IP ルーティング

シスコ パフォーマンス ルーティング

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シスコ パフォーマンス ルーティング



企業のビジネスが成長するにつれて、リアルタイムのアプリケーション パフォーマンスやユーザにとってより優れたアプリケーション エクスペリエンスに対する要求は高まります。たとえば、音声アプリケーションと TelePresence アプリケーションが企業ネットワークの不可欠な要素となり、それらのアプリケーションのパフォーマンスがきわめて重要になります。企業のアプリケーション パフォーマンス向上のために、これまでよく利用されてきた解決策は 2 つあります。1 つはネットワーク接続の数を増やして帯域幅を広げるというもので、もう 1 つは Cisco® Wide Area Application Services(WAAS)などのアプリケーション最適化テクノロジーを利用するというものです。WAN の帯域幅を広げれば、総スループットが向上する可能性がありますが、重要なアプリケーションの遅延や損失が改善されるとは限りません。Cisco WAAS などのアプリケーション最適化テクノロジーを利用した場合は、データ削減手法によってパフォーマンスを向上させることはできますが、この場合も、ネットワーク パフォーマンスの変動の影響がアプリケーションに及ぶ可能性があります。シスコ パフォーマンス ルーティング(PfR)は、アプリケーション パフォーマンスに関する現在の要件を満たすパスをネットワークがインテリジェントに選択できるようにすることにより、ネットワーク パフォーマンスの問題に対処します。また、リソースがネットワークによって適切に選択されるようになるので、企業が負担する運用コストが削減されます。

シスコ PfR は、アプリケーションのパフォーマンス要件を満たす最適なパスを選択するインテリジェンスを追加することによって、従来のルーティング テクノロジーを補完します。シスコ PfR の最初のフェーズでは、WAN を経由するアプリケーションのパフォーマンスをインテリジェントに最適化し、インターネットへのトラフィックのロード バランシングをインテリジェントに行います。PfR の以降のフェーズでは、アプリケーション インテリジェンスを強化し、このテクノロジーをエンタープライズ ネットワーク全体に拡張します。

シスコ PfR は、到達可能性、遅延、コスト、ジッタ、Mean Opinion Score(MOS; 平均オピニオン評点)などの、アプリケーション パフォーマンスに影響を及ぼすパラメータに基づいて、出力または入力の WAN パスを選択します。また、使用状況や回線コストに基づくインテリジェントなトラフィックのロード バランシングを行って出力または入力の WAN パスを選択することも可能になるので、企業が負担するコストが削減されます。このバランスを実現するために、PfR は、特定のパスを使用したときの到達可能性、負荷、スループット、リンク コストなどのインターフェイス パラメータに基づいて WAN パスを選択します。Enhanced IGRP(EIGRP)、Open Shortest Path First(OSPF)、Routing Information Protocol Version 2(RIPv2)、Border Gateway Protocol(BGP)などの従来のルーティング プロトコルでは一般に、最短のパスまたは最小コストのパスに基づいてループフリー トポロジを作成することによって到達可能性を提供することに重点が置かれています。シスコ PfR では、アプリケーション要件と現在のネットワーク パフォーマンス特性を把握することによってアプリケーション パフォーマンスを提供することに重点が置かれています。

シスコ PfR は、この追加のインテリジェンスを、次のようにして獲得します。

  • IP ルーティングに対するビジネス ポリシーまたはアプリケーション要件をネットワーク管理者が指定することを許可する。
  • スイッチやルータの Cisco IOS® ソフトウェアに組み込まれたインテリジェンスを利用してネットワーク パフォーマンスをモニタする。

シスコ PfR テクノロジーは一般に、次のような企業で使用されます。

  • ミッションクリティカルなインターネット プレゼンス要件を持つ、大規模および中小規模の企業
  • アベイラビリティ要件を達成するために複数の多様な WAN を持つ企業
  • リモート オフィスとの通信のためにプライマリおよびバックアップの WAN サービスを利用している企業
  • インターネット接続を二重化している小規模オフィスおよびホーム オフィス

シスコ PfR:概要


多くの企業が、ネットワークとそのアプリケーションを強化するために複数の WAN 接続およびインターネット接続を使用しています。このような企業が、継続的なネットワーク アベイラビリティを確保しながら、複数のリンクにわたって着信トラフィックと発信トラフィックを分離しようとすると、複雑な実装の課題に直面します。これらの接続がそれぞれ異なるサービス プロバイダーから提供されている場合や、帯域幅、品質、コストなどの特性が一様ではない場合は、複雑さがさらに増大します。シスコ パフォーマンス ルーティングは、ネットワーク オペレータが抱えるこのような複雑さを解消します。また、ネットワークが稼動しているが、ネットワークの一部でパフォーマンス低下の問題が発生しているような場合も、必要なアプリケーション パフォーマンスを提供することができます。

シスコ PfR の本質は、「ネットワーク パフォーマンスに基づくアプリケーション ルーティング」です。パスの品質低下を自動的に検出して対応することによって、品質低下が続く状態を回避します。マルチホーム化されたエンタープライズでは、多くの場合、最初のパス上のトラフィックは、アプリケーション パフォーマンスの要件を満たす別の出力パスを通してルーティングされます。このルーティングは従来のルーティングとは異なります。これは、従来のルーティングでは、到達可能性だけが注目され、低損失や低遅延などのトラフィック サービスのニーズは考慮されないからです。さらに、マルチホーム化されたエンタープライズでシスコ PfR を利用すると、使用可能な WAN リンクやインターネット リンクをすべて使用できるようになります。シスコ PfR は、スループット、リンク使用状況、リンク コストを追跡して、スループット、負荷、コストが最適化されるようなロード バランシングを自動的に決定します。ネットワーク オペレータは、このような適応型ルーティング手法を実装するためのシスコ PfR ポリシーを定義します。

シスコ PfR ポリシーの基準として使用できるパラメータには、次のものがあります。

  • WAN アウトバウンド パフォーマンス(エンタープライズから外部に発信されるトラフィック):遅延、損失、到達可能性、スループット、ジッタ、MOS
  • WAN インバウンド パフォーマンス(外部からエンタープライズに到達するトラフィック):遅延、損失、到達可能性、スループット
  • WAN およびインターネット パスのパラメータ:到達可能性、スループット、負荷、リンク使用コスト

シスコ パフォーマンス ルーティングは、ボーダルータとマスター コントローラの 2 種類の要素で構成されます。ボーダルータによってエンタープライズが WAN に接続されます。マスター コントローラは、ルータ プラットフォーム上の Cisco IOS ソフトウェアによってサポートされるソフトウェア エンティティです。ボーダルータは、トラフィックとパスの情報を収集してマスター コントローラに送信します。マスター コントローラは、受信したすべての情報をデータベースに格納します。マスター コントローラ上には、要求されたサービス ポリシーが設定されているので、マスター コントローラはネットワーク エッジで発生していることをすべて認識し、特定のパラメータが Out-of-Policy(OOP; ポリシー違反)状態になったときにそれを自動的に検出して対処することができます。

シスコ パフォーマンス ルーティングを使用するためにライセンスを取得する必要はありません。

Cisco IOS ソフトウェアの PfR サポート


注:シスコ PfR の最初の実装では、Cisco IOS Optimized Edge Routing(OER)の手法が採用されています。シスコ PfR の機能を有効にするには、OER の Command-Line Interface(CLI; コマンドライン インターフェイス)コマンドを使用します。PfR の機能については、Cisco Feature Navigator(http://www.cisco.com/go/fn/)[英語] でキーワード「Optimized Edge Routing」を指定して検索してください。Cisco IOS ソフトウェアの将来のリリースでは、追加の PfR テクノロジーによって現在の OER 機能が置き換えられます。

シスコ パフォーマンス ルーティングでは、Cisco IOS ソフトウェアに組み込まれている幅広いインテリジェンスを利用し、ネットワーク ポリシーおよびアプリケーション ポリシーに基づいて最適なパスを決定します。これは、Cisco IOS OER テクノロジーの範囲を大幅に広げて進化させたものです。シスコ PfR のアプリケーション インテリジェンスとエンドツーエンド ネットワーク戦略の範囲は、OER の範囲よりも大幅に拡張されています。PfR の最初のフェーズでは、エンタープライズ ネットワークにおける新たなアプリケーション ニーズを満たすために OER テクノロジーが幅広く使用されています。

Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.3(8)T 以降で利用できる Cisco OER ソリューションは、ボーダルータとマスター コントローラの両方の機能をサポートします。OER には、その登場以来、次のように機能が追加されてきました。

  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.3(8)T:OER サポートの開始
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.3(11)T:VPN IP Security(IPsec)および Generic Routing Encapsulation(GRE)によるトンネルの最適化を追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.3(11)T:ポートベースおよびプロトコルベースのプレフィクス学習を追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.3(11)T:ポリシールール設定のサポートを追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.3(14)T:コストベースの最適化および traceroute レポートのサポートを追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.4(2)T:アプリケーション認識ルーティングである Policy-Based Routing(PBR; ポリシーベース ルーティング)を追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.4(2)T:アクティブ プローブ送信元アドレスを追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.4(6)T:音声トラフィック最適化を追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.4(9)T:Differentiated Services Code Point(DSCP; DiffServ コード ポイント)モニタリングを追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.4(9)T:BGP インバウンド最適化を追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.2(33)SRB:Cisco7600 におけるサポートを追加
  • Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.2(33)SXH:Cisco Catalyst® 6500 におけるボーダルータのサポートを追加

その他の機能については、Cisco Feature Navigator(http://www.cisco.com/go/fn/)[英語] を参照してください。

シスコ PfR を実行するための要件を次に示します。

  • ボーダルータでシスコ エクスプレス フォワーディングが実行されている必要があります。
  • マスター コントローラが動作するには、マスター コントローラからボーダルータに到達可能で、ボーダルータと通信できることが必要です。

サポートされる WAN インターフェイスには、イーサネット、シリアル、トンネル、High-Speed Serial Interface(HSSI)、ISDN Basic Rate Interface(BRI; 基本インターフェイス)、ATM、Packet over SONET/SDH(PoS)、VLAN、ダイヤラ、マルチリンク、フレーム リレー、ポート チャネルなどがあります。

シスコ パフォーマンス ルーティングを実行するには、SP Services、Advanced IP Services、Enterprise Services、Advanced Enterprise Services などの Cisco IOS ソフトウェア フィーチャ セットが必要です(図 1 を参照)。

図 1 シスコ PfR の実行に必要な Cisco IOS ソフトウェア フィーチャ セット

図 1 シスコ PfR の実行に必要な Cisco IOS ソフトウェア フィーチャ セット


シスコ PfR のトポロジ


シスコ PfR によってアプリケーションのパフォーマンスを強化できるトポロジのタイプには、さまざまなものがあります。図 2 に、小規模オフィスまたはホーム オフィス(SOHO)向けの小型エッジ ルータから、中央サイト データセンターにおける導入まで、エンタープライズで実装される最も一般的なトポロジのいくつかを示します。

図 2 エンタープライズ ネットワークのトポロジ

図 2 エンタープライズ ネットワークのトポロジ
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シスコ PfR テクノロジーにより強化される一般的なビジネス サービスを次に示します。

  • インターネット エッジ:インターネット コンテンツ サービスのデータセンターへの WAN アクセス リンクが複数ある場合。このようなサービスのメイン サイトには、インターネットへのリンクが 2 つ以上あり、ボーダルータが置かれています。リモート サイトは、完全に未知のインターネット エンティティです(ホーム ユーザやビジネス ユーザなど)。
  • WAN または Metropolitan Area Network(MAN; メトロポリタン エリア ネットワーク)のハブ:本社での一元化されたコンテンツ サービスのリモート サイトが既知であり、スタティック アドレスが割り当てられる場合。
  • WAN または MAN ブランチ:ブランチまたは SOHO サイトからインターネット リソースにアクセスするときに、複数のアクセス リンクが利用可能ならば最適なリンクを選ぶようにする場合。サイト規模の要件に基づいて、マスター コントローラとボーダルータの機能を同一ルータ上に共存させることができます。
  • Cisco Wide Area Application Services(WAAS)とシスコ PfR:Cisco WAAS によってアプリケーション セッションを最適化し、シスコ PfR によってネットワーク ルーティング トポロジを最適化します。Cisco WAAS とシスコ PfR を組み合わせることによって、アプリケーション パフォーマンスがさらに高まります (Cisco WAAS の詳細については、http://www.cisco.com/jp/go/waas/ を参照してください)。
  • Any-to-Any:実際のデータセンターやハブ サイトを持たない分散された組織のすべてのサイトが互いに通信を行う場合。ルータで GET-VPN や GRE を使用した IPsec などの IPSec VPN テクノロジーがホストされているときは、シスコ PfR によってパス選択を最適化することができます。

導入の考慮事項


シスコ PfR テクノロジーは、非常に柔軟にネットワークへ導入することができます。このテクノロジーを導入するときは、次の点について考慮することが重要です。

  • シスコ PfR テクノロジーは、Cisco IOS ソフトウェアに組み込まれています。ボーダルータとマスター コントローラの機能を 1 台の Cisco ルータに共存させることも、2 台の Cisco ルータに分けて配置することもできます。その他の機器をネットワークに追加する必要はありません。
  • PfR の設計上の最小要件は、1 つのマスター コントローラ機能、1 つのボーダルータ機能、および 2 つの WAN リンクです。
  • PfR テクノロジーを活用するには、WAN パスが複数の異なるパスを経由している必要があります。WAN リンク上のネクストホップ アドレスは、異なるサブネット上になければなりません。このため、1 つの WAN リンク上に 2 つのネクストホップ アップストリーム ルータがある状態はサポートされません (注:この制約は、インターネット エクスチェンジ ロケーションにおいて 1 つのピアリング インターフェイスから到達可能なネクストホップが複数ある場合の PfR の使用に影響を及ぼします)。
  • 各ボーダルータはマスター コントローラとピアリングするように設定します(両方の機能が 1 台のルータに共存している場合でも同様です)。
  • マスター コントローラはルータ上で設定し、制御対象のボーダルータのリストも指定します(両方の機能が 1 台のルータに共存している場合でも同様です)。
  • ボーダルータとマスター コントローラの間の制御セッションのセキュリティを確保するために、パスワード認証を使用します。
  • マスター コントローラとボーダルータの間の制御セッションは、各ルータ上のローカル インターフェイス間で行われます。管理者は、ルータのローカル インターフェイスを指定することによって、実際の送信元インターフェイスと、このセッションで使用する IP アドレスを設定できます。
  • PfR によって適切な WAN パスの管理と制御が行われるようにするには、ボーダルータ上の WAN リンクが内部へのインターフェイスか外部へのインターフェイスかを指定する必要があります。
  • Cisco IOS ソフトウェアの NetFlow、IP Service-Level Agreement(IP SLA; IP サービスレベル契約)などの機能をマスター コントローラ上やボーダルータ上で明示的に設定する必要はありません。
  • ボーダルータはトラフィック転送パス内になければなりませんが、マスター コントローラはトラフィック転送パス内になくてもかまいません。
  • 現時点では、1 つのマスター コントローラが管理できるボーダルータの最大数は 10 です。

各ボーダルータには、次の設定が必要です。

  • シスコ エクスプレス フォワーディングが有効化されている。
  • マスター コントローラの IPv4 アドレスが登録されている。
  • PfR のローカル インターフェイスからマスター コントローラと通信できる。
  • ボーダルータとマスター コントローラの間のセッションの認証パスワードが設定されている。

マスター コントローラには次の設定が必要です。

  • ボーダルータの IPv4 アドレスが登録されている。
  • ボーダルータとマスター コントローラの間のセッションの認証パスワードが設定されている。
  • シスコ PfR ポリシーが設定されている。

シスコ PfR の動作


シスコ PfR を設定するには、最初に 1 つのマスター コントローラと 1 つ以上のボーダルータを指定します。したがって、ボーダルータごとに外部および内部インターフェイスを指定する必要があります。また、マスター コントローラとボーダルータの間のセッションを設定し、認証を行い、IP アドレスを指定する必要があります。

次に、モニタするプレフィクスまたはトラフィック クラスを決定します。モニタリングが動的に行われるようにすることも(デフォルト)、Cisco IOS ソフトウェアの Access Control List(ACL; アクセス コントロール リスト)を利用して手動で設定することもできます。後者の方法が特に役立つのは、PfR による最適化が必要なアプリケーションまたはプレフィクスに関する詳細な情報が手元にある場合です。

各ボーダルータは、目的のトラフィック クラスまたはプレフィクスに関する情報を収集してマスター コントローラに送信します。マスター コントローラは、ボーダルータから受信したすべての情報を、設定されているポリシーと比較します。

すべてポリシーに適合しているとマスター コントローラが判断した場合はルーティングが続行されますが、定義されたトラフィック クラス、プレフィクス、またはリンクの特性が OOP であることが検出された場合は、マスター コントローラによってイベントがトリガーされます。このときに、定義されたトラフィック クラスをポリシー適合状態に戻すための処理を PfR が実行する場合があります。PfR が観察モードに設定されている場合は、OOP イベントによって syslog メッセージのトリガーだけが行われます。PfR が制御モードの場合は、定義されたトラフィック クラスをポリシー適合状態に戻すために、OOP トラフィックを別の WAN リンクに再ルーティングするという指示がマスター コントローラからボーダルータに送られます。

リダイレクトを行うには、トラフィック フローに対するネットワーク ルーティング動作に変更を加えます。マスター コントローラは、処理が必要であることを通知して IP ルートまたは PBR エントリの挿入を指示するために、制御メッセージを各ボーダルータに送信します。ルートや PBR エントリが挿入されるのはボーダルータ上のみです。マスター コントローラ上でルートが挿入されることはありません。

アウトバウンド WAN 最適化(ローカル ネットワークから外部へのトラフィック)の場合は、PBR、スタティック ルート、または BGP ルートを使用して実際のアウトバウンド パスが制御されます。このような挿入されたエントリを、EIGRP、OSPF、RIP などの Interior Gateway Protocol(IGP)に再配布することができます。

スタティック ルートの挿入

シスコ PfR のマスター コントローラは、一時的なスタティック ルートを挿入することにより、特定のボーダルータを優先出口として強制的に使用させることができます。このようなスタティック ルートはルータのメモリ内にのみ存在し、永続的な設定には保存されません。

BGP の制御手法

最適な出口パスを強制的に使用させるために、シスコ PfR では 2 つの BGP 手法が使用されます。1 つは BGP ルートの挿入、もう 1 つは BGP ローカル プリファレンス属性の変更です。

目的のトラフィックに関連付けられているトラフィックがプレフィクスによってのみ定義されている場合は、トラフィックに別のリンクを使用させるために、BGP ルートを BGP テーブルに挿入するという指示がマスター コントローラからボーダルータに送られます。PfR によって挿入されたルートはすべて、自律システムのローカルのルートのままであり、外部の BGP ピアと共有されることはありません。この動作を確実にするために、PfR によって BGP ルートが挿入されるときに no-export コミュニティが設定されます。この処理は自動的に行われるので、ユーザによる設定は必要ありません。

シスコ PfR によるプレフィクス エントリの制御には、BGP ローカル プリファレンスも使用されます。BGP ローカル プリファレンス(Local_Pref)とは、ルート選択中にそのルートの優先度を指定するために BGP プレフィクスに適用される、任意指定の属性です。Local_Pref は BGP プレフィクスに適用される値であり、この値が大きければルートは同等のルートよりも優先されるようになります。マスター コントローラは、トラフィックフロー エントリに関連付けられたプレフィクスに Local_Pref 属性を適用するように、ボーダルータの 1 つに指示します。指示を受けたボーダルータは、自身のすべての Internal BGP(iBGP; 内部 BGP)ピアとの間でその Local_Pref 値を共有します。Local_Pref は自律システム内で意味を持つローカルな値であり、External BGP(eBGP; 外部 BGP)ピアと共有されることはありません。iBGP のコンバージェンスが完了すると、プレフィクスの Local_Pref の値が最大であるルータがネットワークからの出口リンクになります。

ポリシー ルート

シスコ PfR は、PBR を使用してアプリケーション トラフィックを制御することができます。特定の PfR ボーダルータを通過するアプリケーション トラフィックを特定するには、PfR ポリシーの一部として PfR マップで定義されているトラフィックと照合します。

特定の入口リンクを強制的に選択させるために、シスコ PfR では次の方法が使用されます。

  • BGP Autonomous System Number(ASN; 自律システム番号)プリペンド:内部プレフィクスに対する最適な入口がシスコ PfR によって選択されると、それ以外の入口に関する内部プレフィクス BGP アドバタイズメントに追加の自律システム ホップ(最大 6 個)がプリペンドされます。他の入口にさらに自律システム ホップが追加されているため、その最適な入口が内部プレフィクスに対して使用される可能性が高くなります。PfR では、この方法(デフォルト)によって内部プレフィクスが制御されるので、ユーザによる設定は必要ありません。
  • BGP 自律システム番号コミュニティ プリペンド:内部プレフィクスに対する最適な入口が PfR によって選択されると、ネットワークから ISP などの別の Autonomous System(AS; 自律システム)への内部プレフィクス BGP アドバタイズメントに「BGP プリペンド」コミュニティがアタッチされます。この BGP プリペンド コミュニティによって、ISP からそのピアへの内部プレフィクスのアドバタイズメントにおける自律システム ホップ数が増えます。

シスコ PfR のトラフィック クラスとプレフィクス


シスコ PfR とは、一言で言えば、特定されたトラフィック クラスまたはプレフィクスに対して高度なルーティング制御を行うことです。トラフィック クラスは、プレフィクス、プロトコル、ポート番号、および DSCP 値の組み合わせとして定義されます。これらの要素を、手動による設定を通して PfR に学習させるか、動的に学習させるかを設定できます。目的のトラフィック クラスを動的に学習するために、PfR は Cisco IOS NetFlow テクノロジーに基づくメカニズムを使用します。目的の PfR トラフィック クラスを設定するには、oer-map コマンドと ip prefix-list コマンドを使用します。oer-map コマンドは、通常の route-map コマンドに似ています。

シスコ PfR のモニタリング


シスコ PfR は、次の 3 つの方法を使用してトラフィック クラスのパフォーマンスを測定します。

  • パッシブ モニタリング:NetFlow テクノロジーを使用して、トラフィックがデバイスを通過するときに、目的のプレフィクスのパフォーマンス メトリックを測定します。
  • アクティブ モニタリング:目的のトラフィック クラスを可能な限り忠実に再現した総合トラフィックのストリームを作成して、その総合トラフィックのパフォーマンス メトリックを測定します。統合された Cisco IP SLA テクノロジーを使用します。
  • アクティブ モニタリングとパッシブ モニタリング両方の組み合わせ:アクティブ モニタリングとパッシブ モニタリングを組み合わせて、ネットワーク内のトラフィック フローの状態をより正確に把握します。

NetFlow や IP SLA の明示的な設定は必要ありません。NetFlow と IP SLA のサポートは、マスター コントローラによって自動的に有効化され、設定されます。各トラフィック クラスに対して、アクティブとパッシブの両方のモニタリング方法を使用できます。デフォルトでは、マスター コントローラはアクティブ モニタリングとパッシブ モニタリングの両方を使用します。すべてのトラフィック クラスに対して、統合 NetFlow 機能を使用したパッシブ モニタリングが行われ、OOP トラフィック クラスに対しては IP SLA 機能を使用したアクティブ モニタリングが行われます。

マスター コントローラは、各ボーダルータから WAN リンク使用状況のメトリックに関する情報も受信します。

パッシブ モニタリング メトリックの例を次に示します。

  • 遅延:特定のプレフィクスまたはトラフィック クラスについて、TCP フローの平均遅延時間を測定します。遅延とは、TCP 同期メッセージの送信から TCP 確認応答の受信までの Round-Trip Response Time(RTT; ラウンドトリップ応答時間)を測定したものです。
  • パケット損失:各 TCP フローの TCP シーケンス番号を追跡することによって測定します。PfR は、最大の TCP シーケンス番号を追跡します。後で受け取ったパケットのシーケンス番号が前のパケットよりも小さい場合は、パケット損失カウンタに 1 が加算されます。パケット損失は 100 万パケットあたりの損失数で表します。
  • 到達可能性:TCP 確認応答を受信しないまま繰り返し送信された TCP 同期メッセージを追跡することによって測定します。
  • スループット:特定の時間における、目的のトラフィック クラスまたはプレフィクスごとの総バイト数および総パケット数をカウントすることによって測定します。

アクティブ モニタリング メトリックの例を次に示します。

  • 遅延:特定のトラフィック クラスまたはプレフィクスについて、TCP、User Datagram Protocol(UDP; ユーザ データグラム プロトコル)、および Internet Control Message Protocol(ICMP; インターネット制御メッセージ プロトコル)のフローの平均遅延時間を測定します。
  • 到達可能性:TCP 確認応答を受信しないまま繰り返し送信された TCP 同期メッセージを追跡することによって測定します。
  • ジッタ:ジッタ(パケット間の遅延変動)は、ターゲット アドレスおよび指定されたターゲット ポート番号に複数のパケットを送信し、宛先に到達したパケット間の遅延間隔を計測することによって求めます。
  • MOS:MOS は、標準ベースの音声品質測定方法です。ITU などの標準化団体によって、P.800(MOS)および P.861(PSQM; Perceptual Speech Quality Measurement)の 2 つの重要な勧告が作成されています。P.800 では、音声品質の MOS 値を算出する方法が定義されています。MOS のスコアは、1(最低)から 5(最高)で表します。MOS スコア 4.0 の音声は、「トール品質(電話回線の通話品質)」と見なされます。シスコ PfR による MOS の測定には、IP SLA インフラストラクチャが使用されます。PfR ターゲット アドレスにおいて Cisco IP SLA Responder 機能が有効化されている必要があります。

リンク使用状況メトリックの例を次に示します。

  • リンク使用状況のしきい値:ボーダルータの外部インターフェイスが設定されている場合は、その外部リンク(外部リンクはボーダルータのインターフェイスで、通常は WAN にリンクしています)の使用状況が自動的にモニタされます。
  • リンク使用状況の範囲:すべてのリンクにおける使用状況の範囲を計算するようにシスコ PfR を設定することができます。
  • シスコ PfR の範囲機能:シスコ PfR は、確実にトラフィックの負荷を分散するために、出口リンクと入口リンクの使用状況を相対的な範囲内に収めるように動作します。範囲はパーセンテージで指定します。この値はマスター コントローラ上で設定され、そのマスター コントローラによって管理されるボーダルータ上のすべての出口リンクおよび入口リンクに適用されます。

シスコ PfR のタイマー


さまざまなタイマーを使用してシスコ PfR の動作に変更を加えることができます。最初に、PfR がプレフィクスを学習する必要があります。プレフィクスを学習すると、ルータは、実際のトラフィック統計情報が設定済みのポリシー期待値と一致しているかどうかを定期的にチェックします。このチェックの頻度と速度は、別のタイマー セットによって決まります。OOP トラフィック クラスが見つかった場合は、そのトラフィックを別のパスに再ルーティングしてからホールドダウン状態にすることができます。ホールドダウン状態の間は、再ルーティングされたフローは何も変更されません。この時間の長さは設定可能です。

プレフィクス学習に影響を及ぼすタイマーは次の 3 つです。

  • Periodic Interval:ボーダルータから新しいプレフィクスを学習する頻度をマスター コントローラに指示するためのタイマー
  • Monitor Period:トップトーカーおよびトップディレイの測定期間を示すタイマー
  • Expire After:マスター コントローラが学習したトップトーカーまたはトップディレイのプレフィクスをタイムアウトさせるためのタイマー

マスター コントローラが設定済みのポリシーと実際のトラフィックとを比較するときは、次のタイマーが使用されます。

  • Monitoring Statistics:シスコ PfR の統計情報の基準となる期間は 2 つあります(5 分間と 60 分間)。
  • Hold Down:PfR によるルート操作の遅さを設定します。このタイマーの設定値が大きいほど、制御されて適切なパスに再ルーティングされたプレフィクスに対する PfR の反応が遅くなります(デフォルトは 5 分)。
  • Back-off:バックオフ タイマーが期限切れになり、PfR によるポリシー適合出口の検出に失敗するたびに、バックオフ時間に指定のステップ(設定されている場合)または最小秒数が加算されます。この秒数は、最大秒数に達するまで増加します。
  • Periodic:実際のポリシーが設定済みのポリシーに準拠しているかどうかをマスター コントローラがチェックする時間を指定します(デフォルトは 300 秒)。

シスコ PfR ポリシー


シスコ PfR ポリシー(シスコ PfR マスター コントローラ上で設定されます)とは、目的のトラフィック クラスを学習するかどうかや、トラフィック クラスを学習および更新する頻度、実際に受信したサービス レベルを設定済みの期待されるサービス レベルと比較してチェックする頻度などを定義するものです。

グローバルな PfR ポリシーによって、タイマーと測定しきい値に対する PfR のデフォルトの動作が定義されます。このポリシーは、トラフィック クラス単位で上書きが可能です。上書きするには、より限定的な定義を指定します。WAN リンク ポリシーの設定は、ボーダルータを指定するときに行います。このポリシーは、PfR により制御される WAN パスごとに宣言します。

対象となるシスコ PfR プレフィクス 1 つに対して複数のポリシー条件を設定することができます。複数の重複するポリシーを設定することもできます。どのポリシーを有効にするかについて競合が発生した場合の解決には、PfR の解決機能が使用されます。これは、PfR ポリシーの優先順位を管理者が設定できる、柔軟性の高いメカニズムです。管理者が各ポリシーに一意の値を割り当て、最も低い値を持つポリシーが最も優先順位の高いポリシーとして選択されます。デフォルトでは、遅延に関するポリシーに最も高い優先順位が割り当てられ、次に使用状況に関するポリシーが続きます。ポリシーに割り当てた優先順位は、デフォルトの設定よりも優先されます。

まとめ


シスコ パフォーマンス ルーティングは、ビジネス要件を達成するためにネットワークにおけるアプリケーション パフォーマンスを向上させます。これは、コストを削減し、負荷をすべての WAN パスに分散し、ネットワーク全体のパフォーマンスを向上させて最適パスをインテリジェントに選択することによって実現されます。Cisco IOS ソフトウェアのテクノロジーの 1 つであるシスコ パフォーマンス ルーティングは、Cisco IOS ソフトウェアに組み込まれたインテリジェンスを利用してパスのパフォーマンス情報を測定します。このソリューションを利用するために機器を追加する必要はありません。

最小限の設定で容易に導入できるシスコ PfR は、現在および将来のアプリケーションをネットワークでサポートするように調整および最適化できる、非常に高い柔軟性を備えています。

参考資料


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