「IT を経営に生かすにはどうしたらよいのか?」 という質問を受けることが最近多くなりました。おそらく、私がこれまで経営に携わった外資系コンサルティング会社、国内大手通信会社において、一貫して徹底的な IT 化によるワークスタイル変革を行い、その業績を大きく向上させたことから、このような質問をされるのでしょう。私はそういうとき、いつも次のように答えています。「 IT という概念に縛られる必要はありません。まず経営者が “やりたいこと” を明確にし、自社の IT の責任者に “これを実現してほしい” と伝えればいいのです 」 と。
私がかつて経営していた PwC コンサルティング(現在の IBM ビジネスコンサルティングサービス)において、世の中の注目を集めたのは、着任当時まだ 1 台 100 万円以上するノート PC を全社員に配り、徹底したペーパーレスとフリーアドレス環境を整えたことでした。 PHS が世の中に出始めたときには、いち早く全社員に配って、 PC との連携でモバイルオフィスの実現にチャレンジし、新しいテクノロジーがもたらす新しい働き方だと注目されたこともありました。しかし、私は 「経営に IT を活用すること」 そのものを目的として、そのような施策を展開したわけではありません。 「サービス業の品質は、社員一人ひとりの能力とモチベーションの高さで決まる。それを最大化する環境を作りたい。」 それが私のやりたかったことだったのです。品質が上がれば、おのずとお客様満足度が上がる。そうすれば、売上は必ずついてくる。そう考えた私は、 IT の責任者を呼び、現在のテクノロジーを使って社員の能力とモチベーション、そして組織の力をチームワークで最大化するにはどうしたらよいか提案してほしいと頼みました。そして数々の議論を重ねてチャレンジした結果行き着いたのが、前述のワークスタイルと IT 環境だったのです。
新しいワークスタイルを導入すると、それまで自分の頭の中とキャビネットの中に情報を抱え込んでいたコンサルタント達が、自分自身のワークプレイスとなる PC を通じて、ネットワーク上に自らが持つ情報を開示し始めました。すると、互いのノウハウや経験を共有することで、組織全体の生産性が上がってきます。図書館のように静かだったブースの並ぶ執務エリアを、自由席のオープンスペースに変えたことで、オフィスは常に活発な意見交換や打ち合わせが繰り広げられるコラボレーションの空間になりました。 「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がありますが、一人で考えるよりも、複数の人が集まって知恵や経験を出し合えば、アイディアはどんどん膨らみを増します。生産性だけではなく創造性も高まった結果、提案の品質が上がり、ビジネスは拡大していきました。各種制度や社内のプロセスのあり方も併せて変革を行い、結果として、 8 年後には社員数 10 倍、売上 20 倍の成長を遂げることになったのです。
ちなみに私が人生で初めて PC の電源を入れたのは、 PwC コンサルティングで社員全員にノート PC を配った時でした。社員に使えと言っているものを自分が使わないわけにはいきません。初めて電源を入れて、プレゼンテーションソフトの使い方を社員に教わりました。今となっては、自分のプレゼンテーションはすべて自分で作り、メールもチャットも日常的に使っている私ですが、個人的な IT 人生はここから始まったのです。
今や IT なくして経営はできないといわれますが、 IT とひとくくりにいっても、たくさんの要素があり、その進歩のスピードが目覚ましいために、経営者の中には IT に対して無意識な距離感を感じている人が多いのではないでしょうか。しかし、大切なのは 「経営そのもの」 であって、そこで追求したいことを IT でどう実現すればよいのかは、プロフェッショナルに任せればよいのです。そして、導入したものは自分自身で使ってみること。そして効果を確かめてみること。それを繰り返していけば、必ず経営と IT の距離は縮まり、ひとつになっていくのではないかと私は思っています。
社員同士のコラボレーションが活発に行われるようデザインされたシグマクシス社のオフィス。今、私は 2008 年 5 月に立ち上げたコンサルティング会社 「シグマクシス」 でも、プロフェッショナル組織のワークスタイルを追求し続けています。お客様とのコラボレーションを全面に出すシグマクシスでは、ワークスタイルを 「オンネット・コラボレーション」 と定め、場所を選ばず価値創造活動ができる環境づくりを目指しています。今回新しく導入した 「Web 会議」 のシステムでは、ネットワーク上で映像やファイル、音声を共有し、その場で互いに資料を更新できるので、会議の参加者が全員違う場所にいても、あたかも同じ会議室でひとつの机とスクリーンを囲んでいる感覚で話を進められるのが特長です。 1994 年に比べれば、テクノロジーもネットワークも格段に使い勝手がよくなって、コスト的にも手ごろになっています。経営者としてやりたいと思うことが、以前に比べて簡単に実現できるようになった、と最近あらためて思います。
IT はかつて人間のワークロードを代替する “マシン” でした。でも今は、人間にしかできないこと、すなわち 「創造すること」 「リレーションを構築すること」 を支える “ツール” へとその役割を変えています。予測不可能な出来事が全世界で起こる今の時代、人間そのものが持つ可能性を無限大にすることが、企業の競争力につながっていくのではないでしょうか。そのために IT の力を借りながらチャレンジすれば、また新しい経営の姿が見えてくるのかもしれません。











