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放送と通信の融合 − 「さっぽろ雪まつり」をIPマルチキャスト配信

放送品質の映像を海外にまで

さっぽろ雪まつり

今年も冬の祭典「さっぽろ雪まつり」は200万人を超える来場者を迎え、にぎやかに開催されました。そのなかで、放送品質のハイビジョン映像の伝送実験が行われました。今年は、ネットワーク対応型エリア ワンセグ システムやネットによるコンテンツ配信サービスも加わり、多様な端末へのコンテンツ配信が実施されました。

 独立行政法人情報通信研究機構(以下、NICT)では、毎年2月上旬に開催される「さっぽろ雪まつり」や、沖縄や高知のプロ野球のキャンプなどをコンテンツとして使用した全国規模の放送品質のハイビジョン映像の伝送実験を行なっています。伝送ネットワークとして使用しているのは、NICT/JGN2plus プロジェクトが運用・管理する研究開発テストベッドネットワーク。シスコもこの実証実験プロジェクトに協力しており、今年のテーマの1つである「ネットワークおよびストレージの仮想化環境」にCisco CRS-1が利用されました。

仮想化ネットワークの利点と課題

ストレージおよびネットワークの仮想化には、次のような利点があります。

  • ハードウェア リソースの有効利用
    複数のオペレーティング システムを 1 台のハードウェアに集約することでハードウェアの台数を少なくすることができるため、導入コストおよび運用コストを削減することが期待されています。また、ハードウェアの台数が少ないということは、消費電力が少なくて済むということになります。これは、温室効果ガスの削減に貢献することになります。
  • 柔軟なネットワーク設計
    ネットワークの論理構成がコンピュータやネットワークのハードウェアに依存しないため、柔軟な設計が可能になります。また、導入後のネットワーク トポロジーの変更も容易になります。
  • アベイラビリティの向上
    回線やハードウェアの障害があっても、ソフトウェアの設定で回避できるため、素早い対応が可能になります。

 しかし、多くの場合、仮想化の利点は理解できていても、なかなか導入が進んでいないというのが現状です。その理由には、各製品に実装された仮想化機能の不備や設定ミスによって正常に動作させるのが困難であったり、相互運用性の問題などもあります。物理的な筐体と論理的な機能が一致しているほうが安定してシステム構築および運用が行えると考える技術者が多いということもあるでしょう。特に放送業界では、ネットワークの障害が放送事故につながるわけですから、「止まらないネットワーク」は必須となります。

 これまでの仮想化に関する悪い実績を払拭するためにも、また最新のルーティング製品には仮想化機能が正しく実装されていることを実証するためにも、実験ネットワークによる運用や管理の実績は重要です。また、このようなマルチベンダー環境を利用することによって、製品の不備を発見し、製品の機能と性能のさらになる強化につながります。

Cisco CRS-1の役割
Cisco CRS-1

 Cisco CRS-1は、仮想化ルータを用いた、長距離ネットワークでの広帯域・高品質なデータ通信の実験に導入されました。このなかでCisco CRS-1は「仮想化ルータ」としての役割を果たしています。これは、Cisco CRS-1の「セキュアドメインルータ(SDR)」という機能を使って、1台のルータのなかで完全に独立した複数のルータが機能しているような状態にするというものです。

 実際には、10Gbpsで接続し、広帯域・高品質な通信を必要とする動画データ(ハイビジョン映像)を長距離伝送しました。この実験では、仮想化ルータ環境が実利用に耐えられるかを検討し、今後の研究活動に必要なデータを収集することを目的としています。

 実験の結果、Cisco CRS-1は問題なく動作しただけでなく、非常によい性能を示しました。「ここまで高品質な映像を送れるとは思わなかった」という現場の声も聞かれ、リッチメディア配信のための安定したネットワークの実現に向けて、大きな実績を残しました。

コンテンツ配信の状況
さっぽろ雪まつり

 ここで、今回の実験で配信された「さっぽろ雪まつり」のコンテンツがどのような形でエンドユーザに届けられたかを紹介します。第60回「さっぽろ雪まつり」は、2月6日(金)、7日(土)の2日間にわたって開催されました。会場内においてハイビジョンカメラで撮影された映像は、次の4種類の方法で視聴者に届けられました。これらの実証実験の結果が、仮想ネットワークの実力を示しているとも言えます。

エリア ワンセグ サービス

さっぽろ雪まつり

 エリア ワンセグとは、エリア限定でワンセグのコンテンツを配信できるというものです。微弱電波であれば放送免許なしでもワンセグ映像配信できますが、今回は雪まつり会場の8丁目の全エリアをカバーするために実験局免許を取得して実証実験を行いました。雪まつり会場のなかのある限定エリアでライブ放送を実施して、ユーザはワンセグ機能をもった携帯電話で受信できるというわけです。来場者のなかには、ライブ映像のなかに自分を見つけて喜んだり、カメラを探して手を振ってみたりなど、生の映像を楽しむ姿がありました。

 エリア ワンセグ サービスを提供するには、映像をワンセグ配信形式に変換するシステムと、映像を電波で配信する送信機が必要となります。映像の変換システムは岡山に設置されており、札幌で撮影した映像を岡山まで送り、岡山でワンセグ配信形式に変換してからIPv6マルチキャストを使って伝送しました。

IPネットワークによるライブ映像の伝送

 インターネットを使ったテレビ コンテンツ配信システムを経由して、ライブ映像をテレビに配信する実験も行いました。具体的には、岡山にある拠点から配信システムの拠点まで伝送し、そこからは既存の仕組みを使ってライブ画像を配信するというものです。

 現在の存在しているコンテンツ配信システムでは、ライブ中継のサービスは行っていません。そういう意味でも、インターネット経由でのライブ中継実験となりました。

海外へのコンテンツ配信

さっぽろ雪まつり

 昨年の実験では、IPネットワークによって伝送された映像データはテレビ局までで、エンドユーザにまでは配信されていませんでした。今年は、インターネットやワンセグを利用して、エンドユーザにまでライブ中継を届けるという実証実験だったと言うことができます。そして、今年、もう1つ新しい試みが行われていました。それが、海外への生中継です。

 今回の配信先は韓国のみでしたが、実際に韓国のレポーターが来場して雪まつりを生中継した番組は、韓国で大評判だったそうです。これは、「海外への配信」という今後の新しい試みの第一歩となりました。

放送と通信の融合に向けて

 インターネットが普及し、その技術を使った画像配信も一般的になっているなかで、放送業界においてはまだまだIPネットワークの認知度が低いのが現状です。“ベストエフォート」を基本にするインターネットと、放送品質との間には、大きなギャップがあると言えます。そればかりか、インターネットを「敵対するメディア」として捕らえる傾向さえありました。しかし、今では配信品質を向上させる技術も多くあり、安定したネットワークの供給も可能になっています。また、新しい技術にチャレンジしていかなければならないという現実もあり、実際にインターネットへの取り組みを始めている放送局も出てきています。

 NICTが提供する実験ネットワークや実証実験は、“今”の技術を知ってもらい、実際に使ってもらう機会ともなります。そして、ネットワーク側の改良だけでなく、エンコーダーやデコーダーといった周辺機器の品質も向上させ、相互運用性を高めていく機会でもあるのです。

関連リンク:
Cisco CRS-1 Carrier Routing System
2009年「無線 LAN 技術を使った IPv6 マルチキャスト映像配信の実証実験」レポート

映像伝送はUDPからTCPへ − Cisco WAASが映像伝送で活躍 −

さっぽろ雪まつり

 さっぽろ雪まつりと同時期に開催されているのが、九州や沖縄で行われているプロ野球のキャンプ。特に沖縄でのキャンプの様子は、テレビ局が欲している映像です。そこで、JGN2plusを使って沖縄からの映像伝送実験も同時に行われました。

 映像のIP伝送には、通常はプロトコルとしてUDPおよびRTPが使用されてましたが、昨今のインターネットでの映像伝送は TCP が使われるケースが増えています。UDP/RTPはデータの保証をしない分、処理が少なくて済みますが、クライアントまでの安定した帯域が確保されなければ安定した映像伝送ができません。これを解消するために映像データをベストエフォートで高速に先読みして蓄積(バッファリング)し、プレイヤー側で一定速度で再生するという方法が取られるようになってきています。この場合の映像データの通信にはTCPが使われます。

 ただしTCPには、別の問題があります。TCPの場合、ACKが返ってくるまでのタイミングに応じて送出するデータ量を変えていくという特徴があります。ハイビジョン映像を圧縮した場合、26Mbpsくらいの速度が必要とされています。仮に沖縄から大阪にインターネット経由でデータを送ろうとすると、13〜14msecのネットワーク遅延が発生します。この伝送遅延が原因で、TCPの送出側がデータ転送速度を10Mbps程度にまで落としてしまいます。

 ここにWANの最適化を行うCisco WAAS を利用することで、遠隔地で伝送遅延が大きいIPネットワーク環境でも、非常に快適に映像の配信ができるようになりました。さらに、WAN最適化技術が映像配信にとって非常に重要であることも実証されました。

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