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2016.02  第 2 号 特集記事-1

「シスコ IoT(Internet of Things)記者説明会」レポート
特集記事 1
2016.02  第 2 号

ファナック株式会社との協業で工場の「ゼロダウンタイム」実現へ
デジタイゼーション、IoT 戦略レポート

シスコは 2016 年 1 月 21 日、デジタイゼ―ション、IoT に関する新たな取り組みを発表する記者発表会を開催しました。ファナック株式会社と進めている工場の「ゼロダウンタイム」実現への取り組みや、IoT クラウドを提供する Kii 株式会社への資本参加の背景、またビジネスとして動き出しているIoTアーキテクチャの導入実績も紹介。今回はこの記者発表の概要をレポートします。

シスコとファナックが進める工場の ZDT 化

 「すでに昨年9月末にシスコの IoT に対する取り組みをメディア向けにお話しましたが、今回は 2 つの追加発表を行います」。記者説明会で最初に登壇したシスコシステムズ 専務取締役の鈴木 和洋は、このように話を始めました。「シスコは 2015 年に産・官・学でバランスの取れた取り組みを進めてきましたが、本年度はエコシステムの強化、注力分野を明確化した上でのインダストリー ソリューションの開発、日本市場への Cisco IoT System 投入という 3 本柱でビジネスを展開します。このうちエコシステムの強化の一環として進めているのが、ファナック様との共同ソリューション開発です」。

この紹介を受け、ファナック株式会社 専務取締役の稲葉 清典氏が「共同ソリューション開発 ZDT」と題したプレゼンテーションを開始。製造業の工場で稼働する産業ロボットをネットワーク接続し、故障診断や予防保守を行うことで、工場の「ゼロダウンタイム(ZDT)」を目指していると延べました。

 「このような取り組みを進めている背景としては、当社のメインビジネスが資本財の提供であることが挙げられます」と稲葉氏。顧客にとっての価値をさらに高めるには、安定的に使える製品の提供が重要になると語ります。「その最終的な目的が ZDT なのです」。

 ファナックではこれまでもダウンタイム削減を目指し、知能ロボットの導入を 20 年間にわたって推進してきたと稲葉氏は説明します。その例として、色を見ながら仕分けを行う医薬品用ロボットや、人と接触すると力を感知して動きを止めるロボット、動きながらモーターの余力を分析・学習してより高速に動けるようになるロボット等を紹介。ロボット自身が「見て」「感じて」「考える」ようになり、作業上のミスを発見してロボット自身がやり直しを行うことで、軽微なミスが原因でラインが停止する「チョコ停」は、以前の 1/10 にまで削減されていると言います。

 「しかし知能ロボットの導入だけでは、停止率をこれ以上下げるのは困難でした。たとえ知能ロボットでも、ロボット自体の予期しない故障に対しては対応できないからです。停止率をさらに削減するには、故障が発生する前に知らせ、メンテナンスのタイミングで予防保守を行える仕組みが必要なのです」(稲葉氏)。

セキュリティ確保がシスコとの協業の最大のメリット

 シスコとファナックが共同開発している ZDT ソリューションでは、2 つの取り組みに焦点を当てています。第 1 は「壊れる前に知らせる(故障予知)」ことです。ロボットの稼働データを、シスコのセキュアなネットワークを介して接続されたシスコのサーバーで取りまとめ、さらにファナックのデータセンターへと集約、その情報をモバイル端末などに送ることで、遠隔地からでも故障予知が行えるようになります。オペレーターはこの予知情報に基づき、工場が動いていない時に部品交換を行うことで、ダウンタイムを回避できるのです。

 第 2 は「故障診断」です。故障予知を行ったとしても、最悪の場合には故障が発生する可能性もあります。その場合には、ロボットの稼働データを分析することで、故障原因を短時間で突き止めることが可能になります。ファナックではモーター等のロボットの基幹部品を自社で設計、製造しているため、問題が発生した場合にはすぐに設計情報と突き合わせ、迅速に問題解決できると言います。

 すでに米国では、2015 年夏から自動車メーカーの工場にこのソリューションを導入しており、以前は 3 ヵ月に 1 回発生していた非常停止をゼロにすることに成功しています。そのためにファナックは米国にデータセンターを設置していますが、これはシスコが提供するクラウド サービスを活用した、プライベート クラウドとして構築されています。

 「このソリューションをご提案すると、お客様からは必ず『データを外に出しても大丈夫なのか』と聞かれますが、シスコの製品やサービスを利用していることをお伝えすると、十分なセキュリティが担保されていると安心していただけます」と稲葉氏。「シスコとの協業の最大のメリットはまさにここにあります」。

 米国の自動車メーカーのケースではすでに 3,000 ~ 4,000 台規模のロボットがネットワークに接続されており、大規模展開も十分に可能であることが実証されています。2016 年夏にはデータセンターを日本にも展開し、国内における ZDT ソリューションの提案を推進していく計画だと語ります。

IoT クラウドを提供する Kii 株式会社にシスコが資本参加

 次に鈴木が紹介したのが、Kii 株式会社に対する米シスコシステムズの資本参加です。ここで Kii 株式会社 共同設立者 兼 会長の荒井 真成氏が登壇、同社の概要についてプレゼンテーションを行いました。

 「Kii は 20 年間シリコンバレーにいた私と、現在社長を務める鈴木(鈴木 尚志氏)が、2007 年に設立した会社です」と荒井氏。当初は日本とシリコンバレーでビジネスを行っていましたが、その後全世界へと拠点を展開、日本、米国、中国、欧州の拠点が共同して開発を行っていると説明します。「これらの拠点間には時差があるため、開発は 24 時間体制で進められています。これによって極めてスピーディな開発を実現しています」。

 Kii 株式会社は 2007 年 11 月に株式会社シンクロアとして設立され、当初はモバイル データ同期技術に特化したビジネスを行っていました。その後、2010 年 7 月に、デバイス リサーチの世界的リーダーである米 Servo Software を買収、この時に Kii 株式会社となります。IoT ビジネスにフォーカスし始めたのは 2014 年初頭。元々モバイル アプリのバックエンドを開発、提供していたこともあり、最初はコンシューマーを対象にした B2C のアプローチでビジネスを展開していったと、荒井氏は振り返ります。

 同社が提供する「Kii Cloud」はウェアラブル デバイスやスマート ホームのバックエンドとして、東芝や京セラ、中国最大の LED メーカー等が採用。現在では大企業からスタートアップまで、約 40 社に対して技術提供を行っています。このような取り組みを進めていく過程で、B2B の顧客も増えていきました。荒井氏はその例として、オフィスビルの会議室で自動調光を行う LED ライトや、貨物コンテナに GPS トラッキングデバイスを組み込んで港湾作業を効率化するスマート ポート、といったプロジェクトを挙げます。

 「最近ではスマート ビルディングにも採用されるようになっています。また昨年 9 月には、KDDI 株式会社と大日本印刷株式会社を主要パートナーに、IoT 時代の新たな企業間関係を生み出す企業連合『Kii コンソーシアム』も発足しています」(荒井氏)。

シスコとの包括業務提携で全世界へのサービス展開を加速

 Kii が展開する IoT のバックエンド ソリューションは、キャリア グレードの信頼性を備え、ビッグ データのフレームワークも用意されている等、数々の特徴があります。その中でも特に注目すべきポイントが 2 点あります。

 第 1 は幅広いデバイスに対応し、高い相互運用性を実現していることです。荒井氏は IoT の標準化動向について「デバイス等と接続するためのプロトコルや、デバイスから集められたデータのセマンティック(意味)を標準化しようという取り組みは、複数の企業やコンソーシアムが個別に進めており、全てを一本化することは困難な状況です」と指摘します。Kii はこのような状況を前提に、多様なプロトコルやセマンティックの間でのコンバージョンを、ルールエンジンによって自動化することで、相互運用性を広げていると説明します。

 第 2 は、全世界で共通のサービス提供を前提にしていることです。Kii は日本、米国、欧州、シンガポールにデータセンターを設置し、これらの間でデータの相互運用を行える体制を整えています。中国はグレート ファイアウォールが存在するためこれが困難でしたが、アリババが提供する IaaS の上に Kii のクラウドを載せることで、日本のデバイスから収集したデータを、そのまま中国でも扱えるようにしていると荒井氏は言います。

 「今回シスコの出資を受け入れてチーミング アグリーメント(包括的な協業契約)を締結したのは、シスコと一緒にビジネスを行うことで、全世界への展開が容易になると判断したからです」と荒井氏。ビジネスの進め方としては、Kii のクラウドを活用してシスコがソリューションを提供する、Kii のクラウドとシスコのクラウドを連携させる、といったことが視野に入っていると語ります。「ぜひシスコと共にスマートな世界を実現したいと考えています」。

シスコの7階層アーキテクチャとその導入実績

 ファナックとの共同ソリューション開発、Kii への資本参加の紹介を行った後、鈴木はシスコが提唱する IoT のアーキテクチャと、注力分野における実績に関するプレゼンテーションを行いました。

 IoT の 4 要素への包括的な対応を行うため、シスコは 7 階層で構成されるアーキテクチャを提唱、実際の製品として具現化しています。まずさまざまなタイプのデバイスをエッジに接続し(第 1 階層)、セキュアなネットワークによってコネクティビティを提供(第 2 階層)、エッジ コンピューティングやフォグ コンピューティングによって、クラウドに到達する前にある程度の処理を行います(第 3 階層)。その上でクラウドにデータを蓄積(第 4 階層)、データを抽象化した上で(第 5 階層)、アプリケーションで分析やレポーティングを実施(第 6 階層)、その結果をさらにコラボレーションやビジネス プロセスへとつなげていきます(第 7 階層)。

Internet of Thingsを実現するアーキテクチャ

 このアーキテクチャに基づくソリューションは、すでに複数の企業に導入され、効果を発揮しています。ファナックと共同で開発した ZDT ソリューションもその一例です。鈴木はこの他にも、マザックにおける「CNC 工作機械稼働状況モニタリング ソリューション」や、富士通グループの山梨工場における取り組み、京都府が推進するスマートシティ実現への取り組み、国際スポーツ競技会におけるモバイル デバイス活用ソリューション、Stadium Vision Mobileの事例を紹介します。

 「スポーツ競技会の事例では、フィールドのカメラ映像を観客のスマートフォンやタブレットに配信するだけではなく、会場のサイネージでも表示しています。ここで広告を乗せることでマネタイズも容易になります。2020 年の東京オリンピック開催に向けて、今後さらに活用が広がると期待しています」(鈴木)。

IoE イノベーションセンターの紹介

 記者発表会の最後には、シスコ六本木本社 27 階にリニューアルされた「IoEイノベーションセンター」の紹介も行われました。IoE イノベーション センターは、シスコの IoT エコシステム パートナーと共に推進しているソリューションを、実際に見ていただくための取り組みです。このエコシステムのパートナーとしては、これまで 10 社が名を連ねていました。そしてこの度、先ほど紹介した Kii も、新たな 11 番目のパートナーとして参画することが決定しています。

IoEイノベーション センター エコシステムパートナー様と主な取り組み

 IoE イノベーションセンターでは、これらのエコシステム パートナーのソリューション ショーケースが円形の部屋の中に配置され、実際に動く様子を見ることができます。ファナックと共同開発した ZDT ソリューションも、近日中に設置される予定になっています。

IoEイノベーションセンターショーケース

 「シスコは IoT を実現するためのアーキテクチャや、それを具現化する幅広い製品ラインアップを提供していますが、それだけにとどまらず『IoT のマーケットを創っていく』という観点からも、積極的な投資を行っていきます」と鈴木氏。OpenFog コンソーシアムの発起人になるなど標準化にもコミットし、積極的にリーダーシップを取っていくと語ります。「IoT はこれまで繋がっていなかったモノをつなげていくことです。『つなげていく』のはシスコが最も得意とすることであり、その能力を最大限に活かしながら、IoT マーケットの拡大に貢献していきたいと考えています」。