他のネットワークに比べ、ふくおかギガビットハイウェイは産業政策が表に出ているのが特徴となっています。ただし、行政のためにネットワークを作り、それを産業政策にも分け与えるというのではなく、行政もユーザーの1人であるという理念で構築しています」
福岡県企画振興部
高度情報政策課
情報企画主幹
江口勝氏
このふくおかギガビットハイウェイは、県庁のある福岡市を中心に北九州市、直方市、飯塚市、田川市、久留米市、大牟田市を結ぶ全長約510kmにも及ぶ広域ネットワークだ。このネットワークの中枢にあるのがCisco12400インターネットルータで、最大で2.4GBという高速ネットワークになっている。最新のネットワークということでいえば、10GBという選択もあったわけだが、予算や信頼性などさまざまな要素を踏まえて検討し、今回は2.4GBのネットワークということになった。ネットワークはMPLSベースのIP-VPNで、BGP-4によるダイナミックルーティングやVPNからのインターネット接続も行える。また、日本テレコムのIP-VPN「SOLTERIA」のサービスネットワークとも接続を行っており、県のネットワークの枠を超えた形でのイントラネットの構築も可能となっている。
接続形態は、先に記述した7つの市にアクセスポイントを置き、そのアクセスポイントまでは電気通信事業者などの回線サービスを利用する形となる。接続にあたってはアクセスポイントまでの通信料金などは利用者の負担だが、県内のバックボーンは無料となっている。利用料が無料というのも画期的なことといえる。通常、通信事業者はネットワーク構築にかかった費用や管理費などを含め、利用者から使用料を取るのが一般的だ。しかし、ふくおかギガビットハイウェイは高速ネットワークでありながら、企業誘致の呼び水として、知事の判断で利用料を無料としたのである。
利用対象は幅広く、ISPやブロードバンドサービスを行う事業者や、大容量の回線を使用したい企業や団体、そして個人に対しても門戸を開いている。実際の運用開始は2001年の11月であるが、運用開始以前からかなり反響があり、すでにコンテンツ配信事業者や一般の企業など二十数社が接続を申請している。また、問い合せや申込みも多数あることから、今後の接続数は相当数にのぼるものと予想される。
県庁のある福岡市を中心に北九州市、直方市、飯塚市、田川市、久留米市、大牟田市を結ぶ全長約510kmにも及ぶ広域ネットワークを構築。MPLS(マルチ・プロトコル・ラベル・スイッチング)は、シスコのタグスイッチング技術をベースに誕生した、IETF(Internet Engineering Task Force)標準のテクノロジーで、IPパケットに接続先を判定するためのラベルを追加するプロトコルだ。MPLSのメリットとして、経済的でデータ転送速度とQoS(通信の品質保証)の向上、運用管理が容易、高いセキュリティ性の実現、拡張性の高さがあげられる
| デファクトスタンダードの強みをいかんなく発揮 |
福岡県では、ネットワーク構築にあたり「ギガビット委員会」を設置した。ギガビット委員会は、学識経験者を中心とする構想分科会、キャリア関連を中心とする技術分科会、SIerを中心とするシステム分科会の3つの分科会で構成される。構想分科会では、ネットワークがどうあるべきかなどの根本の部分を検討し、技術分科会ではサービス面の検討を、システム分科会ではネットワークを実際にどう運営していくかを検討した。この委員会がまとめたものを県側が再度検討して集約したものが、現在のふくおかギガビットハイウェイというわけだ。全体の仕様書は福岡県側が決定したわけだが、事業者側から提案書を出してもらい、それを審査する形を取った。そこで提案されたのがシスコ製品だったのである。溝江氏は次のように語る。
「他社との比較の余地はありませんでした。もちろんキャリア関係の会社から、いろいろな意見は聞いています。ふくおかギガビットハイウェイは、県が通信事業をやっているのと同様なわけですから、通信事業者として一番良いシステムを組みたいということから、自然にシスコに行き着いたのです。また、ネットワークをどういうものにするかということを考えた時、ギガビット委員会からもシスコの名前が挙がりました。我々の考えるサービスを実現するには、ユーザーにとって利用機器の費用負担が少なく、高度なセキュリティが簡単に利用できる必要があります。それを実現するためにはシスコ製品が最良であったということです。また、これまでのネットワークシステムは自分のところが最適になればいい、という具合につくってきたケースがほとんどです。しかし、これから先のことを考えた場合、ネットワークシステムは他のネットワークともつないで行かなければなりません。広い視点で見れば、我々のネットワークもさらに大きなネットワークの一部ということです。他のネットワークとつなぐ時に最適化するためには、デファクトスタンダードであるシスコ製品がいい、ということになったわけです」
イントラネットでさえも、システム内は最適化をしやすいようにユニットを同一メーカーで揃えるのが普通だ。他のネットワークとの相互乗り入れを行う場合、双方が同じシステムであることが一番好ましいのは当然である。シスコ製品が世界中のさまざまなネットワークで利用され、信頼性の高さを証明しているからこそ、ふくおかギガビットハイウェイで採用されたのである。
Cisco12400、Cisco7500、Catalyst6000が
ふくおかギガビットハイウェイの中枢を支える他のネットワークとの相互乗り入れという展開を考慮し、ふくおかギガビットハイウェイはデファクトスタンダードであるシスコの製品で統一されている
| ネットワーク構築のアドバイザー的役割を担ったシスコ |
シスコの対応にも満足していると溝江氏は言う。
「我々のところに来られるハードベンダーの方は、カタログで売り込みに来られる方がほとんどで、自社の製品を基準にしてソリューションを提案されます。しかし、シスコはまったく違いました。『今のネットワークはこういうもので、ネットワークは将来こういう形になっていくでしょう』といった具合に、コンサルタント的な概論や、福岡県が目指すネットワークに対するアドバイスをしてくれたのです。我々もハード面やソフトの運用面に関して、シスコの担当者から時間をかけて説明していただきました」
自治体の場合、製品の選定にしても、企業とのつきあいにしても慎重にならざるを得ない部分がある。しかし、今回のシスコの対応は、メーカーというよりもアドバイザー的なつきあいからスタートしている。だからこそ、シスコに対する県の信頼が厚くなったといえよう。また、知事を含めた担当者たちはサンノゼのシスコ本社を訪れたり、シスコのCEOであるジョン・チェンバースと会談を行ったりした。その際もシスコ製品の説明を受けるのではなく、今後のネットワークの重要性やアメリカの自治体での事例紹介、日本のネットワークの将来像などについてのレクチャーがあったという。
今後、ふくおかギガビットハイウェイは、福岡と韓国の釜山を結ぶことになっているKJCNによって、韓国と直接結ばれることになる。釜山には香港や上海からも海底ケーブルが陸揚げされているので、いずれふくおかギガビットハイウェイはアジア諸国と直接ブロードバンドを結ぶこととなる。
ふくおかギガビットハイウェイは他の自治体からも注目を集め、運営の姿が見え始めたころから、多くの県の担当者から問い合せの電話や訪問があったという。このふくおかギガビットハイウェイが成功を収める鍵として、福岡県高度情報政策課長の田尾泰幸氏は次のように語る。
「今までの例でいうと、東京で展開されたサービスが地方で展開されるまでには時間がかかっていました。タイムラグなしでサービスが展開できれば、このふくおかギガビットハイウェイは成功したといっていいのではないでしょうか」
福岡県企画振興部
高度情報政策課
田尾泰幸氏
また、知事を含めた担当者たちは、ふくおかギガビットハイウェイに代わる、民間の通信事業社が参入してくれさえすれば、いつでも手を引くつもりなのだと溝江氏らは語る。
「今後の構想は、企業の呼び水として成功したら、できるだけ早く止めることです。本来、こういった分野は、自治体が手を出すべきものではないと思っています。ただし、ネットワークに関しては、作って終わりというわけにはいかず、IT技術者も多数必要になってきます。ネットワークを活用し、ビジネスに関してもアジアの玄関口になるためにも、デファクトスタンダードのシスコの力を借りて、日本だけではなくアジアのIT技術者を増やすための人材育成の拠点となるための方策を立てていきたいと考えています」
シスコは、ふくおかギガビットハイウェイが、官・民での地域活性化としてのモデルケースとなることを期待し、今後も積極的にサポートしていく予定である。
福岡県庁 2001年11月から、企業誘致を行う活動の一環として、県が民間に開放する情報ハイウェイ「ふくおかギガビットハイウェイ」の運用を開始。今後は環黄海地域をはじめとしたアジア諸国・世界各地との地域間交流を拡大し、九州、西日本、アジアにおける交流拠点を目指し、一層の飛躍を図る。 福岡県企画振興部高度情報政策課・ギガビット推進担当
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更新日:2002年2月8日
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