Cisco Exclusive Interview「カオスが生み出す癒しのパワー ~無意識を揺さぶるツツイ&インターネット・ワールド」筒井康隆

圧倒的な知識と想像力を駆使した虚構世界の創造主・筒井康隆。熱狂的なファン<ツツイスト>を擁する一方で、『文学部唯野教授』では日本中を文学論ブームに巻き込み、最近では俳優業にも本格的に進出、その縦横無尽な活躍ぶりはとどまるところを知らない。9月に古希を迎える永遠の実験者・ツツイヤスタカの「天才」の秘密に迫る。

INDEX

  1. 演じる喜び、書く楽しみ、そして断筆宣言
  2. ツツイ流小説作法とITの関係
  3. 無意識の領域に潜り込むインターネットの魔力
  4. 人間、クッタクを忘れてはいけません
  5. 「老い」とは、シュールレアリズムなり

演じる喜び、書く楽しみ、そして断筆宣言

― 最近では俳優としてのご活躍も目立ちますが、筒井さんにとって演じることと書くことは、どのように違うのでしょうか。

ボクは役者になりたかったのが挫折して小説を書くようになった。だから、生まれ変わったら今度こそイチから喜劇役者で行きたいと思っているんですよ (笑) 。ただ、小説でも芝居でも、根本的に人を笑わせたいという欲求に根ざしているという点では同じですね。

ボクの小説、特に初期の作品はドタバタ喜劇の印象が強いのでしょうが、笑いにもいろいろな種類があります。たとえば、一役者としてチェーホフの『かもめ』でトリゴーリンという役を演じたのですが、シリアスな物語の中にも笑わせる場面が用意されていて、それにふさわしい笑わせ方というものを追求していく面白さがあるわけです。

舞台というのは不思議なもので、昨日のお客さんはそこで笑ってくれても、今日のお客さんは笑ってくれないということがある。そういう生の反応がフィードバックしてくる楽しさ。これが小説と演技の最も大きな違いだろうと思います。

― 93年の断筆宣言は世の中に大きな衝撃を与えましたが、振り返ってみて、断筆宣言とは筒井さんにとってはどんな意味をもっていましたか?

役者としての活動の機会を広げてくれたとことは確かですね。やはり何かをやって食っていかねばならんので、「呼んでくれたら TV にでも何でも出ますよ」と。そうしたら、ありがたいことにずいぶんお声がかかりまして、それが本格的に俳優活動を再開するきっかけになりました。今は、創作と演技、二つのバランスがちょうど理想的に釣り合っている状況です。

それ以外、特に変わったことはないんですよ。断筆期間中も、発表する機会がないだけで、いつも通り原稿を書いていましたし、インタビューなどには応じていたわけですからね。今でも初めて原稿を書くメディアとは覚書を交わすことにしていますが、それも、最初に覚書を交わして断筆解除のために力を尽くしてくれた出版社と公平を期すためであって、それ以上の意味はないんです。断筆は一応の成果をみたと思っていますし、その件でこれ以上闘うつもりもありません。

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