Time Division Multiplexing(TDM; 時分割多重)ベースのアーキテクチャを採用しているプラットフォームでは、Cisco IOS(R) ソフトウェアがデフォルトとするクロッキング モードに関連する複数の問題や症状があります。
症状
問題の症状には次のようなものがあります。
Plain Old Telephone Service(POTS; 一般電話サービス)と VOIP 間、および POTS から POTS へのコールで発生する単方向のみの音声または、両方向での無音声。
モデムの学習機能の不具合。
不完全なファックス通信、または行の欠落。
ファックス接続の障害。
VoIP コールでのエコーおよび音質低下。
通話中に聞こえるスタティック ノイズ。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
デジタル(Pulse Code Modulation[PCM; パルス符号変調])音声を送受信する音声システムは、常に、受信するビット ストリームに組み込まれたクロッキング信号に依存しています。接続デバイスは、このビット ストリームからクロック信号を回復し、この再生クロック信号を使用して、他のチャンネルのデータが同じタイミング関係を維持していることを確認します。デバイス間で共通のクロック ソースが使用されていない場合、デバイスでは誤ったタイミングで信号がサンプリングされるため、ビット ストリームのバイナリ値が誤って認識されてしまう可能性があります。たとえば、受信側デバイスのローカル タイミングが、送信側デバイスのタイミングの間隔よりわずかに短い場合、1 が 8 個続くバイナリ ストリングが、1 が 9 個続くものとして誤って認識される可能性があります。このデータが、さらに異なるタイミング基準を使用する別のダウンストリーム デバイスに送信されると、エラーがさらに複合する可能性があります。ネットワーク内の各デバイスが同じクロッキング信号を使用していることを確認していれば、ネットワーク全体でのトラフィックの整合性が保証されます。
デバイス間のタイミングが維持されていないと、同期外れ(クロック スリップ)という状態になる可能性があります。定義では、クロック スリップとは、バッファの読み込み速度と書き込み速度の不一致により、同期データ ストリームでビット(またはビット ブロック)が重複したり欠落したりすることを指します。スリップが発生するのは、機器のバッファ ストアやその他のメカニズムが、入出力信号間のフェーズや周波数の差異に対応できないことが原因です。これが発生するのは、出力信号のタイミングが入力信号のタイミングから導出されていない場合です。
T1 および E1 インターフェイスは、内部でビット パターンが繰り返されているフレームと呼ばれるトラフィックを送信します。各フレームのビット数は固定で、これにより、デバイスでフレームの始めと終わりが判断できます。これにより、受信側デバイスでは、そのフレームの終わりを正確に予測できます。着信した適切なビット数をカウントするだけです。したがって、送信側デバイスと受信側デバイスの間のタイミングが同じでない場合、受信側デバイスは誤ったタイミングでビットストリームをサンプリングし、その結果、誤った値が返される可能性があります。
これらのプラットフォームでは、Cisco IOS ソフトウェアでクロッキングが簡単に制御でき、TDM 対応ルータのデフォルトのクロッキング モードはフリー ランニングになっています。つまり、インターフェイスから受信されたクロック信号はルータのバックプレーンには接続されず、ルータの他の部分と他のインターフェイス間での内部同期には使用されません。したがって、ルータは内部クロック ソースを使用して、バックプレーンや他のインターフェイスにトラフィックを渡します。
データ アプリケーションでは、パケットが内部メモリ内にバッファリングされてから宛先インターフェイスの送信バッファにコピーされるので、通常、これによる問題は発生しません。パケットはメモリに読み書きされるので、ポート間でのクロック同期は不要です。
デジタル音声ポートには別の問題があります。Cisco IOS ソフトウェアでは、特に設定しない限り、バックプレーン(または内部)のクロッキングを使用して Digital Signal Processor(DSP; デジタル信号プロセッサ)へのデータの読み書きを制御します。 デジタル音声ポートで PCM ストリームが受信される場合、受信ビット ストリームには外部クロッキングが使用されています。しかし、このビット ストリームでは、必ずしもルータのバックプレーンと同じクロックを参照していない場合があるため、DSP では、コントローラから受信したデータが誤って解釈される可能性があります。ルータの E1 や T1 コントローラで見られるこのようなクロッキングの不一致を、クロック スリップと呼びます。つまり、ルータでは内部クロック ソースを使用してインターフェイスからトラフィックを送信していますが、インターフェイスで受信されるトラフィックでは、まったく別のクロックが参照されています。最終的に、送信と受信信号のタイミング関係の差が大きく拡大すると、インターフェイスのコントローラで受信したフレームにスリップが登録されます。
最近の Cisco IOS ソフトウェアのプラットフォーム(AS5350、AS5400、7200VXR、2600、3700、および 1760 など)では、TDM ベースのアーキテクチャの実装が異なっており、ルータのバックプレーンや別のインターフェイスのポート間でクロッキングが伝搬されるようになっています。上記のすべてのプラットフォームでは、クロッキング モードの設定に、異なる Command-Line Interface(CLI; コマンドライン インターフェイス)コマンドが使用されています。これはインストールされているハードウェアによって異なります。構文上の差異はありますが、デジタル音声ポートからクロッキングを回復すること、さらに、他のルータの動作でもこの信号を使用することが、コマンドでルータに指示されます。
これらのコマンドはいずれもデフォルトではないので、最初はルータのコンフィギュレーション ファイルでこれらのコマンドは指定されておらず、それらの重要性が理解されることもありません。
ほとんどの場合、E1 や T1 インターフェイスでクロック スリップをチェックすると、この問題を確認できます。show controller {e1 | t1}コマンドを確認します。
Router#show controller e1 0/0 E1 0/0 is up. Applique type is Channelized E1 - balanced No alarms detected. alarm-trigger is not set Version info Firmware: 20020812, FPGA: 11 Framing is CRC4, Line Code is HDB3, Clock Source is Line. Data in current interval (97 seconds elapsed): 0 Line Code Violations, 0 Path Code Violations 4 Slip Secs, 0 Fr Loss Secs, 0 Line Err Secs, 0 Degraded Mins 4 Errored Secs, 0 Bursty Err Secs, 0 Severely Err Secs, 0 Unavail Secs
このログでは E1 インターフェイスでの断続的なクロック スリップが示されています。
問題を解消するためには、Cisco IOS ソフトウェアの設定コマンドでデフォルトのクロッキング動作を修正する必要があります。クロッキング コマンドを適切に設定することはきわめて重要です。
次のコマンドを追加します。
network-clock-participate wic slot :ここで、slotは、E1またはT1マルチフレックストランクモジュール(MFT)がインストールされているWANインターフェイスカード(WIC)スロット番号です。
注:複数の音声およびWANインターフェイスカード(VWIC)がインストールされている場合は、コマンドを適切に繰り返す必要があります。
2600プラットフォームでは、単一のポートE1またはT1 VWICが物理的にWICスロット1に装着されていて、他のVWICモジュールが取り付けられていない場合は、WIC 0と呼ぶ必要があります。Cisco IOSソフトウェアの設定は、コントローラT1またはE1 0/0/0
network-clock-participate aim slot:slotは、Advanced Integration Module(AIM)がインストールされているスロットです。
これは、最大で 2 つの AIM モジュールに対応するためのソケットがメイン ボードにある 2691、366x、および 37xx の各プラットフォームにだけ適用されます。スロット番号は 0 または 1 です。
network-clock-select priority {E1 | T1} slot:slotはインターフェイスのカードまたはスロットです。
ルータがプライマリ(最優先)クロック ソースとして正しいインターフェイスを使用するには、このコマンドを追加して、システムのクロッキング優先度を設定する必要があります。クロッキング階層を設定するには(プライマリ ソースがダウンした場合に備えて)、各インターフェイスでのそれぞれの優先順位で、このコマンドを繰り返してください。
network-clock-select 1 e1 0/0 network-clock-select 2 e1 0/1
クロッキングの設定を検証するには、show network-clocks コマンドを発行します。
2600#show network-clocks Network Clock Configuration --------------------------- Priority Clock Source Clock State Clock Type 1 E1 0/0 GOOD E1 5 Backplane GOOD PLL Current Primary Clock Source ---------------------------- Priority Clock Source Clock State Clock Type 1 E1 0/0 GOOD E1
これは、AIM-VOICE-30 モジュールが装備されていて、WIC 0 に E1 VWIC がインストールされている 2600 ルータでの設定です。
network-clock-participate wic 0 network-clock-select 1 e1 0/0
これは、スロット 0 と 1 に AIM-VOICE-30 がインストールされていて、WIC のスロット 0 とスロット 1 にシングルポート T1 VWIC がインストールされている 2691 ルータの設定です。
network-clock-participate wic 0 network-clock-participate wic 1 network-clock-participate aim 0 network-clock-participate aim 1 network-clock-select 1 t1 0/0 network-clock-select 2 t1 1/0
詳細については、『Cisco 2600 シリーズと Cisco 3660 での AIM-ATM、AIM-VOICE-30、および AIM-ATM-VOICE-30』の「ネットワーク クロック ソースと役割の設定」セクションを参照してください。
注:PBXに接続されたPRIを設定する場合は、ルータにclock source internalコマンドとisdn protocol-emulate networkコマンドが設定されていることを確認します。
7200 では、次のコマンドを追加してください。
frame-clock-select priority {E1 | T1} card/slot
たとえば、スロット 2 に PA-VXC-2TE1 カードをインストールする場合です。
frame-clock-select 1 t1 2/0 frame-clock-select 2 t1 2/1
システム クロッキングを検証するには、show network-clocks コマンドを発行します。
7200VXR での詳細については、『PA-VXA、PA-VXB、および PA-VXC の設定』の「カード タイプの設定が必要」セクションに記載されているステップ 8 を参照してください。
Catalyst 4000 音声ゲートウェイの詳細については、『Cisco IOS リリース 12.1(5)T 用 Catalyst 4000 Access Gateway Module のリリース ノート』の「TDM クロッキング」セクションを参照してください。
これらのゲートウェイには、特定の E1 や T1 インターフェイス、内部クロック、あるいは外部ステーション(BITS)のクロック ソースに、クロッキングを同期できる機能が備わっています。デフォルトでは内部クロックと同期します。次のコマンドで、システム クロッキングの変更ができます。これは、使用している Cisco IOS ソフトウェアのバージョンにより異なります。
Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.2.11T 以降
tdm clock priority priority card/slot
Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.2.11T よりも前
dial-tdm-clock priority priority card-slotcard/slot
システム クロッキングを検証するには、show tdm clock コマンドを発行します。
詳細については、『AS5xxx シリーズ ネットワーク アクセス サーバのためのクロック同期』を参照してください。
これらのデバイスでは、クロッキングに異なるコマンドと用語を使用しています。音声モードの動作では、クロッキングはエクスポート(回線やインターフェイスから外部的にクロックが取られる)されるか、インポート(ルータの内部発振器や他のポートまたはインターフェイスから、ポートのクロックが取られる)される場合があります。
tdm clock {T1 | E1} slot/port {voice | data | both} export line !--- Issue this command on one line: tdm clock {T1 | E1} slot/port {voice | data | both} import {T1 | E1 | atm | bri | onboard} slot/port {line | internal}
「インポート」という言葉は、クロッキングが、ルータの内部発振器からではなく、参照先のポートやインターフェイスから直接取られるように解釈できるため、この「インポート」と「エクスポート」という用語は混乱を招く可能性があります。
詳細については、『Cisco 1751/1760 ルータのクロック設定』を参照してください。
MC3810 でも network-clock コマンドを使用してクロッキングを同期します。
network-clock-select {1-4} {T1 | E1 | Serial | System} slot/port
『Cisco MC3810 マルチサービス アクセス コンセントレータソフトウェア コンフィギュレーション ガイド』の「同期クロックの設定」で、可能性のあるシナリオについて説明しています。