イノベーションを活性化させるアウトタスキング 【前編】

「コア」と「コンテキスト」の考え方を適用して、資源をうまく活用する

【第 1 回】イノベーションを活性化させるアウトタスキング

INDEX

  1. 社内のリソースは有限
  2. アウトソーシングの現状
  3. アウトソーシングにコントロールをかける
アウトソーシングにコントロールをかける

 シスコシステムズが過去数年にわたって取り組んできた「アウトタスキング」は、これらの課題に対する1つの答えとなっています。

 「アウトタスキング」(Out-tasking)という言葉には、「アウトソーシング」と対比的な意味があります。

 「アウトソーシング」は従来型の、単純な外部委託です。それに対し、「アウトタスキング」は委託側が「主体的なコントロールをかけて外部委託する形態」を指します。いわば、コントロールの手を緩めないアウトソーシングということになります。

 企業の業務プロセスには、単純なアウトソーシングがふさわしいものがあります。一方、何があっても自社で処理しなければならないという業務プロセスもあります。さらには、その中間領域にある業務プロセスもあります。


図1 企業の業務プロセス

図1 企業の業務プロセス
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 アウトタスキングは、「コア」と「コンテキスト」の考え方を適用して、その中間領域の部分の外部化を推し進めます。また、委託企業と受託企業の間に、ITを活用した密接な連携の“リンク”を設け、これによって、受託企業があたかも委託企業の一部になったかのように動ける仕組みを作ります。

 これによって、その業務プロセスに投入していた人材などの経営資源に余裕が生じ、その余裕を社内でうまく還流させて、ドラッカーの言うような「最高の人材」をイノベーションに割り当てるということが可能になります。

 しかも、定常的に「コア」と「コンテキスト」の見直しを行うことによって、例えば2年前までは社にとって非常に重要だった業務プロセスだが、現時点では重要性が弱まり、外部に出してもよいというものがあれば、その業務プロセスに割り当てられていた資源を“解放する”ことができるようになります。

 無論、アウトタスキングは、1~2ヶ月で簡単にできる措置ではなく、最低でも6ヶ月、長ければ1年程度の準備期間を必要とし、対象範囲となる業務プロセスについても、段階的に拡大していくべきです。従って、即効性のある方策とは言えませんが、中長期的に社の戦略に組み入れることにより、着実な成果をもたらします。

 ここで、シスコが実際に取り組んだアウトタスキングの例を簡単にご説明します。
 シスコでは、世界全拠点約4万2,000名の従業員が使用しているノートパソコンのサポート業務を、2002年から2004年にかけて、地域ごとに順番にアウトタスキングへと移行させました。対象業務や規模は、以下の図2に見る通りです。


図2 シスコが行ったアウトタスキングの概要

図2 シスコが行ったアウトタスキングの概要
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 これに先立って、IT部門が携わる全業務のコア⁄コンテキスト分析が行われました。ノートパソコンのサポート業務は、シスコのIT部門にとっては明らかに「コア」ではありません。すなわち、「コンテキスト」です。また、業務の境界線がはっきりとしており、初めてアウトタスキングに初めて取り組むのにふさわしいと判断されました。

 単純なアウトソーシングにしなかったのは、第一に、適用範囲が全世界にわたり、規模も大きいため、受託者側と緊密にコミュニケーションをとりながら進める必要があった、第二に、成果測定を行い、その結果を受託者側にフィードバックすることによって、サービス品質が改善する枠組みを構築する目的があったからです。

 このアウトタスキングによって、シスコは、全電話件数23%削減、パソコン関連トータルコスト22%削減、サービス品質の向上(24時間365日対応の枠組みを確保)といったメリットを得ました。


図3 シスコにおける各部門のアウトタスキング比率

図3 シスコにおける各部門のアウトタスキング比率
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 次回は、アウトタスキングに類似した取組みをしている日本企業の例を織り交ぜながら、アウトタスキングの実際的な取り組み方についてご説明いたします。

 

執筆:シスコカスタマーブリッジ担当
本稿は、ITを活用した経営に関する情報を提供することを目的に、筆者の個人的な認識や見解を示すものであり、シスコシステムズの立場や見解を代表または代弁するものではありません。