Cisco Aironet 3600 シリーズ

シスコの Aironet 3600 シリーズ アクセス ポイント − 業界最高レベルのパフォーマンス

ホワイト ペーパー





シスコの Aironet 3600 シリーズ アクセス ポイント − 業界最高レベルのパフォーマンス



Cisco® Aironet® 3600 シリーズ アクセス ポイントには、業界最高レベルのパフォーマンスを実現する画期的なテクノロジーが組み込まれています。このホワイト ペーパーでは、高いパフォーマンスが達成される仕組みとその重要性について説明します。


市場と技術の概要


3 空間ストリーム デバイスが市場に出現し、iPad を始めとする 1 または 2 空間ストリーム デバイスも引き続き使用されている現在、あらゆるデバイスのパフォーマンスの最大化が重要な課題となっています。この問題に対処しないと、ネットワークの速度が遅くなり、すべてのデバイスのアプリケーション パフォーマンスが低下します。

シスコの Aironet 3600 シリーズ アクセス ポイントは、あらゆるデバイスにクラス最高レベルのパフォーマンスを提供できるように設計されているので、最適なネットワーク パフォーマンスを実現し、投資を有効に活用できます。企業はデバイスの空間ストリーム数を気にせずに任意のデバイスをネットワークで効果的に利用できるようになります。

3600 シリーズのクラス最高レベルのパフォーマンスは、次のテクノロジーによって支えられています。

  • エンタープライズクラスの製品として初めての 4 トランシーバ 802.11n MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)設計(4x4:3)
  • すべての 802.11n クライアントで機能する Cisco ClientLink 2.0 ビームフォーミング
  • Cisco CleanAir テクノロジーによる干渉管理

これらのテクノロジーはどのように機能しているのでしょうか。これまでの歴史を振り返りながら説明を進めていきます。802.11n デバイスが初めて登場したのは数年前のことです。第一世代のデバイスの最大レートは 300 Mbps でした。このデータ レートは、空間ストリームを 2 つ使用し、それぞれ、20 MHz スペクトルあたり 75 Mbps のデータをダブルワイドの 40 MHz チャネルで伝送することにより達成されました。数式で表すと、75 Mbps x 2 ストリーム x 2 チャネル = 300 Mbps となります。双方向で 2 空間ストリームをサポートするためには、リンクの両端(アクセス ポイントとクライアント)に最低限 2 つの MIMO トランシーバが必要です。

最近、最大 3 つの空間ストリームをサポートできる新世代の 802.11n デバイスが市場に投入されました。理論的には、75 Mbps x 3 ストリーム x 2 チャネル = 450 Mbps の最大レートが達成可能です。この最大データ レートを双方向で達成するには、リンクの両側(クライアントとインフラストラクチャ)が 3 空間ストリームに対応していなければなりません。そのためには、両端に少なくとも 3 つの MIMO トランシーバが必要です。

最大速度は重要ですが、その速度が達成される頻度も考える必要があります。450 Mbps の最大データ レートの達成は簡単なことではなく、綿密な設計が必要です。これについては、このホワイトペーパーで後述します。ここでは、リンクの両側で 3x3:3(3 トランシーバ、3 空間ストリーム)アーキテクチャを使用する現在のソリューションが現実に 450 Mbps を達成できることはまれで、短距離以外ではパフォーマンスが大幅に低下するということを覚えておいてください。現実の世界では、すべてのクライアントがアクセス ポイントから 3 メートル(10 フィート)以内の位置にあるということは考えられません。このような環境で、3 空間ストリームを確実に機能させるためには、リンクの一方に 4 つ目のトランシーバを追加する必要があります。そして、この 4 つ目のトランシーバを入れる場所は、論理的に考えて、バッテリ駆動のクライアントよりも、サイズや電力の制約の少ないアクセス ポイントの方が自然です。

アクセス ポイント上の 4 つ目のトランシーバは、リンク マージンの余剰デシベルとなり、それによってパフォーマンスが向上します。このホワイト ペーパーの後ろの方で詳しく説明しますが、アップリンク方向(クライアントからアクセス ポイントの方向)に余分なレシーバを入れると、MIMO イコライゼーションによる利得を得ることができます。これにより、既存のソリューション(4.5 メートル、15 フィート)の 2 倍の距離(9.1 メートル、30 フィート)で 450 Mbps の速度が達成可能になります。

ダウンリンク方向では、余分なトランスミッタによってクライアントへのビームフォーミングが可能となります。シスコが実装したビームフォーミングである ClientLink 2.0 は、あらゆる 802.11n クライアントで機能するように設計されています。そのため、標準ベースのビームフォーミングに対応しているデバイスも対応していないデバイスも使用できます。また、クライアントがサポートする空間ストリーム数が 3 でも 2 でも 1 であってもビームフォーミングが可能です。

したがって、3x3:3 アーキテクチャが提供するのは論理的な高データ レートだけですが、4x4:3 の 3600 シリーズは高いデータ レートと実用性の両方を提供します。もちろん、4x4:3 のソリューションの構築には、カスタム チップ セットやその他のエンジニアリングが必要となるので、これを提供できるのはシスコのようにお客様の要件に迅速に対応できるベンダーに限られます。

現実的に 3 空間ストリームの効果を実感するためには、企業の典型的な使用範囲で機能しなくてはなりません。だからこそ、Cisco Aironet 3600 シリーズが必要なのです。競合他社の設計でも 450 Mbps のデータ レートは提供されますが、それが可能なのは 4.5 メートル(15 フィート)以下の範囲に限定されます。アクセス ポイントは天井に設置されることが多いので、使用可能な範囲が 4.5 メートル(15 フィート)では、4.5 メートルのフロア スペースをカバーできません。信号の伝送距離には天井からデバイスまでの距離が含まれるため、デバイスが典型的な高さにある場合、現在の設計で最大レートがカバーされるのは、アクセス ポイントから 3.7 メートル(12 フィート)より近い範囲となります。3600 シリーズを使用すれば、3 空間ストリームで 450 Mbps が達成される範囲が 9.1 メートル(30 フィート)に拡大します。範囲が 2 倍になると、実際には、450 Mbps を達成できるカバレッジ エリアは 500 % 拡大します。

3600 シリーズの強みは、旧型の 802.11n クライアントを使用しても高いパフォーマンスを提供できる点です。シングル ストリームのクライアントに対する最大レートのカバレッジエリアは Y だけ増大し、デュアル ストリームのクライアントでは Z の増大になります。これは非常に重要な利点です。すべてのクライアントが 3 空間 ストリームになるにはまだ長い期間がかかると考えられ、特に電話は シングル ストリームのまま維持される可能性が高いからです。

詳細:アップリンク


3 MIMO レシーバは理論的には 3 空間ストリームを十分に処理できるのですが、チャネル フェージングや不可避のハードウェア障害に備えるための冗長性を確保できないという問題があります。残念なことに、実際に運用すると、短距離でしか機能せず、性能も安定しません。この問題を打開するため、シスコは純粋に空間多重化に依存する製品を飛び越し、4 つ目のレシーバを追加して、空間多重化とダイバーシティのハイブリッドを提供することにしました。

シスコのソリューションは、GPS ポジショニングに似ています。GPS ポジショニングでは、レシーバの緯度と経度を判断するために、GPS 衛星信号が 3 つ必要です。ロケーションの精度を高めるには 4 つ以上の GPS 衛星が必要であり、エントリレベルの GPS 製品でも 12 以上の衛星を追跡できます。

3 つの空間データ ストリームをサポートするために 4 つ目のレシーバを追加すると、冗長性利得とダイバーシティ利得によって大きな効果を得ることができます。

冗長性利得

余剰アンテナが捕捉した信号は、冗長性利得をもたらします。線形代数と同様、4 つ目のレシーバを追加することで、3 つしかない未知数に 方程式を 4 つ与えることができます。余剰な方程式があれば、送信された信号を復元する際の自由度が増します。1 つ増えると、冗長性利得により、距離範囲が約 10 % 拡大します。

ダイバーシティ利得

ダイバーシティ利得はさらに重要です。チャネルにはフェージングが生じるものであり、大きなフェージングによってアンテナが受信する信号品質が大きく劣化することがあります。3 空間データ ストリームの場合、3 つのデータ ストリームの復元には、最低 3 つの強い信号が必要です。信号の 1 つに大きなフェージングが生じると、MIMO で情報を検出できなくなります。これに比べて、4x4 の MIMO では、たとえ 1 本のアンテナで大きなフェージングがあっても、残りの 3 つの良好な信号から 3 つのデータ ストリームを復元できます。現実の実装では、4 つすべてのアンテナからの信号を、品質に基づいて入念に重み付けし、なるべく高品質の信号が利用されるようにします。4x4 MIMO は、空間多重による高速化とダイバーシティ利得による堅牢性をバランスよく両立させるので、フェージング チャネル環境でのパフォーマンスが大幅に向上します。

4 つ目のレシーバを使用する手法は、技術用語では MIMO イコライゼーションといいます。MIMO イコライゼーションは、受信信号を最大限に有効利用する手法を包括的に表す用語です。ビームフォーミング、時空間ブロック符号化、空間拡張、性能改善なしなど、送信時に適用された手法は関係しません。MIMO イコライゼーションで利得の増大に最も効果的なのは、受信チェーンの数を増やすことです。ただし、利得が最大となるのは、余剰受信チェーンが 1 つの場合で、それ以上追加しても効果は減少していきます。したがって、3x3 のアクセス ポイントは、3 空間ストリームではなく、2 空間ストリームの受信に適した選択肢です。

これは、図 1 を見るとよくわかります。この図はアップリンク方向における距離とレートを表しています。青のラインは、3x3:3 クライアントから 3x3:3 アクセス ポイントへの送信を表していますが、450 Mbps が達成されているのは、アクセス ポイントからの距離が短い場合だけです。

一方、アクセス ポイントに 4 つ目の受信アンテナを追加すると(黒のライン)、450 Mbps での使用範囲が 9.1 メートル(30 フィート)まで拡大し、12 メートル(40 フィート)までは 3 空間ストリームによる付加価値が見られます。これは、企業への実際の導入例でのアクセス ポイントのカバレッジ範囲と合致します。

図 1 アップリンクの PHY データ レート(再送後)と距離

図 1 アップリンクの PHY データ レート(再送後)と距離


詳細:ダウンリンク


ダウンリンク方向でも同様の効果を得る(4 つ目のトランスミッタから)ために、シスコは 4 MIMO 送信チェーンを最大限に活用できる方式として、ClientLink 2.0 を開発しました。ClientLink 2.0 では、ビームフォーミングと空間多重化を結合することで、ダウンリンク トラフィックの速度と信頼性を改善します。クライアントがアンテナよりも少ない数の空間ストリームでフレームを送信しても、ClientLink 2.0 は、特許申請中の高度なアルゴリズムを使用し、ビームフォーミングの利得を提供します。クライアントがチャネル サウンディングを支援するかどうかは関係しません。さらに、シスコのアクセス ポイントはクライアントによる較正支援にもまったく依存しない設計となっています。ただし、クライアントの支援を利用できる場合には、ClientLink 2.0 はその支援を活用できます。

たとえば、3 つのトランシーバしかないクライアントが 3 空間ストリームを受信しようとする場合について考えてみます。検出は非常に複雑で信号品質の影響を受けやすいため、アクセス ポイントの支援があれば、よい結果が得られます。図 2 に示されているように、Cisco Aironet 3600 アクセス ポイントは 4 つの送信チェーンを使用します。そのため、3 つの空間ビームを形成して(各ビームが 1 つのデータ ストリームを伝送)、それらを直接クライアントの受信チェーンに送るための自由度が得られます。これらのビームフォーミング信号はレシーバで同相加算され、それによってチャネルフェージングを低減できます。

図 2 4 つ目のトランシーバを使用する場合のビームフォーミング信号の放射

図 2 4 つ目のトランシーバを使用する場合のビームフォーミング信号の放射


ClientLink 2.0 の効果は 2 つの要素で構成されています。第一に、データ ストリームの数が 4 つ未満でも、4 つの送信チェーンがすべて使用されます。これにより送信パワーが大きくなるので、信号レベルにいくらか利得が生じます。第二に、各データ ストリームは 4 つの送信チェーンすべてから一括で送信されるため、大きなダイバーシティ利得が得られます(1 つか 2 つのアンテナで大きなフェージング生じても、1 つのデータ ストリームが完全に消えることはありません)。

図 3 が示すように、所定の距離で達成されるデータ レートには明らかに改善が見られます。これはさらに、その距離における各レートの信頼性とも綿密に相関しています。典型的な企業環境では、9.1 メートル(30 フィート)の距離での使用が一般的です。この距離では、4x4:3 のアーキテクチャは 420 Mbps で動作しますが、3x3:3 では 300 Mbps を超えることはできません。

図 3 3 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離

図 3 3 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離


図 3 は余剰の送信チェーンによる利得を示しています。従来型の 3x3:3 アクセス ポイント(「3x3:3 -> 3x3:3(直接)」または「3x3:3 -> 3x3:3(空間拡張)」 、それぞれ赤または緑のライン)が 平均 450 Mbps を達成するのは見通し距離で 3.7 メートル(12 フィート)まで(水平距離では 2.7 メートル(9 フィート))ですが、送信ビームフォーミングを使用する 4x4:3 アクセス ポイント(「4x4:3 -> 3x3:3(ビームフォーミング)」、黒のライン)では 7.6 メートル(25 フィート)まで(水平距離では 7.3 メートル(24 フィート))450 Mbps を提供します。高度な信号処理と RF の専門知識があれば、冗長性の余剰次元がたった 1 つでも、大幅な改善が可能です。図 3 では、データ パケットのサウンディングと送信の間の遅延を 20 ms と想定しています。

パフォーマンス チャートの重要な留意点


  • ワイヤレスや Wi-Fi のデバイスは変動するので、図 2 と図 3 は、業界標準の想定とシスコの経験を使用した典型的な結果を表しています。具体的な使用条件は、802.11n チャネル モデル D:802.11n 障害(やや楽観的)、15 dBm 送信パワー(無線リソース管理 R を使用するクライアントおよび企業アクセス ポイントに妥当)、2 dBi アンテナ(アクセス ポイント)、6 dB ノイズ レベル、シスコの測定パスロス モデル(802.11n のパスロス モデルよりも精度が高い)です。
  • 図 2 と 3 は平均データ レートを表しています。特定の距離において、一部のクライアントだけが高いデータ レートを達成し、他の多くのクライアントは低データ レートであるという可能性もあります。さらに、通常、MAC オーバーヘッド後にグッドプット(実効スループット)は低下し、図中の PHY データ レートの約 70 % になります。
  • x 軸の距離は見通し距離です。したがって、アクセス ポイントがクライアントの上部 2.4 メートル(8 フィート)の天井に設置されている場合、x 軸の 3 メートル(10 フィート)は、水平範囲ではわずか 1.8 メートル(6 フィート)に相当します。つまり、3 つの受信アンテナでの 450 Mbps は非常に有用性が低いのです。さらに長い距離になると、見通し距離と水平距離はほぼ同じになります。たとえば、見通し距離の 9.1 メートル(30 フィート)は水平距離では 8.8 メートル(29 フィート)です。

まとめ


3x3:3 アーキテクチャは 450 Mbps のピーク レートを提供しますが、それだけです。有用な距離でこのピーク レートが達成されるようにするために、Cisco Aironet 3600 シリーズには、高度なエンジニアリングとカスタム シリコンが使用されています。これはシスコのような大規模ベンダーにしかできないことです。アップリンクでは、4 つの受信アンテナと最適化された MIMO イコライザによって、450 Mbps の距離が 7.6 メートル(25 フィート)まで拡大し、12.2 メートル(40 フィート)までは 300 Mbps 以上のレートを維持できます。さらに長距離でも、ダイバーシティの効果により、3x3:3 設計よりもはるかに高いパフォーマンスを提供できます。ダウンリンクのハードルはもう少し高く、送信チェーンの追加が必要なだけでなく、重要な距離でより高いレートを提供するには、さらに、ClientLink や ClientLink 2.0 のようにクライアントに依存しないビームフォーミングも必要になります。

付録 1:MIMO および関連する性能強化技法の基礎知識


802.11n の最新の改訂には、WLAN 範囲、信頼性、スループットを大幅に改善する一連の機能が盛り込まれています。これらの新機能のなかで最も重要なのは、複数データ ストリームの同時送信を可能にする多彩な Multiple-Input Multiple-Output(MIMO)技法です(図 4)。

図 4 MIMO システムの仕組み

図 4 MIMO システムの仕組み


MIMO は、多様な使用方法が可能な柔軟な技法です。トランスミッタまたはレシーバまたはその両方の純粋なダイバーシティもあれば、純粋な空間多重化もあります。その中間に位置するのがダイバーシティと空間多重化の両方を提供するハイブリッド モードです。

純粋なトランスミッタ/レシーバのダイバーシティでは、同じデータ ストリームが複数のアンテナで送受信されます。同じデータが複数のコピーとして送受信されるので、信号にエラーが生じる可能性は著しく低くなります。したがって、トランスミッタ/レシーバ ダイバーシティの利点はリンクの堅牢性の強化です。

純粋な空間多重化では、複数のデータ ストリームが同じ帯域で同時に送受信されます。送信されるデータはデータ ストリームごとに異なります。データ ストリーム数を N とすると、同じ周波数帯域の同じ期間におけるデータ スループットは N 倍になります。したがって、空間多重化の利点はデータ スループットの増大です。

ハイブリッド MIMO モードは両方の利点を提供します。ダイバーシティと空間多重化を追加することで、両リンクの堅牢性とデータ スループットが改善します。ハイブリッド MIMO モードはデータ ストリーム数よりもトランシーバの数が多ければ実現できます。たとえば、2 つの 4x4 MIMO デバイス間で 2 つのデータ ストリームを送受信できます。

ただし、トランスミッタ ダイバーシティとハイブリッド モードで最大の効果を得るには、ベンダーが標準以上の機能を提供する必要があります。最も重要なテクノロジーは送信ビームフォーミングで、これに時空間ブロック符号化(STBC)と空間拡張が続きます。これらの各手法について順番に説明します。

送信ビームフォーミング


同じデータの複数のコピーが複数の送信アンテナから送信される場合、データの複数コピーは、ワイヤレス チャネルの通過後、受信アンテナでは減衰も位相も異なったものになります。これはデータの各コピーが異なるアンテナから放射され、受信アンテナへのパスを通過する際に異なる壁や備品で反射するためです。同じ減衰で 1 つの場所に到達する 2 つのパスがあり、それらの位相が逆である場合、各パスは打ち消しあうので、その場所は信号受信には適しません。

この問題を克服しようとすることで、新しい手法が生まれます。各データ ストリームの位相がわかれば、送信アンテナで事前に位相を補正することで、データの複数コピーを受信アンテナで同じ位相にすることができます。相殺されるのではなく、相互に加算結合されます。このように、データのコピーが受信アンテナに同相で到達するように位相を事前補正する手法を送信ビームフォーミングといいます。

送信ビームフォーミングによって、受信アンテナに到達するデータの複数コピーは、同相で加算され、最大限に強化されます。その結果、受信アンテナでの信号品質が大幅に改善されます。送信ビームフォーミングは与えられたワイヤレスリンクを受け入れるだけでなく、変更して改善するのです。

送信ビームフォーミングには、送信チェーンと受信チェーンの間の位相(多くの場合減衰も)の情報、つまりチャネル情報が必要です。この情報を得る方法は 3 種類あります。そのうち 2 つは 802.11n 改訂に基づくクライアント ハードウェアのサポートに依存し、1 つはどんなクライアントでも機能します。

標準ベースのビームフォーミング


標準ベースのビームフォーミングには明示的ビームフォーミングと暗示的ビームフォーミングの 2 種類があります。

明示的ビームフォーミングでは、ワイヤレス チャネルについての情報はレシーバによってトランスミッタにフィードバックされます。レシーバがワイヤレス チャネルを測定できるようにするために、まずトランスミッタが特別なサウンディング パケットをすべての送信アンテナから送信します。レシーバは各受信アンテナでサウンディング パケットを検証し、ワイヤレス チャネルの情報を取り出して、トランスミッタに送信します。

明示的ビームフォーミングは 802.11n に定義されているオプション モードで、クライアント(レシーバ)のサポートを必要とします。また、チャネル サウンディング プロトコルにはある程度のオーバーヘッドが生じます。それでも、明示的ビームフォーミングはすべての送信チェーンからすべての受信チェーンへのチャネル全体について、最も正確な知識を提供します。使用可能であれば、この手法を使用することが賢明です。

暗示的ビームフォーミングはサウンディング パケットの送信を必要としません。その代わり、Wi-Fi システムの特性であるチャネルの対称性や相互関係を使用してチャネル情報を獲得します。アクセスポイントでは送信チェーンと受信チェーンが同じアンテナ集合を共有するので、アクセス ポイントは、クライアントからアップリンク信号を受信すると、クライアントの送信チェーンからアクセス ポイントの受信チェーンまでのチャネル情報を抽出します。さらに、チャネルの相互関係により、同じチャネル情報をダウンリンクの送信ビームフォーミングにも同等に適用できます。

標準ベースの暗示的ビームフォーミングには、次の 2 つの問題に対処するために機能が追加されます。まず、暗示的ビームフォーミングが最もうまく機能するのは、MIMO クライアントがそのすべてのアンテナから送信する場合ですが、常にそうであるとは限りません。クライアントが少ないアンテナから送信する場合、アクセス ポイントはワイヤレス チャネルを完全には測定できず、ビームフォーミングの利得を最大化できません。第二に、暗示的ビームフォーミングは、デバイスの送信ハードウェアと受信ハードウェアが十分に一致していることを必要とします。実装によっては、製造時に対応できる場合もありますし、現場での較正で対応できる場合もあります。最悪の場合にはクライアントからの無線での支援が必要となります。こうした理由から、802.11n には最適なハードウェアモードが定められています。

  • クライアントは、追加の送信チェーンが実際のデータ送信に使用されない場合も、その追加の送信チェーンからサウンディング情報を追加送信できます。このモードがサポートされれば、オーバーヘッドは非常に小さくなります。
  • クライアントはアクセス ポイントの較正を支援できます。

シスコの ClientLink および ClientLink 2.0 のビームフォーミング


802.11a/g クライアントは、明示的と暗示的のいずれにしても、標準ベースのビームフォーミングをサポートできません。また、802.11n クライアントも、多くの場合、標準ベースのビームフォーミングをサポートできません。そのため、包括的なソリューションの提供を目指すベンダーにとっては、どのようなクライアントでも機能するビームフォーミング モードを提供することが重要になります。シスコの ClientLink および ClientLink 2.0 のビームフォーミングはまさにその機能を備えています。

ClientLink は、シングルアンテナのクライアントや単一空間ストリームを使用するクライアントに適しています。アクセス ポイントは、いつでもクライアントの送信時に(たとえ 1 パケットでも)ワイヤレス チャネルを測定できます。アクセス ポイントはその情報を使用して、クライアントへのデータ返送の強化を最大化します。複数アンテナのクライアントの場合、ベンダーは ClientLink 2.0 のような新しい技術を使用する必要があります。

ClientLink と ClientLink 2.0 のビームフォーミングは、高い利得を提供し、あらゆる 802.11a/g/n クライアントで機能します。標準ベースのビームフォーミングをサポートしていない 802.11n クライアントも使用可能で、オーバーヘッドも生じません。

時空間ブロック符号化


この方式では、同じデータが複数の送信チェーンから複数のデータ ストリームで送信され、1 つの受信チェーンまたは場合によっては複数の受信チェーンで受信されます。複数のデータ ストリーム内のデータは同じですが、アンテナや時間の調整または符号変更によって各データ ストリームが異なるものとして識別できるようにします。このような変更によって、優れた時間のダイバーシティが追加されます。ビームフォーミングのような課題はありませんが、最大利得も得られません。時空間ブロック符号化(STBC)では、所定のワイヤレス チャネルから可能な最大限の効果が得られるだけです。

STBC は、送信ビームフォーミングができない製品でリンクの信頼性や堅牢性を改善するために使用されます。STBC は、アクセス ポイントとクライアントの両方でハードウェアのサポートを必要とします。

空間拡張


もう一つのハイブリッド 方式である空間拡張では、異なるデータを伝送するデータ ストリームの数が送信チェーンの数より少なくなっています。通常の実装では、一部のデータ ストリームには空間多重化を適用し、一部のストリームにはダイバーシティ方式を適用します(つまり、複数の送信アンテナから単一のデータ ストリームを送信)。空間拡張は送信ビームフォーミングよりも精度が低く、時空間ブロック符号化よりも効果の小さい方式です。さらに、空間拡張はスループットの利得も比較的小さく、リンクの堅牢性の改善も大きくありません。

MIMO イコライゼーション


受信側でのテクノロジーの選択肢は非常に少なく、MIMO イコライゼーションしかありません。MIMO イコライゼーションは、受信信号を最大限に有効利用する手法を包括的に表す用語です。送信ビームフォーミング、時空間ブロック符号、空間拡張、性能改善なしなどの手法は関係しません。MIMO イコライゼーションで利得の増大に最も効果的なのは、受信チェーンの数を増やすことです。ただし、利得が最大となるのは、余剰受信チェーンが 1 つの場合で、それ以上追加しても効果は減少していきます。したがって、3x3:3 のアクセス ポイントは 2 空間ストリームの受信に適した選択肢です。2x3:2 のアクセス ポイントも同様です。受信アンテナの数が同数であるため、同じ利得となります。

付録 2:多様な条件におけるダウンリンク ビームフォーミング


図 5 1 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離

図 5 1 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離


図 6 2 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離

図 6 2 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離


図 7 3 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離

図 7 3 つの受信チェーンでのダウンリンクの PHY データ レート(再送後)と距離


図 8 アップリンクの PHY データ レート(再送後)と距離

図 8 アップリンクの PHY データ レート(再送後)と距離